第23話 ドワーフの願い ③

 次の日、太陽が登る前に城門を出た。


 目標はハーピークイーンの巣。

 ハーピーの生息地は点在して広範囲だ。


 ただおおよその場所は見当がついている。

 見晴らしの良い岩山となると、数はすくない。

 それを一ヵ所ずつ回ればいい。





「うーん、やはりクイーンとなると巣は一番上かあ。近づかないと見えないな。ヒナタはどう思う?」


「そうね、これだと全滅させないと確認は無理ね。手間になるわねえ」


 最初のポイントについた。


 予想はしていたけど、ケガハエール草が生えているかだけを確認するとはいかなさそうだ。


 ここからは生配信をはじめ、狩りの様子を伝えていく。

 昨日はできなかった事も紹介するつもりだ。


 まずは様子をみての作戦会議だ。


 きっと実行部隊はオレ一人だが、護衛の騎士がいるので無しって訳にはいかない。


 それに一旦戦闘が始まれば途中で終わらない。

 子種を欲しがるハーピーに、ブレーキはついていないからキチンと備えてもらいたい。


「若様、本当にやるのですか?」


「いまさら何を言う」


 始めようとするが、おつきの騎士は及び腰だ。

 ハーピーの鳴き声と姿に吐き気をもよおしている。


 仕方ない、助け船をだすか。


「殲滅は俺がやりますよ。騎士殿はエンリケさまの護衛に専念してください」


「ひ、一人でするつもりか! それは無理だろ」


「まあ、見ていてくださいよ」


 エンリケさんからの太鼓判もあり、予定通りソロでのアタックだ。


 こちらは視聴者にむけて話していくか。


「それではお待たせしました。今日は飛行モンスターへの対処の仕方。これをお伝えしますね、最後まで見ていって下さい」


〈ほーい〉

〈うほほ、有り難いw〉

〈うん、遠距離攻撃ない身には朗報かもね〉〈楽しみですー〉


「まずは透明のビニール傘を用意します」


〈はあ?〉

〈ふむふむ、ビニール傘ですな。って何それ笑〉

〈フン避け?〉

〈出ました、青空王子節!〉


「まあ、みなさんも見ていてください」


 騒いでいるのもかまわず、ハーピーに見つかるよう近づいていく。


〈盾にするのかな?〉

〈無防備すぎる〉

〈ドキドキ〉


 こちらに気づいた一羽が、他に盗られまいと声を殺してやってきた。


 その距離は50m、30mとどんどんと縮まる。


〈はよ、やばいって!〉

〈さらわれるよーーーーーー〉


 コメントが流れるけど心配はいらない。

 そのためのビニール傘だ。


 あと10mとなった所で傘を前方に広げる。


『ギョギョギョエエエ!』


 ハーピーは寸前で急ブレーキ。傘のすぐ前で止まった。


〈おおおお、威嚇か〉

〈いったれーー!〉

〈おもろw〉


 と騒ぐコメントに手を振りこたえる。もちろんカメラ目線でしっかりと。


〈えっ、よそ見はダメだろ〉

〈はよ、やばいって!〉

〈舐めプはやめなよ〉


「違うんです。ハーピーはこれで動けないんですよ」


〈へっ?〉

〈へっ?〉

〈へっ?〉


 しばらくそのままにしてもハーピーは動かない。

 薄目をあけてのけ反っているだけ。


 しかも腹を見せて隙だらけ。

 そこに傘ごとエイッと剣で突き、楽々と討ち取った。


〈何がおこっているの?〉

〈はよ、答え合わせをしておくれ!〉

〈また奇跡をおこしやがったな〉

〈あー、そういう事か、わかったぞ〉

〈毎度、わかったと嘘はやめい〉

〈青空くーん、教えてー〉


「ははは、予想した人はおおよそ合っています。それプラスで話しますね」


〈焦らさずにお願い〉

〈プラス?〉

〈全然わからん笑〉


「要はエリマキトカゲと同じ威嚇です」


「おおお、なるほど~」


 毎度のこと、ヒナタもいち視聴者になっている。

 クスッと笑ってしまうが、ヒナタは気づいていないな。


 だけどそれだけでは隙は一瞬だし、何匹もいたら効果はない。

 それ以外の要素がいる。


「実は透明な部分で魔力と光の反射をさせて、ハーピーを戸惑わせているんです」


 むかしに海辺のカモメじゃないけれど、映画をヒントにやってみた。


 すると驚き方がおかしい。


 さしたり閉じたりと繰り返すと、ふらふらしだす。


 しばらく裸眼と魔力で観察すると、光と魔力に混乱していると分かったんだ。


 もうひとつの工夫は、前が見える透明で安いビニール傘にかえたこと。

 こっちからは丸見えなのに、むこうはそれどころじゃない。


「もしかしてそれもオリジナル?」


「もちろん!」


〈すっげーーーー!〉

〈こんな馬鹿な事を試すって笑えるわ〉

〈ほら、思ったとおりだぜ〉

〈嘘やめい〉

〈魔力が見えるのが重要か、なるほど〉


 それと傘は破れても大丈夫。その部分が更なる乱反射をおこすんだ。


 時たま姿を見せて誘い込み、来たところを狩っていく。

 巣に撃ち落とす心配もなく、最後の一匹まで討ち取った。


「ふう、クイーンはいないか。ハズレだな」


「しょうがないわね、魔石だけ取って次に行こ」


「それならハーピー版の魔石取りを教えるよ。特殊なんで面白いよ?」


〈キターーーーー!〉

〈今日は当たり回だわ!〉

〈いやいや、今日もだろ〉

〈でもこの繁殖期に試すのは度胸いるわw〉

〈あざーーす、青空師匠〉


 まずはハーピーを寝転がった状態にする。

 その正面に顔を近づける。

 顔面のドアップ、キショいのでこれが嫌な人もいそう。


「ここで〝ルールル〞と言ったあと大きく〝ポン〞と唇を鳴らしてください。いきますよ、ルールル、ポン!」


 ──ブリッ!──


 音と魔力の振動で体の中が緩み、ポンと圧力を加えると、お尻の穴から勢いよく飛び出てくる。


〈玉子を産んでいるみたいだな笑〉

〈刃物すら使ってなくて草〉

〈鳥だから尻なのか?〉

〈めっちゃ楽じゃんか、ありがとう王子〉

〈もう驚きませんよ、あなたにはw〉

〈これは面白い、はようやりたいーーー〉


 コメントは大にぎわいだ。


「私もーーー! ルールル、ポン。あははははははははーーーー。ルールル、ポン。おもしろいねえ」


「ヒナタ、うまいぞ」


 ヒナタは操る影にカメラを持たせて、器用に撮影をしている。便利な影の使い方だ。


 次があるし、手分けして魔石を取っていくか。


 ルールル、ポン。

 ──ブリッ!──


 ルールル、ポン。

 ──ブリッ!──


 ルールル、ポン。

 ──ブリッ!──


「あ、青空殿、私も良いですか?」


「もちろんですよ、エンリケ様」


「こ、こうですかね。ルールル、ポン。おおおおお、できたあ!」


 エンリケさんは大喜びだ。これも広めて良いかと聞いてくる。

 いちいち聞かなくてもいいのにな。


「ですが、パクりは……」


「いいんですよ、みんなに使ってもらえる方が俺もうれしいです」


「そうですよ。でも青空くんの技って事はちゃんと伝えてくださいね」


「こら、ヒナタ!」


「ははは、それ位はお安いご用です」


 ヒナタの明るさで軽く事がすすむ。

 知らないとはいえ、貴族相手に大した度胸だよ。


「あの~、私たちも良いですか?」


「ええ、騎士殿もどうぞ」


「おおおおおお、ありがたい!」


 護衛そっちのけなのは頂けないが、みんな楽しそう。


 まあ、こうしてこの地でのクエストをはじめていった。

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