第12話 探索者の心得 大事だよ ②
~町にある探索者ギルドの解体場~
「ふっふっふぅーー。も、もう、動けねえ、限界だーーーーっ」
町までの道のり、この運び屋は思ったよりもよく走った。
途中で休んでいいよと伝えても、悲鳴をあげてスピードを上げていた。
おかげで解体場は混みあう前だ。
広いスペースをあけてもらっていて、解体屋さんも控えてくれている。
ノームの皮職人さんには連絡をいれたので、間もなくここに来るはずだ。
「あの姿はおじいちゃんノームじゃない?」
ヒナタが指さす方に、トテトテと愛らしい走る人影がみえる。
あれはまぎれもなく皮職人さん。
「小僧、本当にもう狩ってきたのじゃな!」
入るなり大声をあげてくる職人さん。
ここまで期待されては、嬉しくて自然と笑顔になる。
「声でかいって。そんなに
早ようとせっつく職人さんをなだめ、運び屋に合図する。
だが運び屋はビビっていて動きが遅い。
傷つけないようゆっくりと出せとの指示を、必要以上に守っている。
その遅さが演出となり、この場の全員が固唾をのんだ。
「おおおおお、あんな大きな尾びれかよ!」
徐々にみえる巨体にどよめき、手をとり踊りだす人もいる。
「すごいのう、こんな獲物は久方ぶりじゃ。……お? おお、おおおお。こ、これは何処まで続くのじゃ?」
20年物と思いこんでいたらしく、30mをこえても見えない頭に騒がしくなる。
首だけでは視線が追いつかず、後ずさりをしだした。
「な、なんじゃ。この大きさは?」
「職人さん、注文とおりか調べてくれ」
「お、おう、そうじゃな」
俺の声かけでようやく我にかえったみたいだな。
少しヨタリながらも、端から端まで丁寧に確かめていく。その姿は真剣そのものだ。
だけどさわる度にニカッと笑う。
まるでおもちゃを与えられた子供のようだ。
「完ぺきな陸クジラじゃ。鮮度の劣化も見られないのう」
「じゃあ、クエストは完了ですね?」
「ああ、これに優るものは無しじゃ。解体屋の皆、早うコイツをバラしておくれ」
「「「おう、任せてくれい!」」」
そこからは早かった。
解体屋さんが総出のお仕事。
熱意と歓喜とが相まって、見たこともない手際のよさだ。
そして動きが美しい。見る見るうちに形を変えていく。
「すごいねー、わたし感動しちゃってるよー」
「ああ、そうだな。じゃあ俺たちも仕事を片付けようか」
「えっ、まだ何かあるの?」
遠足じゃないが、クエストもすべて終えてこそクエストだ。
まずは探索者ギルドで代金を受け取り、再び解体場にもどってくる。
まだ続いている作業をぼーっと見ている運び屋。
その前に立つまで呆けていた。
「さあ、特別報酬をもってきたぞ」
クエストといっても発注をした側の始末だ。
この支払いを済ませれば完了になる。
運び屋の力のない眼ざしに光がもどる。
「へへへへへっ、あんたも律儀だな。200万でも有りがてえし、遠慮なく頂くぜ」
「そんなに喜ぶなよ、どうせハシタ
──チャリン──
「へっ、100G《ギャラ》。…………はあ? なんだこの小銭はああああああ!」
「それが今日の特別報酬だ」
「ペテンにかけるつもりかよ、このくそガキ。痛い目にあわない内に、さっさと分け前をよこしやがれ!」
さっきまで死にそうにしていたのに、額をつきだして睨んでくる。
また最初の調子に戻っているよ。
でもこの100Gは、嘘でも誤魔化しなどじゃない。
それを理解させるため、常時クエストの紙を渡す。
ガンをとばしてくる運び屋は、目線をそらさず受け取った。
「俺が受けたクエストだ。よく内容を確かめるんだ」
「何を今さら。んん…………納入は丸々一頭だと! そ、それじゃあ残る素材は……」
「ああ、魔石と鯨油だけだ。解体料を差し引けば10万Gってところだよ」
「たったの10まん。う、うそだ」
この運び屋は、勝手な思いこみをしていただけだ。
それは20億の数字に踊らされ、クエスト内容の確認を怠ったのだ。
一般的にクエストでつく特別報酬とは【クエスト内容以外で得た品が対象】となる。
これがこの世界での共通ルールだ。
そうでないと、大元の依頼主が困ってしまう。いっさいの例外がない常識だ。
だから受ける側は、クエスト内容の確認をするのが当たり前なのだ。
膝から崩れおちる運び屋をみて、ヒナタがやっと納得したようだ。
「そんなルールだったんだねぇ。人が良すぎるって心配したよ」
「仕事の前は確認をしろってことさ。それともし支払ったらその人の責任になる。違約金とかでるから、くれぐれも注意な」
「はーい」
いい返事だな。
俺の仕事は片づいた。後は他の人の領分だ。
そこへ探索者ギルドの職員さんたちが集団でやってきた。
「青空探索者、運搬クエストは終わりましたか?」
「ええ、いま報酬を渡しました」
「ご協力感謝します。それで、君が問題の運び屋だな。一緒にきてもらうぞ!」
「えっ、えっ、えっ?」
職員さんが両腕をガッチリとかためた。
運び屋は暴れるが相手は大男。逃げられるはずがない。
「おい、地球人。許してくれたんじゃあないのかよ」
「えっ、逆にナゼ許されると思ったんだ? ここは大人しく罪を
「ふざけんなーーーーーーーーーー!」
騒いでいるが、さすがにそれはない。
放っておいたら第二、第三の犠牲者がでる。
契約書を用意していた所からも、常習性が見てとれるからな。
きっちりと裁いてもらいたい。
〈二段階でのざまぁかよ、青空くんやるなあ〉
〈20億と10万のギャップに笑えるわ〉
〈私もすっかり騙されました〉
〈仕事はなくなり残るは借金のみw〉
〈他人事ではないですな笑〉
様々なコメントが上がってくる。
わざわざ配信した甲斐があり、みんなの心に響いたようだ。
「ここまでヒドイの
〈分かりました、青空師匠〉
〈これ見たら忘れられないよw〉
〈異世界人にも良い人はいるからなあ〉
「ええ、そこは地球と変わらないですね。じゃあ今日の話はここまでっ事で。青空~」
「ヒナタの~」
「「青空チャンネルでした。それじゃあバイバイ!」」
コメントをくれた人に一通りあいさつをしておく。
5分ほどでようやく配信停止のボタンを押した。
早々と切り上げたのは、もうひとつのクエストが残っているからだ。
そのやり取りを映させない。
特殊だし、同じ状況がまた発生するとは限らない。
よくゲームと混同する人がいて、参考にされると現地の人が困る。
特にこの職人さんに迷惑はかけたくない。
「ふぉふぉふぉ、お主らは人気者じゃのう」
「いえいえ、お恥ずかしいです」
「ふぉふぉー。よし、それでは報酬の件もあるし、ワシの工房まで来てくれるかの?」
「ええ、喜んで」
今日はまだまだ忙しいな。
クエストは完全に終わるまでクエストだからな。
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