第19話 こんな所で出会うとは ②
あれから数日後。
日本ではドワーフの街へ渡る橋は、隣の県にひとつだけだ。
いつものように2人で歩き、異世界へと突入した。
周囲は山岳地帯。
大きな山を迂回した所に、バババ帝国に所属する鍛冶の街シュワルツがある。
何かネタがあるかもと、早速配信をはじる。
〈おはよう、早いねー笑〉
〈わたしも頑張って早起きしましたよー〉
〈今日も楽しみw〉
〈おはようございます〉
〈おや、山の中ですか?〉
ひと通り挨拶をかわし、今回の目的をつげる。
「今日からドワーフの街で、クエストをこなしていきたいと思います。まずは探索者ギルドで登録を済ませますね」
〈未登録?〉
〈なるほど、異世界での初クエストですか〉
〈まだデビュー前とは草〉
〈陸クジラでしたのでは?〉
「はい、国が違いますからね。情報を共有させるための登録です」
〈なるほど~〉
〈そういう物なのね〉
〈どちらにしても初心者だよなw〉
「ははは、そうですね。初心者らしく慎重にいきますよ」
〈慎重にドラゴンを殺りそう笑笑〉
〈謙遜いりません〉
〈フリですな、ぷぷぷ〉
シュワルツにどんなクエストがあるのか楽しみだ。
それは視聴者も同じで、あれやこれやと予想する。
そう楽しく話しながら進んでいると、大きな声で名前を呼ばれた。
「あー、青空にハーレム一号じゃねえか。おまえら狩りでもしに来たのかよ? 生意気だな、へへへへへ」
このハイトーンな声にこの乱暴な呼び方。嫌な記憶がよみがえる。
幼顔なのにゴツイ体の傍若無人の小学生、力丸だ。
少し前に学校で散々暴れただけじゃなく、配信のコメント欄にも顔出し、荒らしに荒らしまくってくれた。
他の視聴者にもケンカを売るし、あの時は本当にマイッタよ。
反応すると調子にのるので、彼にはこっそりとサイレントブロックをかけてある。
機嫌良さそうな笑顔なので、その事には勘づいていないみたいだ。
「へーへへへへへへっ、へへへー」
まだ笑っている。
俺1人なら適当にあしらうのだけど、今日はヒナタが一緒だ。
横を見ると、苦虫を噛んだようなしかめっ面をしているし、立ち去るのが一番だ。
出来るだけ自然なかたちでいくしかない。
「こんにちは力丸。それじゃあな」
「おいおい、愛想がねえな。それによぅ、ここから先はE級モンスターが出るんだぞ。俺とちがってお前らにはまだ早いだろ!」
ハイトーンでの上から目線。
しっくりこないが、それは別としてこの子の言うとおりだ。
ここはまだ良いが、この先はゴブリンなんて比較にならない手強い敵がでてくる。
ジャイアントスパイダーにスプリングボアと、どれも一筋縄では勝てない相手だ。
特に探索者になりたての小学生が、行っていい所じゃない。
他に連れはいない様だし、引き返すよう忠告をしておくか。
「力丸、危険だと分かっているなら……」
「チャッチャラー。その点オレの目的はシュワルツの武器だ。それで一気に天下を獲るからな、ここからは駆け足でいくぜ!」
「チャッチャラー?」
相変わらず人の話を聞かないし、言うことも意味不明だな。
なぜかその場で高速で足踏みをしているし、この子のベクトルは斜めすぎて理解できない。
ヒナタなんて既に目線をそらしている。
なのに力丸は止まらない。
「想像してみろ、このパワーに凄い武器が足された所を。おりゃりゃ!」
パンチを繰りだし太い枝をへし折った。粉砕と言ったほうがいい位だ。
初めて見たが、力丸はパワー系の能力者だな。
この実力だとこの付近なら問題はないだろう。
だけどまだ子供で、俺たちに力を見せれて嬉しそう。
また足踏みをはじめたよ。しかも集中しすぎてこちらの方を見ていない。
子供らしいといえば子供らしいが、ずーーーーっと続けている。
「えっと。ヒナタ、もう行こうか」
「そうだね、放っておきましょ」
一人になれば怖じ気づいて帰るだろう。
あれだけの身体能力だ、逃げるだけなら問題ないし、俺たちも子守りはゴメンだよ。
〈なにこの子おかしくない?〉
〈力丸って例の荒らしの奴じゃんか〉
〈こんな姿だったとは。リアルでも邪魔してて草、タチ悪すぎ〉
〈幼いの?それともおっさん?なんだか嫌いだわw〉
〈この子、知ってる。配信者じゃないのによく動画に出てくるよ〉
視聴者も騒ぎだした。かなり良くない意見が多い。
色々うわさは聞いているが、やはり手のかかる子のようだ。
でも吊るしあげるのは可哀想だし止めておくか。
「みなさん、相手は子供ですしあまり叩かないであげて下さい。よい子とは言いませんが犯罪者ではないですから」
〈青空~~~~、こころ広すぎだろw〉
〈さすが王子、かっこいい〉
〈うーん、賛成のような反対のような〉
〈でも関わらないほうが無難ッス〉
〈そのまま逃げたほうがいいですよー〉
編集でも力丸の部分はカットすればいい。
うるさい子だけど、わざわざ晒すことはない。
それとみんなの忠告を聞くことにする。
静かに進んでいき、だいぶ距離を離す事ができた。
「ふう、ここまで来ればひと安心だな」
だが甘かった。
「こらー、待てー。注文するのは俺が一番だぞーーーーーーー!」
「げっ、逃げきれなかったか」
真っ赤になりながら、両手を広げて通せんぼをしてくる。
涙ぐんでいるので無視するわけにもいかない。
何せこの子は小学生だ。少しくらいは相手をしてやらないと。
「ううううっ、順番抜かしをしやがってーーーーーーーーー!」
「へっ、順番?」
「先に行きたいなら〝かーわって〞てお願いするって習っただろ。ちゃんときちんと言いやがれーーーーーーー!」
うん、幼稚園のときだったかな。
ブランコとか、そんなのが大事だと教えられたな。最後に言ったのはいつだったやら。
力丸は歯を食いしばり大粒の涙をこぼしている。よほど納得いかなかったのだろう。
この子はそれが大事だと信じているのだ。
この子の怒りはぜんぜん理解できないが、その気迫に押され謝ることにした。
「えっと、ごめんな。〝かーわって。〞これでいいかい?」
「いやーだよーーー。バーーーーーカ! 俺が絶対に一番だ。それは譲らなねぇ、じゃーーなーーー!」
言いたいことだけを言い、後ろ蹴りで砂をかけてきて、その上にあっかんべーで走り去っていった。
数秒間、何もリアクションが取れなかった。
いつも騒がしい視聴者でさえ、コメント欄が動かない。
「なによアレーーーーーー!!!」
しばらくしてヒナタの怒声がひびく。
「まあまあ、あれだけで済んだから良かったよ、なっ」
正直おれも呆れたよ。
だけど自分よりも怒る人がいると、冷めてしまい怒れない。
そうなると冷静な俺が、怒り心頭のヒナタをなだめるしかない。
全然すっきりせずフラストレーションを抱えたままだが、この先は小学生には危険だと思い出した。
「もう、あの子ったらー。……あっ」
ヒナタも気づき、2人で大きくため息をつく。
「はあ、しょうがない。追いかけるか」
「うん、死んだら可哀想だもんね」
辺りの安全を一度確認し走りだす。
だけどこの時、助けを求める声がした。
「あーれーーー、お助けをーーーー!」
子供とはちがう野太い声が、空高くから聞こえてくる。
見ると大きな鳥。
それに男の人が鷲掴みにされて運ばれている。
「マズイ、あれはハーピーだ。助けなきゃ!」
「う、うん」
道とは外れた森の中を駆けていく。
間に合うだろうか心配だ。
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