第13話 探索者の心得 大事だよ ③
工房につくと奥の部屋に通された。
椅子にすわると、熱いお茶まで出してくれる歓迎ぶりだ。
「ベリー系のお茶ですね。うふ、美味しい」
喜ぶヒナタの反応に満足げな職人さん。
使っている茶道具をみても、かなり好きなのがよくわかる。
「さて、改めて礼を言わせておくれ。お二人には感謝しかない」
深々と下げてくる頭を上げてもらうのに苦労する。
「いえ、俺のワガママで始めさせてもらった事です。お気になさらずに」
「ふぉふぉふぉ。それにしても良い素材じゃった。あれなら遅延効果は1/300。容量は城でも丸ごと入るじゃろうな」
あの運び屋クラスの性能を狙っていたが、希望以上の成果だ。
これでまた一歩、もう一人の青空呼人に近づけた。
明るい話題でヒナタも喜んでいて、2杯目のおかわりをしている。
それに喜び
「それでのう、加工の方じゃが。お前さんの素材をそのまま使うと、3ヶ月はかかるのじゃ。それでもええかの?」
「さ、3ヶ月!」
覚悟はしていたが、そこまでかかるとは思わなかった。
「乾燥など手間がかかっての、特に魔法加工が難しいのじゃよ。手を抜く訳にはいかんし、そこは分かってもらえるか?」
理屈はわかるが、気持ちが追いつかない。
俺にはやりたい事だらけで、先の事を考えると、今すぐにでも貰って次に移りたい。
「ふむ、若いのに生きいそぐのう。よし、少し待っておれ」
職人さんはそそくさと部屋をでていった。
たぶん代わりになるバッグを探しにいったのだろう。
だけど、ただでさえ品薄のマジックバッグだ。
在庫があったとしても、50年物ほどの物じゃないな。
時間遅延か容量か。何にしてもグレードは落ちてくる。
だからこそ悩む。
今すぐ下位のバッグを手に入れるか、それとも納得のいく品をまつか。
悩むが答えは出ている。
待つしかない。
3ヶ月のあいだ不自由な思いはするが、その後の数十年間に大きな違いが出てくる。
焦って下位に手を出せば、後悔するのが目に見えている。
納得はできないが待つのだと心に決めた。
「おじいちゃん、遅いねえ」
ヒナタはいつまでも帰ってこない職人さんを心配し、手持ちぶさたにしだした。
丁度いいと、さっき考えた事を伝えておく。
「そっかー。うん、賛成するよ。3ヶ月後が楽しみね」
ヒナタの賛同をもらえ安心できた。
とそこへ、職人さんが台車をおして戻ってきた。
やけにいくつも箱がのっている。
「待たせたの。ほれ、これを見ておくれ」
渡されたのは小さな箱だ。
開けると中身は、皮で作られた
もしこれがマジックバッグだとしたら、最低ランク。
……よりも下回る。余った材料で作ったバッグだろう。
ナゼこんなC級品を見せられたのか分からない。
試されているのかも。
「それはの、
「「ひゃ、100年?」」
言われるまで気づかなかった。
慌てて魔力を探ると確かに物が違う。
底知れない濃い魔力がにじみ出ている。
「それはの、ワシの古い友人が使っていた物じゃ。勇者などと呼ばれておったがポックリと逝っての。それ以来、新しい持ち主を探しておる所じゃよ」
「も、もしかしてコレを俺に?」
「ああ、3ヶ月が待てぬなら、それを使っておくれ」
最高部位を使っていて、その性能を嬉しそうに話してくる。
「内部の時間経過も遅延なんてケチ臭いものじゃあないぞ。なんと完全停止じゃ。それに容量は無限で、内容物の自動整頓。しかも出し入れは便利なハンズフリー。それと他には……う~、忘れた。……ええい、めんどうくさい、後は使って確認せい!」
切れ端バッグなんてトンでもない。国宝級のお宝だ。
歴史的にみても、このクラスを手にする人間は限られている。
そんな物を惜しげもなく寄越してきた。
「ふぉふぉふぉ、気に入ったか。よしよし、ではお嬢ちゃんにもやろう、ほれ」
「わあ、かわいいピンク」
渡してきたのは色ちがいの同じもの。
魔力にも重みがあり、まさかと思い聞いてみる。
「そ、そのピンクのって、このバッグより良いものじゃないよな?」
「ヤツの嫁さんが使っていた物じゃ。ここだけの話、若干嫁さんの方が上じゃよ」
国宝級が2つになった。
プレッシャーで押しつぶされそうだ。
「ありがとう、おじいちゃん」
「なんの、なんの~」
「まてーヒナタ。国宝なんてさすがに貰えないぞ!」
「「えーーーーーーーーーー」」
ヒナタと職人さん、二人揃ってブーたれている。
いつの間に仲良くなったのか、妙に息のあった動きにイラッ。
それに俺はそれだけの仕事をしていない。
だから〝はい、ありがとう〞と気楽になんか貰えない。
「なんじゃー、お嬢ちゃんの彼氏はカタイのう」
「ええ、でもそこが良いところです。ポッ」
イラッ。
「こらこら、俺が堅いんじゃない。あんたの言っていた、釣り合いって物がとれていないんだぞ」
「そうかのう?」
「任せておじいちゃん。青空くんは弱点をつけば言うこと聞くから」
「こら、ヒナタ。くすぐろうたってさせないぞ!」
「ぶぅ~、堅いなあ」
ふざけた雰囲気の二人だ。ここは強めに言わないと流される。
今もわざとらしい小芝居をして、同情をひこうとしているよ。
職人さんはヘタすぎる困り顔で覗きこんでくる。
「わしら職人はのう。作るのも好きじゃが、使って喜んで貰うのが一番なんじゃ。それにバッグも泣いておるぞ。50年も放ったらかしにされて、寂しい、悔しいとな」
「それでも俺らでなくても……」
「いいや、お主らだからじゃ。バッグの方が求めておるわい!」
バッグにそんなのは一切感じない。適当なことを言っている。
…………しかし50年か。
埋もれるには長すぎた時間だな。
つい自然と腰につける自分がいた。
「2人ともよう似合っておるぞ」
「えへへへ、おじいちゃんありがとう」
「あ、ありがとう」
まだ貰ってよいものか迷っているのに、つい礼を言ってしまった。
欲しくてたまらない。
体に馴染むフィット感や、後ろにつけているのにも関わらず、手元に出せる性能の良さ。
どれをとっても満足だ。
「あー、それとコレもやろう、ほれ」
台車に残っていた箱を開けて渡してくる。
中に入っていたのは、黒と白銀の革製品だった。
ウロコを使った部分の他に、柔らかな皮膜をつかい服のようなデサインだ。
「それはの、ワイバーンの皮で作った防具一式じゃ。軽いし堅いしムレないぞ」
「な、なんと!」
前回でも手が届かなかった高級品だ。
Bランク以上の探索者がつけていて、すごくうらやましかったのを覚えている。
「もちろん、色ちがいでお嬢ちゃんの分もあるからの」
「やったーーーーー」
あいた口がふさがらない。どうしてここまでしてくれるのだ。
そんな俺の心を読んだのか、職人さんは微笑んでくる。
「言うたじゃろ、使ってこそ道具。眠っていては無駄になる。それに太い客は逃がさんのも商いのコツじゃよ」
「しょ、職人さん……」
「ワシの名前はゼペットじゃ、気兼ねなく呼んでくれ」
右手を差し出してきた。
握りかえすと、小さいが硬さと強さが伝わってくる。
「よろしく、ゼペットじいさん。俺は青空呼人、これはありがたく使わさせてもらうよ」
「わたしは七海ひな、いっぱい稼いでいっぱい注文するね」
「ふぉふぉふぉ~、よい友人ができたわい」
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