第8話 超巨大モンスター ②

 出された料理をすべて平らげて、俺たちは3丁目にかかる大きな橋へと向かった。


 俺の記憶通りなら、ここはある街の近くにつながっているはずだ。


 そこは皮革工業が盛んで、数多くの名工が工房をかまえている。

 その中のひとつを訪ねるつもりだ。


「青空くん、私たちって異世界に来るの2回目だよね。それでS級アイテムを手に入れるなんて早すぎじゃない?」


「いや、有るのと無いとでは全然ちがうよ」


「そりゃそうだけどさぁ、そんなに沢山の荷物なんて持っていないよ?」


「そうじゃなくてね、戦闘時に影響するんだよ」


 昨日でよくわかった。


 久しぶりに担いだリュックと水筒が、思いのほか邪魔だった。


 マジックバッグに慣れていて、少しのバランス移動だけでも気になるんだ。


 所持していた探索者は少なかったが、ソロには無くてならないアイテム。

 持ち運びもそうだけど、出来るだけ早く手に入れたい。


「でもあれって高いよね。5千万円はするって聞いたわ」


「いや、向こうの通貨はG《ギャラ》だよ。1G《ギャラ》は1円。それで高いのなら5億Gはするかな」


「ご、5億って。青空くんのお家ってお金持ちなんだね」


「そんな訳ないよ。どちらかと言うと貧乏なほうさ」


 駆け出しの高校生探索者に、そんな大金あるはずない。

 貯金をかき集めて10万円がやっとだよ。


 この時点で購入するのは不可能だけど、俺には秘策がある。


 この価格の高騰は素材の供給量にあるんだ。

 作り手が納得するきちんとした素材が手に入らないのだ。


 物がないから注文がたまり、予約での待ち時間がどんどんと増えていく。


 職人さんは作りたいのに作れない。

 地球からの探索者が増えて、益々ひどくなっているらしい。


 理由が分かっていれば解決するのは簡単だ。


「だから素材を土産に、職人さんと交渉をしようと思っているんだよ」


「それでも無料ただって訳にはいかないでしょ?」


「いや、力技で無料にしてもらうさ」


「ち、力わざあ? あ、あはははは、青空くんってサイコー!」


 ヒナタが涙を流して泣いている。ツボにはまったようだ。


 それと交渉中はカメラは一旦ひかえてもらう。


 職人さんにヘソを曲げられたらお仕舞いだ。


「それじゃあ、話は俺がする。ヒナタは横で聞いていてよ」


「オッケー」


 明るい声に押され中にはいると、作業をしていている一人のノームの姿があった。


 小柄なノームとはいえ職人だ。

 太い腕を動かしていて、少し気難しそうな人みたい。


「いらっしゃい、何か御用で?」


「ああ、マジックバッグの素材の事で……」


「な、なに。直接持ってきてくれたのか。どれ、早く見せておくれ!」


 職人さんは凄い勢いで詰めよってくる。


 これで分かった、材料不足は深刻なようだ。

 俺は交渉の成功を確信した。


「いや、今はない。これから取ってくるんだよ」


「なんじゃーーー、慌てて損したわい!」


 態度が急変、足を投げだしてふてくされている。


 そして職人さんは穿うがつように見てくる。

 先ほどと違って俺を品定めしているようだ。


「お前さんは地球人じゃろ。若いしそもそもアレを狩れるのか?」


「ああ、問題はないよ。品質も心得ているし、まるっと一頭分もってくるつもりさ」


「ハッ、でかい口をききおるな。それだけあれば一生遊んで暮らせるぞ?」


「いや金じゃない。俺が欲しいのは極上のマジックバッグだ。一頭分をゆずるから、最優先でもらいたいんだ」


 職人さんは冷やかしかとあしらってきたが、俺のとんでもない提案に度肝を抜かれている。


 そしてニヤリとし話にのってきた。


「釣り合っていないようで、釣り合っている取引だな。ふむ、その内容で受けてやる。しかしじゃ、1、2年物の幼体はダメじゃぞ。最低でも10年物の成体が条件じゃ!」


「ああ、そのつもりだよ」


「ふむ、大口は控えんか。まあお手並み拝見じゃの。他の連中は散々じゃったし、期待はしておらんから安心せい」


 職人さんは何度も期待を裏切られているみたいだな。

 こちらの事をひとカケラも信用していない。


 だけど俺は交渉の成功に満足している。


 実は前回の人生でも、俺は一度だけ10年物を狩っている。


 半分以上の素材をダメにしたが、今の俺なら20年物の完全制覇だって可能さ。


 そしてこの約束を確固たるものにするため、探索ギルドへの依頼をすぐに出してもらった。


「常時クエストとして出しておいたからの。失敗しても罰則金はないから安心せい」


 この人は案外優しいのかもしれない。

 軽く礼をいい皮工房をあとにした。



 外に出ると、ヒナタはここで口を開いた。


 さっきから我慢しているのは分かったが、かなりのストレスを抱えている。


「ねぇ、わたし心配だわ。入手困難が素材でしょ。そんなモンスターに勝てるの?」


「ああ、ソレ自体はCランクだから言うほど強くない。ただ品質がきびしいだけさ」


「Cランクって軽く言うけど、それでも十分強敵よ!」


「ははは、そうかもな。でも俺の実力は知っているだろ」


「そうだけどさぁ」


 マジックバッグを作るには、素材となるモンスターの傷ひとつない皮の部分が必要だ。


 そうなると困るのが攻撃手段だ。


 HPを削るため下手に集団でボコッたり、魔法なんかは使えない。


 やればやる程に使える部分が少なくなる。


「じゃあ一撃で首をおとすとか?」


「いや、一般的にそれは無理だ。体は山のように大きいし、動きだって素早いからな」


「山のようで素早いって、いったい相手は何者なのよ?」


 不安にさせるつもりはなかったが、言うのをすっかり忘れていた。


「ハント対象は〝陸クジラ〞だよ。成体は20mを優に超えてくる大物だ。なっ、一撃で首は無理だろ?」


 それに狩れたとしても持って帰るのが大変で、マジックバッグか収納スキルが必須になる。


 探索者ギルドでスキル持ちを紹介してもらい、次の日に陸クジラの狩り場へとむかった。

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