第20話 こんな所で出会うとは ③

「ハーピーだ。マズイ、こっちを優先するよ!」


「力丸くんはどうするの?」


「ヒナタ、ハーピーの繁殖方法は聞いたことがあるだろ。急いで助けないと大変なことになる」


「そうだったわね。うん、急ぎましょ」


 ハーピーはメスしか生まれてこないモンスターだ。


 だから子孫を残すのに、他種族のオスから子種を奪い取る。


 ハーピーの容姿は顔と胸部だけが人間にちかく、あとは鳥の姿。

 そして体は汚く臭くて、顔は老いた魔女のように歪んでいる。


 そんなのに寄ってたかって子種を搾り取られ、全員の相手をするまで終わらない。

 挙句の果てに 、最後は生きたまま食い殺されるんだ。


 例えるならゴブリンの逆バージョン。地獄のハーレムを味わうことになるのだ。


 力丸と一瞬迷ったが、あの子は仮にも能力者だ。

 力丸の力と運を信じるしかない。


「追いついたらヒナタは隠れて。空中だと影では身が守れない」


「ごめんね、役にたたなくて」


「いや、逆さ。何かあったら教えて貰いたいからだよ、頼むよ」


「うん!」


 それよりもまずは追いつく事が先決だ。


 空と陸とでは、断然だんぜんこちらが遅れてしまう。


 見失わないよう飛んでいった方向と、汚い鳴き声をたよりに走り続ける。


「あそこじゃない? すごい数が飛んでいるわ」


 岩場に沢山の巣が作られて、ハーピーの集団がギョエギョエと騒いでいる。

 きっとオスに興奮して取り合っているのかも。

 繁殖期とは恐ろしいものだ。


「こ、こっちに来るな、化け物め」


 近づくと男の人はまだ抵抗している。


 上半身は裸だが、なんとか下は守りぬいているようだ。


 だけど四方から襲われていて、今にも押さえつけられそうだ。


「待てー、その人を放すんだ!」


 少しでも助けるために、殺気をとばし注意をこちらに向けさせた。


『ギョエ?』

『ギョエギョエ~♡』

『ギョエン♡、ギョエン♡』


「ヤッバッ!」


 ねっとりとした視線に舐めずる舌。

 それだけなら怖いで済むのだが、頬を染めているのには寒気がはしる。


 たじろいでしまい、足を岩場に取られよろめいた。


「あっ、しまった」


『ギョエエエエエ』


 近くの数羽が一斉に襲いかかってくる。

 大きな隙を見逃してはくれなかった。


〈逃げてーーー王子!〉

〈青空くんの貞操がピンチだ〉

〈放送事故を見るのか?〉

〈垢バンの危機じゃーーーー!〉

〈青空くんのは私のモノよ、ハーピーめタヒね!〉


「もう、みんな勘弁してくれよ」


 けた方向にモニターが見える。

 馬鹿馬鹿しいコメントおかげで、逆に冷静になれた。


 踏ん張り体制をたてなおし、剣をかまえて迎え撃った。


「触りたくないし、お前らにはコレだ。喰らえ、〝覇王剣・大空斬波たいくうざんは〞!」


『ギョエーーーーーー!』


 剣先から斬劇をとばし、離れた敵を攻撃する。


 その威力は強く、当たってもいない周りのハーピーまでも衝撃波でまきこみ墜落させた。


 ものの数秒のできごとだ。


 ハーピーたちは届くと思ってもいなく、仲間の死骸に驚いている。


 だけど、それよりも性欲の方が勝っているのか、お構いなしに突っ込んできた。


 かたまって来るから好都合だ。次々と討ち取っていく。

 残りもあっという間に蹴散らして、男の人を襲っている数羽も倒せれた。


「大丈夫ですか?」


 ぐったりとする男性を抱えおこす。


 肩は掴まれた傷が痛々しい。


 そして必死の抵抗をしたので満身創痍、疲れて息をきらしている。


「うううっ、もうダメかと諦めかけていた所です。ありがとうございます、助かりました」


 礼を言おうと体を起こすが、力が入らずこちらに倒れてくる。


 この人は体型からしてドワーフ族だ。


 なのに見た瞬間は分からなかった。

 それはドワーフの最大の特徴が見えなかったからだ。


「ねえ、青空くん。この人、おヒゲが生えていないね。なんだかドワーフらしくないわ」


「うっ……」


「あっ、言っちゃった」


「えっ、不味かったかな。ご、ごめんなさいね」


「ははっ、いいですよ。事実ですし……はい」


 ヒナタが慌てて謝るのを、やさしく笑って許してくれた。


 でもそれはドワーフにとって、大きな問題なはずだ。


 ドワーフは力強さの象徴として、たくましい体とヒゲを自慢にしている。ガチムチ自慢の集団だ。


 だけど目の前の人には、ヒゲはおろか胸毛やヘソ毛に腕毛にワキ毛、あらゆる毛がないのだ。


 つるつるでメンズエステ帰りみたいに美しい。


 それにシュッとしてドワーフらしからぬ美丈夫で、サラサラの髪の毛が妖艶さをひきたてる。


 はっきり言ってドワーフには見えない、筋肉マッチョの超イケメンだ。


〈きゃー、青空くんと抱き合っている!〉

〈絵になる。服を着ないでね〉

〈青空くんとのカラミが、生唾ものですw〉

〈これは薔薇の世界。18禁のチャンネルで見たいですわ〉

〈いい、この絡み良すぎです〉

〈リピート再生しなくては!〉


 はあ?


 これを見たドワーフも恥ずかしそうに服をたくしあげるが、肩の傷で動きが止まる。


「痛っ、ツ~~~」


〈痛がる姿もセクシーですわw〉

〈ごちそうさまです、ありがとう。おかわり希望です〉

〈投げ銭しましたので、もっと濃いのを下さいな〉

〈本当にドワーフ?イケメンすぎよん〉


 それがまた良いと大騒ぎ。悪のりしすぎのゾーンに入っているよ。


 魔法効果により言語は自動で翻訳される。会話や文字のすべてをだ。


 それをみんなは忘れているのか、この酷すぎる状態をこの人に晒しつづけているんだよ。


「みなさん、いい加減にしないとブロックしますよ?」


〈すみません泣〉

〈ごめんなさーい〉

〈ちぇ~残念〉


 こういうのは強め言わないと、地球の恥になる。


「それでドワーフさん、僕らはシュワルツを目指しています。お送りするのはソコでいいですか?」


 いつまでも遊んではいられない。

 この人を一刻でもはやく治療しなくちゃいけない。


 死にはしないが痛みは相当なものだろう。


 あいにくポーションはシュワルツで手に入れようとしていたので、手元にない。


 助けてあげるには街にいくしかないんだ。


「おおお、なんたる巡り合わせ。ぜひ城にお越しください」


「し、城!」


「あっ、申し遅れました。私はエンリケ・フォン・グラナドス・ド・フェネーレ・ゴイゴイと申します。ゴイゴイ子爵家の長男として、御二方を歓迎させて頂きます」


 すごい当たりを引いてしまった。


 なのに対応は最悪だ。貴族相手にイジリたおしたよ。


 ヘタしたら俺らの首が飛ぶかもしれないな。




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