第15話 夜の特訓 ②

「ヒナタ大丈夫か?」


「ええ、びっくりはしたけどね。それはそうと青空くん、アップさせた動画見てくれた?」


「見たよ、上手いもんだ。ヒナタは編集とかの才能があるよ」


「そ、そう? えへへへへっ」


 褒められたのを素直に喜び、それを隠さない。ヒナタらしいリアクション。


 だけどこの子は本当に優秀だ。


 2台のカメラの映像を上手にまとめていて、しかも作業が早い。


 今回2本の動画をあげているのだが、アップする日をずらしてと、視聴者を焦らすのも忘れていない。


 タイトルは〝巨大生物のぬっ殺しかた〞と〝異世界ニキ・撃沈&ぴえん〞だ。


 まあ、ネーミングはどうかと思うが。


 再生回数はそれぞれ150万回を超えているし、何より惹き付けられる編集だ。


「みんな他人が謝るのを見るの好きだからね。すでにコラ動画が出ているわよ」


「ぶはっ!」


 拡散ってヤツだ。ネット社会の恐ろしさを垣間見たよ。


 それはさておき本題にはいらないと。


「と、ところでヒナタ。相談なんだけどさ、俺と修行をしてみないか?」


「ほえ?」


 唐突の話に戸惑っているようだが、この反応は普通だよ。


 ヒナタは撮影班なので戦いには参加しない。

 だけど今朝のことや、クジラの時のようにピンチになることもある。


 だから最低限、自分で身を守って欲しいんだ。


「それいい、すっごくいいよね。撮って戦って歌える配信者なんて。わたし頑張ってみるよ」


 そう捉えるのかと感心したが、本人が乗り気なのがいい。

 今日からやりたいと言ってくれた。




 放課後、となり町の橋をこえ異世界にはいる。


 着いた所は木々がまばらに生えるサバンナ風の平地。

 ここで基本的な戦い方を学んでもらう。


「ねぇ青空くん、配信はどうするの?」


「もちろんするさ。初心者から後々に使える技を紹介したいんだ」


「おお、また裏技ね」


「いや、そこまでじゃないよ」


 期待で胸を膨らませているヒナタ。


 SNSにもその事をあげている。

 告知というよりは、単に戦えるのがうれしいだけみたいだ。


 それに早くやりたい一心で、スキル広域視野をつかい獲物を探している。


 その間に視聴者さんは続々と集まってきていた。

 そんな数字をみていたら、もう一人の青空呼人を思い出した。


「あの人も見ているかもな……」


「えっ、何か言った?」


「いや、なんでもないよ」


「じゃあ、カメラまわすよ」


 止まらないヒナタの勢いにおされ、あの恥ずかしタイトルコールをまたすることに。


「み、みなさん、こんにちは。青空ー」

「ヒナタの~」

「「青空チャンネル始まりまーす!」」


〈待ってましたー〉

〈ヒナタちゃん頑張ってねえ〉

〈初心者に優しいのでお願い。いきなりオーガとかはヤメテな笑〉

〈今日はブッシュか。色々としてくれるね〉

〈楽しみー〉


 配信がはじまり挨拶をかわしていく。

 スタートの同接数は1万8千人と、着実にのびている。

 手応えを感じながら一通りあいさつを返したあと、今日のお題をつたえる。


「今日の獲物はコボルトです。戦闘経験のないヒナタと共に戦い方をお伝えします」


「はーい、頑張ります。パチパチパチー」


 拍手をして盛り上げるが、なんだか反応がおかしい。

 急にコメントが止まった。


 そして。


〈地味……だな〉

〈大物のあとの犬コロって草だわ〉

〈今日はハズレの日?〉

〈おれ用事を思い出したわノシ〉

〈どうした、青空?〉


 同接数がスッと10%ほど減った。

 俺らふたりも血の気がひく。


「ま、待って。基本的のこともやるけど、獣人相手なら、後々にも役立つ情報があるんだ。だからぜひ見て!」


「だそうです!」


 ヒナタの悲鳴かのような短い叫び。

 俺も動揺してしまう。


〈じーーーーーーー〉

〈本当に?〉

〈ふーん、獣人にねえ?〉


「うん、本当、本当!」


「だそうです!!!!!」


〈しょうがない、見てやるか〉

〈青空くんビビってて草〉

〈カワイかったです。俺のお嫁さんになって〉

〈見るに決まっているじゃんかw〉


「「ふ~~~~~~っ」」


 減った数字も戻ってきて、からかわれていたようだ。


 それが分かった今でも心臓がバクバク鳴っている。

 味わいたくない経験だ。


 冗談だとわかっても落ち着かず、急いで話をすすめる。


「みなさん、素早い獣人には手を焼きますよね。でも獣人には大きな弱点があるんです」


〈ヤツラ嫌いだわー〉

〈うん、つい必中スキルで倒しちゃう〉

〈弱点って防御力のこと?〉

〈ワーウルフなんて速いし強いし最悪じゃ〉


 やはりみんなも嫌みたいだ。


 種類によっては集団でかたまっているし、手こずる相手である。


「でも安心してください。弱点をつけばイチコロです。それはズバリ、真下からの攻撃なんです!」


〈初耳ですな〉

〈属性とかでもなくて?〉

〈そんな情報どこにもないよ?〉

〈言いきって大丈夫?〉


「論より証拠、まずは見てください」


 見つけておいたコボルトを誘い込む。

 一匹なのでヒナタにも危険はおよばない。


「グルルルルル~」


 コボルトは俺に狙いをさだめ襲ってくる。

 獣らしい素早い動き、それと同じ位の速さでこちらも剣をふる。


 だが上段や横からの攻撃は当たらない。

 紙一重でやすやすと避けられる。


〈だろうね、当たるはずないよ〉

〈阻害魔法で止めないと〉

〈がんばれーw〉


「これはいつもの光景ですよね。では、次は上段からの返しをやってみますね」


 同じスピードで一旦ふりおろし、二撃目はその半分の速さで軽く斬りあげる。


 ──サクッ!──


「キャイイイイン!」


〈へっ、当たった?〉

〈あんなに遅いのになぜ???〉

〈嘘だろ、マヒでも使った?〉

〈青空くんすげえええええ、やっぱ君は王子だわ〉

〈トリックにしか思えない〉

〈説明はよ〉

〈コボルトのぽかーんがジワるw〉


 今日一番の反応だ。早く説明しろとせっついてくるよ。


 だがコボルトは動きが鈍くなったとはいえ、まだ生きている。

 トドメをさすため、もう一度下段から仕掛ける。

 とうぜんサクッと決まり戦いを終わらせた。


〈すげえええええ、実質二撃かよ!〉

〈はよ、教えて!〉

〈試したいーーーーーーー!〉

〈コボルト祭り始まりじゃ笑〉


 安心できた所で焦らさずタネ明かし。


「答えは簡単です。獣ならではの頭の形、あれがあだになるんです」


〈WHY?〉

〈あああ、わかったぞ。そう言うことか!〉

〈何、なに、全然わからん〉

〈答えおしえてーー〉

〈分かったと嘘つくのやめー〉

〈詳しくお願い〉


 食いつき方がハンパない。


 それもそのはず、あれほど楽々て避けていたのに、子供でも出せそうな剣速で致命傷をおっている。


 見当違いなことを言う人もいるけど、それだけ知りたがっていると言うことだ。


「実は真下が全く見えていないんです。ほら、鼻やアゴが邪魔でしょ?」


〈あっ!〉

〈あっ!〉

〈あっ!〉

〈ハモってて草!〉


「でも動体視力はいいので、いきなりの下段や大きな動きは逃げられます。何気なくやってください」


〈こっそり(~ ´∀`)~〉

〈これは気づかなかったぞぉ〉

〈うし、行ってくるわ〉

〈うおおお、獣人ハンターに俺はなる!〉


 もともとは四足歩行の肉食獣だ。


 反撃を警戒する必要もなく、ただ身を潜め狩ればよい。

 低い姿勢だからこそ捕食者になりえるんだ。


 だけどその利点も、目線が極端にあがれば弱点へと早変わり。


 まぁその反面、強力なパワーを得たから強敵なのはかわりないけどね。


 この事に気づいた理由も、俺にスキルがなかったからだ。


 他の人は攻撃が当たらなければ、スキルを使う。

 倒す手段などわざわざ模索しなくていい。


 でも俺は必ず苦戦をし、長引くことなどいつもだった。

 そしてきっかけは偶然に入った一撃だった。

 キレイにきまったのが不思議で、理由をさぐった。


 そして突如ヒラメいた。あの時の自分を褒めてやりたい。


〈すごい……でも地味w〉

〈尊敬します、地味ですが〉

〈陸クジラのような派手さがなくて草。ある意味きょうは当たり回だな〉

〈地味な青空王子も素敵ですよ?〉

〈地味すぎて笑えるが、これは戦い方を変える発見ですな〉


 散々な言われようである。


〈ここまで地味だと逆に目立つなw〉

〈あれれ、何かやりました?気づきませんでしたよ、プププ〉


 まだ続いている、不当すぎる評価にすねますよ。


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