第21話 ドワーフの願い ①

「頭をあげて下さい。貴方がたは命の恩人です。無礼だなんて思っておりません」


「な、なんて良いひとなんだ」


「いえ、貴方ほどではありませんよ。それと私の事はエンリケとお呼びください。地球の友ができうれしい限りです」


 俺らの必死の謝罪をエンリケさんは受け入れてくれた。

 普通なら怒り狂うのが当たり前。


 異世界は身分の上下がはっきりしていて、地球の基準は通じないんだ。


 その点を考えると、この人はかなり特殊な人物だ。

 カメラが回っているのも認めてくれている。


 無礼ついでではないが、状況を確認するため突っ込んだ話を聞いてみた。


「それにしてもお一人とは。お供の方はもしかしてハーピーに?」


「い、いえ、供はいません。一人で散策をしていた所を拐われたのです」


 それはおかしい。

 彼は子爵家の跡取りだから、単独行動はあり得ない。


 なにか言えない事情もあるだろう。

 これ以上せん索はできないし、無難な話題をふってみる。


「そういうば、シュワルツは鍛冶が盛んでしたよね?」


「ええ、名工が沢山いて、この国一番の宝です」


 道中は互いの世界の話をして進んだ。


 俺としては知っている事ばかりだが、ヒナタにとっては初めての事ばかり。


 文化や風習に流行りなど、目を輝かせて聞いている。


 そんなシュワルツの街まで距離はある。

 肩のケガもあるし、休みを取りながら歩いていく。


「ふう、喉が乾きましたね。青空殿、ナイフをお借りしてもいいですか?」


「ええ、どうぞ」


 手渡すとマジマジとナイフを見つめている。


「手入れの行き届いた良いナイフですね」


「いえいえ、古いナイフでお恥ずかしいです」


 武器の街の者らしく、細かなところまで見ているのに感心させられた。

 この方もやはり根っからのドワーフだな。


 そして近くに生えている蔦を切ると、切り口からシューっと水が出てきた。

 エンリケさんはそれをおもむろに飲み始める。


「お二方もどうですか? 冷たいですよ」


「わぁ、すっごーい。いただきますね」


 これは現地でよく知られている水分の調達方法だ。

 それをエンリケさんは気さくに教えてくれた。


「うわぁ、美味しい!」


 特にこの蔦はスポーツ飲料みたいな味で、地球人でも飲みやすい。


 ヒナタの喜ぶ姿を見て、エンリケさんも嬉しそうだ。


 俺も飲み十分に喉をうるおした。


「ふぅ、生き返った。ありがとうございます」


「これがこちらでの知恵です。ペットボトルはいらないんですよ」


「うわぁすごい、よくご存知なのですね」


 ヒナタもビックリ。


 この人は情報を大切にしているようだ。

 何気ない会話からもよくうかがえて、俺はすごく好感がもてた。


 ヒナタも楽しく会話をつづけている。


 打ちとけた会話を聞きながら、俺はこの後始末にかかる。


 黒と白の石をひろい、切り口をこすりつなぎ合わせた。


「これでよし」


 こうしておけば、この蔦もまた生きる。


 いっぱいえているから必要ないのだが、ついソロときのクセは抜けない。


 それにしても、こんな風に誰かと楽しく笑い合いながら異世界を歩くとはな。

 自然を大切にしながらの何気ない日常についうれしくなるよ。


「あ、青空殿? い、いま何をされたのですか?」


 エンリケさんが会話を突然やめ聞いてくる。


 何の事か心当たりがない。俺の知らない無礼をしたのかと焦った。


「いま切ったつたをくっつけましたよね? ど、どんな魔法を使ったのですか。もしや最高位の回復再生術では?」


「いえいえ、雑技で大した事じゃありませんよ。買いかぶらないで下さい」


 何かと思えばただの誤解、ふうっと胸をなでおろす。


 これはあの武器の刃を研ぐ裏技の応用だ。


 反発と融合をおこし、石を縫い糸のかわりとしてくっつけた。


 それを丁寧に説明をし、魔法などでないと伝えておく。


「な、なんと! 我らでは考えつかないその発想。まさしく賢者の領域だ。それにあの剣さばきといい、青空殿は只者ではありませんな」


「そ、そんな大した物じゃないですって。お、おい、ヒナタからも言ってくれよ」


「す、す、すごいわ。それなら千切れた腕だって元通りになるわよ! み、みなさーん、またまた青空がやっちゃいましたーー!」


「おおお、やはりそうでしたか。これぞまさしく人類の至宝、最高位の回復再生術なのですね」


「だからー、違うってーーー!」


 植物など単純なものだから出来ただけ。


 動物などでは、神経や血管のつながりが複雑すぎる。

 それを回復魔法というなら、100%でクレームが殺到する。


「ええええ、回復魔法じゃないの~?」


「俺のスキルは剣術だろ、魔法なんて一回でも使ったか?」


「だって青空くんは規格外じゃない。なんだったら空も飛びそうだもの」


「あのな……」


 誤解はとけたはずなのに、それでもまだエンリケさんの表情が明るい。


「そ、それは残念。ですがその技自体は新たな発想。ぜひ我らでも使うことお許しください」


 軽くだけど貴族が頭をさげてきた。これはとんでもない事だ。


 前世でもそんな話など聞いたこともない。


 彼らは上にたつ者で、決して弱味は見せないものだ。


 逆にいえば、この人はそれだけ貪欲ってことだ。情報や技術の大切さを知っている。


「こんなので良ければどうぞ、どうぞ」


「おおおおおおお、なんてこころの広い御方だ!」


 この人は少し大げさすぎる。


 ちょっと圧倒されるし、助けを求めてヒナタを見る。

 するとモニターを指さしていた。


〈現地人を魔法関連で驚かせてて草〉

〈さすが青空王子、異世界でも圧倒的だな笑笑〉

〈貴族のあの顔w〉

〈いまの顔みた?唖然とするとはこの事だな笑〉

〈すげー気持ちいい〉

〈ていうか、あんな使い方あったのね汗〉

〈特許とれんじゃね?〉

〈王子かっこいい。どうぞ(キリッ!)きゃーー!〉


 また悪のりしている。

 さっき俺たちが謝り倒していたのを見ていたはずなのに、全然こりていない。


「おおお、やはり青空殿は地球の王太子でしたか。なるほど、納得ですな。気品もあふれ落ちつきもある。貴殿と知り合えた幸運を神に感謝いたします」


「あ、あのですね。それこそ誤解なんですよ」


「えっ、我らと交友を結ぶのがダメなのですか?」


「だ~か~ら~、そうじゃなくて~」


〈青空くんも十分失礼だよ?笑〉

〈悶える姿も良いですな〉

〈探索者デビューの前に社交界デビューしてて草〉

〈がんばれーw〉


 異文化交流って大変です。

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