第22話 ドワーフの願い ②

 ようやく街につき、エンリケさんを城までお連れした。


 今日はまだまだやりたい事だらけ。

 ゆっくりとしていられない。


「では、俺たちは探索者ギルドに行くのでここで失礼します。じゃあ!」


「青空殿、お待ちを! お礼がまだですし、ぜひ中へお入りください!」


「いえいえ、気にしないで下さいよ」


「ダメです。このまま帰す訳にはいきません!」


 ズイッと出てくるエンリケさん。

 そして俺らの後ろには、取り囲むように使用人たちがいてプレッシャーがハンパない。


「そ、それじゃあ、少しだけ……」


 計画が崩された。




「う~わ、きれーーい。はぁぁぁああ、ほえええ、ふんあああああ!」


 ヒナタのため息がとまらない。


 エンリケさんの治療中に、通された部屋はひと言で言えば豪華絢爛。

 白い壁が美しく、The・貴族のお城といった感じだ。


 それと飾られている武具も迫力がある。


「すごいよ、青空くん。これドラゴンアーマーって書いてあるよ。それにアイスソードだってさ!」


「ああ、圧巻だな」


 ものすごい魔力を秘めた逸品ばかり。


 命を持たない物なのに、オーラを漂わせている。

 ドワーフの最高峰の技術が、ここまでとは思わなかった。


 しばらく夢のような時間を堪能したあと、食事の用意ができたと別の部屋へと案内された。


 部屋にはエンリケさんのうしろに数人のドワーフ。

 立ち位置からして家臣のようだ。


 みんな屈強でドワーフらしいあごひげがあり、そのぶん頭頂部の毛量はさびしく、もれなく全員ハゲている。


 エンリケさんとは対照的だな。


 その中の1人が話し出す。


「我がゴイゴイ子爵家の嫡男エンリケ様をお救いいただき、誠にありがとうございます。当主アレクサンダー様が不在のため、我ら家臣一同がかわって御礼を申しあげます」


「これはご丁寧に、青空呼人といいます」


「七海陽菜です」


 重いアイサツのあと、心ばかりのおもてなしだとして豪華な食事会が始まった。


 ドワーフ風らしく家臣も同席している。


「どわっはっはっはー、ハーピーを全滅させるとは青空殿は豪快ですな!」


「ははは、恐縮です……」


 酒、酒、酒。食べるよりもお酒を飲む量が多い 。


 食事会というよりは宴会だ。俺らは飲まないが他はすでに出来上がった人ばかり。


「それにしてもうちの若様には困ったものです。お気持ちはわかりますが、古文書に振り回されておる」


「こ、こら、客前だぞ」


 俺が何がですと聞くまでもなく、酔った家臣は話を続けていく。


「毛生え薬ですよ、毛生え薬。それを求めて1人で出歩くとは、護衛する我らの身にもなってほしいものですよ」


 エンリケさんは家臣の無礼をうけ目を細める。家臣にいじられて恥ずかしそうだ。


 俺は前回の人生で彼のことを知っている。


 いや、異世界で彼のことを知らない人はいなかった。


 彼は将来、名君となりこの地方を導いていた。


 卓越した政治手腕、隙のない外交、そして何より経済を何倍にも発展させ、領内を盤石なものにした。


 そして彼が有名なのは、ハンデを持っていてその業績を成し遂げたことだ。


 そのハンデとは、ヒゲのないツルリとした顔。


 ドワーフ族において それは嘲笑の的だ。


 半人前として扱われ、受け入れられることがない。


 それほどの逆境にもかかわらず、全てをはねのけるほど彼には才能があったのだ。


「もーやってられねえって。エンリケ様、わかってます?」


「まあ、そう言うな」


 だけど後を継いでいない今の彼には、あのカリスマ性はまだない。

 どちらかというか愛されキャラだ。全然イメージとかけ離れている。


 面食らっているそんな俺たちに、苦笑いのエンリケさんがその古文書とやらを見せてきた。


 相当ふるく所々読めないが、たしかに毛生え薬の文字とそのレシピが書いてある。


 その材料は10年に1度だけ、ハーピークイーンの巣に生えてくるとあった。


 しかも採取後すぐに作る必要があり、エンリケ殿はそのすべを心得ているらしい。


「も、もしかして?」


「はい、お察しのとおりです」


 これで謎がとけた。


 ヒゲの生えないこの地方の跡取りが、護衛も付けずに一人歩きをし、この時期で一番危険なモンスターにさらわれた。


 それは全て毛生え薬の材料となる、ケガハエール草を手に入れるためだったんだ。


 そして、それを打ち明けてきたって事はだ、次に何がくるか想像できる。


「そこで青空殿にお願いしたいのです。その採取を手伝って下さい。わたしにヒゲのある豊かな人生をお与えてください」


「わあ、青空くん。また新しい冒険が始まるんだね!」


 やっぱりだ。

 断る理由もないしヒナタも乗り気。


 まず一発目のクエストが貴族からだなんて、ツイている。

 この地で信用を勝ち取りたい俺としても有り難い話だ。


 今後のクエストも受けやすくなるし、予定よりも早く顔が売れそうだ。



「はい、いいですよ。ですが俺も探索者です。クエストとして依頼をしてください」


「おおおお、やはり貴方はこころの広い御方だ。このエンリケ、感動いたしました!」


 喜ぶエンリケさんのかたわらで、家臣たちが渋い顔をしている。


 ハーピーは危険だとか、毛生え薬など嘘だとかと説得にかかる。

 だがエンリケさんは早々とクエストの手続きまで済ませてしまった。


「わ、若様わかりました。ですが護衛の者は必ずおつけ下さい。御身おんみに何かあればアレクサンダー様に顔向けができません」


「……ああ、分かった」


「その目は絶対に抜けだす気でしょ。若様の考えている事などお見通しなのですからね!」


「チッ!」


 同行する二人を選び、明日の朝に出発することになった。


 ケガハエール草、あの小技もあるし難なく採取できるだろう。



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