第24話 ドワーフの願い ④

「本命地点でビンゴだな」


 4つ目の岩山で、ひときわ大きなハーピーを見つけた。

 周りをつき従えていて、あれがクイーンでちがいない。


「それではエンリケ様、全滅させるまでこちらで待っていて下さい。ケガハエール草があったら合図を送ります」


「はい、ご武運を!」


 騎士たちからも声援をもらい、ヒナタと2人で上っていく。


 2回目からヒナタにも、ビニール傘戦法に加わってもらっている。


 ハーピー狩りは影魔法の練習にもってこいだ。


 混乱させれば敵はほぼ動かないので、苦手な距離感をつかみやすい。


「えい、ありゃ。そこだー、むむむ。やっぱムズいーーーー!」


〈ヒナタちゃん、がんばれーw〉

〈いっけーーー!〉

〈バトルなのにほっこりするわ〉

〈かわゆい〉


 うん、練習、練習。


 まあ下で待っているし、ある程度で切り上げる。

 ほとんどは俺が倒し、残すはハーピークイーンのみとなった。


「青空くん、お願いしていい?」


「ああ、任せてくれ」


 ハーピークイーンといっても、ザコより多少強くなっただけ。


 派手なキメ技でいくかと考えたが、クイーンでもビニール傘戦法が通用するのを伝えたい。


 傘をバサッとひらけ、のけ反るのを確認する。

 視聴者にも分かるよう3秒ほどおき、ザクザクと刺す。


「ふぅ、終わりましたー」


〈おつかれーw〉

〈瞬殺かよ〉

〈青空が強いのか、ハーピーが弱いのか分からなくなるぜ〉

〈後ろに見えるのがケガハエール草?〉

〈めっちゃ生えているじゃんか!〉


 大きな巣の周りに、ビッシリと生い茂っている。

 1本1本がしなやかで力強く、ケガハエール草の名に相応しい生命力だ。


「俺は周囲を警戒しておくから、ヒナタは合図をしてくれるか?」


「オッケー。あれれ、エンリケさんたちどこにもいないよ?」


 目立つ格好の3人だから、見落とすはずがない。


 なのに、どこを探しても見つからないんだ。


「えええ、大人なのに迷子なの~。やっぱ私が残ればよかったよ」


「いや、もう少し探してみよう」


 他に目をやると木々が揺れている所がある。


 と次の瞬間、その木が上空高く吹き飛んだ。


『グオオオオオンンンッッ!』


 咆哮と威嚇のドラムが聞こえ、また木が吹き飛んだ。


「マズイ、3人が襲われている!」


「ええ、急ぎましょ」


 間に合ってくれと願い必死に走った。


 この山には色々なモンスターがいる。


 ジャイアントスパイダーやスプリングボアなら護衛の2人で容易たやすく勝てる。


 だけど中には小隊規模でないと負けてしまうC級モンスターもいる。

 そいつらでない事を願うしかない。


「青空くんみえてきたよ。ほら、あそこ!」


 背中のヒナタが指さす方向には、3人と真っ黒で毛むくじゃらの怪物がいた。


「C級のアシュラコングだ。ヒナタ、ここで影に潜って!」


「う、うん」


 5mを超える筋肉だるまのアシュラコング。


 逃げるべき相手なのに、エンリケさんは剣をかまえ血だらけだ。


 それと彼の後ろに倒れている2人の騎士の姿がみえた。


「だから動かないのか」


 彼らを守るため逃げ出さず、踏ん張っていたのだ。


 全くもって貴族らしくない振るまいだ。


 この異世界での命の優先順位をムシしている。


 本来なら命を賭して守られる相手はエンリケさんの方だ。

 騎士たちはそれが誇りであり、存在意義になる。


 当たり前な事なのに、逆の行動をする。


 だからこそ、あんなに慕われているのだな。


 その踏ん張りのおかげで、間一髪まにあった。


 エンリケさんとアシュラコングの間に割り込む。


〈ぎゃー、デカいーー!〉

〈いけーカバ殺し。こいつも殺ってキ○グコングスレイヤーもゲットだぜw〉

〈こらあおるな。逃げた方がいいよ〉

〈クジラやってるし楽勝だろ笑〉

〈バカバカバカ、魚の肉とゴリラとじゃあ段ちの硬さだよ。剛毛の鎧も舐めんじゃねえ〉

〈クジラ=哺乳類では?〉

〈どっちでもいいわーーーーーーー!!!〉


 いつものにぎやかしだな、この人たちは放っておくか。


「エンリケ様、今の内にポーションを!」


「あ、青空殿、いけません。これは高い防御力だけでなく、強い再生能力もあるのです。私たちは良いのでお逃げください!」


「ええ、知ってます。だから助けにきたんです」


「あ、青空殿?」


 斬っても斬っても立ち向かってくるその恐怖。

 それに6本の腕での攻撃が加われば、誰も相手にしたくなくなる。


 コレを攻略するなら、殴られる前に斬り、回復される前に滅するだ。


「喜べよ、アシュラコング。お前にぴったりな技があるぞ。いくぜ! 〝覇王剣・四面縦横賽しめんじゅうおうさい〞」


『ごほっ?』


 幾つもの斬撃で、サイコロ状に体を切り裂く。

 血が吹き出すよりも早く、肉塊となり崩れおちた。


 それでも肉塊はまだうごめいていて、互いにくっつこうといている。

 だけどひとつ一つの塊が小さすぎて、やがてその活動をやめた。


「ふうっ、これで安心ですよ。上にお目当ての。あ……あれ、みんなどうしましたか?」


 3人とも目が点になっている。

 刺激はあったけど、言うほどじゃないはず。


 それが証拠に視聴者たちも。

 むむむ、モニターのコメントすら止まっている。


 こ、これはやりすぎたかな?


「え、えっと」


「………」


 返されるにぶい視線と沈黙がツラい。


 まだ3人はうつろな状態で、全然こちらに戻ってきそうにない。

 ここは俺が場を和ませなければ、出口はないだろう。


「こ、こうやってバラバラにすれば、ほら、簡単に魔石もとれて手間いらずです、はい」


「そんな事、誰ができるんですかーー!」


〈御曹司のツッコミきたw〉

〈マネなんて無理だろ〉

〈こま切れゴリラ笑〉

〈強いにも程があるぞw〉

〈また成長してて草〉


 若干スベっているけどなんとか成功。

 だけど今度は逆に、実現不可能だと笑われる。


「と、ともかくケガハエール草はありましたよ。巣の周りにビッシリです」


「おおおおおおおお!」


 放っておいたら延々と責められそう。

 うまいタイミングで話をそらせれたよ。

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