第16話 夜の特訓 ③

 延々といじられている。一種のお祭り状態だ。


「地味、地味って。みんなでヒドイよ」


〈あっスネた〉

〈スネかたも地味ですなw〉

〈わたしは素敵だと思いますよ?〉


「お助けの人、ありがとう。でもそんなに馬鹿にするなら、コボルトの魔石の取り方も地味ですし、披露するのヤメテおきますよ、ふん!」


〈ああああ、そう来るかあああ!〉

〈ほら見ろ、お前ら言いすぎなんだよ。青空くんに謝れよ〉

〈ごめんなさい。もう言いませんので許して〉

〈すみません〉

〈すみません(泣)〉

〈ごめんなさい俺が馬鹿でした〉


「……本当に反省していますか?」


〈はい、真剣にしています〉

〈ごめんなさい。機嫌をなおして(泣)〉

〈青空さまー〉


 ふーとため息をわざとつき、ワンテンポおく。


「分かりました、でも本当に地味ですよ。ゴブリンと多少の違いしかありませんし」


〈はい、お願いします〉

〈いえいえ、苦行からの解放です〉

〈ありがとう、よかったよー〉


「やり方は一緒ですが、コボルトは向かって左側しか上手くいきません。右だと血がでたり硬いです」


 ヒナタからカメラをあずかり、魔石を取り出してもらう。

 いつも通りにプルンときた。

 うれしそうに魔石を向けてくる。


「ゲットー」


 コメント欄はさっきまでと違い、大人しくしている。

 モニターの向こうで、ガヤを我慢しているのが目にうかぶ。


 さてと、見本は見せれたし、後はヒナタに戦ってもらうか。


 ヒナタのスキル影魔法はかなり特殊だ。


 魔法といっても、影を自在に操って打撃による物理攻撃をあたえるんだ。


 有効範囲は影が伸びる分、しかも大きくなればなる程強くなる。


 そして地を張りつく影だから、下からに弱い獣人とは相性がぴったりだ。


 ヒナタはそれをよく理解していてやる気は満々。

 さっそく見つけたコボルトに、自分の影を伸ばして攻撃をしかけた。


「そーーーれ、いっけーーーーー!」


 ──バッゴーーーーン!──


 影だけが動きフルスイング。

 見事に強烈なアッパーがきまり、一撃で沈んだ。


 距離にして10m。それは10mになる巨人の一撃だ。


〈ヒナタちゃん強ええええww〉

〈撮影のみとはもったいない〉

〈影魔法いいなぁ、うらやまですよ〉


「えへへへへっ」


「いいぞー、次のはもっと離れてやってみて」


「オッケー」


 30mと広がったがさっきの余韻があり、ヒナタの気合いも充分だ。

 だけどスカッと空振って、何度も攻撃をし直している。


「えい、えい、えーい。当たらなーい。なんでーーーーー?」


「ヒナタ焦らないで。影魔法のもうひとつの特性を思い出すんだ」


「あっ、距離か!」


 影は大きくなればなるほど、威力は強くなる。

 ただしその反面、影が薄くなり操作はしにくいらしい。


 その境界を見極めるのが、術者の腕前だそうだ。

 つまり今のヒナタにはない物だ。


「えーい、あれれ。これなら~、おっと!」


 大きすぎてスカッたり、小さすぎてダメージなしと上手くいってない。

 逆に距離をつめられてピンチに。


 このままでかなと援護に入り打ち倒した。


「ふえええ~、ムズい~~」


「心配ないって、数をこなせば大丈夫さ」


 遠隔操作ができ威力も高い影魔法。


 敵にあわせて変えなくてはならないが、かなり優れたスキルなはず。


 だけど今のヒナタには少し手に余るみたいだ。


 そうしてヒナタがコツを掴むまえに狩りは終了。


 辺りにコボルトは居なくなってしまった。


「ふおおお、無双したかったのに~」


 愚痴をこぼしているが、ヒナタのすごい所はこれを撮影しながらやり遂げた事だ。

 思いのほか戦いの才能があるみたいだ。


 度胸もあるし、魔石採取にもためらいがない。


 あとは切っ掛けを掴むだけ。ゆっくりやればいい。


〈ヒナタちゃん、初めてにしてはやるなあ。うちのクランに入らない?〉

〈可愛くてカッコいいですよ笑〉

〈ヒナタ特集プリーズw〉


「もう、おだてないでよー」


〈本当だよーw〉

〈特集いつですか?〉

〈だったら登録しなくては!〉


 おだてられて、まんざらでもないヒナタ。みんなのおかげで落ち込むヒマもないな。


 ……俺の時と扱いがちがいすぎるのに不満はあるが良してするか。ヒナタは笑っている方がいい。


 そんな想いを知ってか、ヒナタは魔石取りに一生懸命である。

 悪い例もやったりとサービス満点だ。


 そして集め終わる頃には、日も傾き始めていた。


「それでは暗くなってきたので、今日はここまでです。青空ー」

「ヒナタの~」

「「青空チャンネルでしたー、バイバイ」」


〈ありがとう、楽しかったです〉

〈いっぱい参考になりました~w〉

〈またー〉


 コメントと楽しいやり取りを終え、配信停止ボタンをおした。


「ふぅ~お疲れさま、ヒナタ」


「うん、お疲れさま。……でもどうしたの、急に切っちゃって」


「まずかったかな?」


「ううん、撮れ高は十分よ。でも青空くんらしくないと思ってね」


 ヒナタは首をかしげて聞いてくる。


 ヒナタの鋭さに驚いた。このあとの行動を見抜いてきたよ。


 ヒナタが察した通り、このあと魔法の訓練に誘おうと思っていたんだ。

 そこを視聴者に邪魔されたくなかったのだ。


「ああ、実はこのあと二人っきりになりたくてな。すまない、それで早めに切ったんだよ」


「えっ、二人っきり?」


「ヒナタ、もうすぐ夜がきて、人目の届かない時間になる。……それでだ、暗闇のなかで二人っきり夜の特訓をしてみないか?」


「よ、夜のって、ま、ま、ま、まさかアッチ(大人の関係)の方?!」


「ああ、そうだよ(影魔法のな)」


 すごい驚きようだ。突然の誘いだから仕方ないか。


 でも今からの時間帯は闇の領域。


 特に今日は満月なので、自分の影がはっきりと出て、影魔法が使いやすくなる。

 受け売りだけど、上達させるにはもってこいの条件だ。


 ただ撮影を続けるなら照明は必要で、その光はジャマで立ち回りがむずかしくなる。


 視聴者に伝えることはもうないし、ヒナタの訓練の方を優先すべきだ。


 ということで配信を終わらしたのだけど、それをヒナタに読まれていたみたいだよ。


「俺なりに教えれるからさ、いいよね?」


「えっ、えっ、えっ、大胆だよ!!」


 驚いているというよりも、テンパり困った様子だ。


 しまったな、断られるとは考えていなかった。


 でもヒナタの気持ちも分かる。


 やはり夜は危ないし、いくらパートナーとはいえ相手は女の子。

 軽率すぎたよ、もう少し配慮をするべきだった。


「やっぱり遅い時間はダメだよな。ゴメン、忘れてくれ。せっかく濃く熱い夜にしようと思っていたが、残念だよ」


「あ、熱い夜ですってーーーーー?」


 またヒナタに叫ばれた。


 ちゃんと謝ったつもりだが、うまく伝わらなかったみたいだ。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る