第7話 超巨大モンスター ①
「子供たちが帰ってきたぞーーーー!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
出発した橋のたもとには、多くの保護者と報道陣で埋め尽くされている。
親たちはこちらの姿を確認すると、一斉に我が子の元へと駆けよった。
視聴者も大いに安堵し共に喜んでくれている。
〈よくやった!〉
〈感動したよ、乾杯だ〉
〈泣ける、そして王子に惚れたわ〉
これで俺たち生徒は家に帰れるが、先生たちは説明やらのひと仕事ある。
それは大人の務めだし、俺は子供。
そこは遠慮をせずに甘えさせてもらうことにした。
そして次の日から3日間、心のケアのため学校は休みになると通知がきた。
だけど俺とヒナタはそれどころではない。
今後の打ち合わせが必要で、近くのファミレスで待ち合わせた。
「青空くーん、こっちだよーー」
先に来ていたヒナタに、大きな声で名前を呼ばれた。
恥ずかしいったらありゃしない。
「青空くんってさ、昨日の王子さま?」
「うん、本人よ。かわいいー」
「戦っている姿もいいけど、今のもグッとくるわ」
「うんうん、かわいいね」
周囲から軽くざわめきが起きている。
俺は少し顔を伏せ、そそくさと席につき小声で話す。
「恥ずかしいからやめて。目立つじゃないか」
「何を言ってるの。目立つ理由はそれだけじゃないでしょ、王子さま」
あの時はみんながイジッてきていた。
でもそれはその場のノリ。
「それに見ていたのは生徒の家族だろ。内輪のネタなんてどうせすぐ忘れられるさ」
戦っている姿を人に見られるのはいい。
それが俺の一部だし、それにより誰かの役に立つなら本望だ。
だけど王子様扱いをされるなら話は別だよ。
元々ベビーフェイスを気にしているし、かわいいと言われるのは不本意だ。
恥ずかしくて止めるのに、ヒナタは怪訝そうにしてくる。
「あれれ、あれからニュースとかを見てないの?」
「疲れていたからすぐ寝たよ」
「でしょうね、反応がおかしいと思ったのよ。これを見てよ、君はかなりキテいるわよ」
そう言って見せてきたタブレットには、剣を振り抜く俺の姿が映っていた。
客観的に見ても、かなりイケている絵面になっている。
「〝ニューヒーロー、覚醒のち即大活躍〞だって?」
歯が浮くようなタイトルがネットニュースに書いてある。
内容はこれでもかと褒めちぎり、一行読み進めるだけで汗が大量に噴き出してきた。
しかも記事は他に3つもあり、同じく持ち上げまくりの内容だ。
「扱いがとんでもないな」
「えへへ、このおかげもあってさ、チャンネル登録数がなんと10万人突破だよ!」
「嘘だろ、一晩で10倍じゃないか!」
「だって君の名前はホットワードでもトップだよ。急いで編集した甲斐があったわよ」
ヒナタは帰ってから、トロール戦以外の映像を仕上げたらしい。
しかも2本も挙げている。
タイトルは〝無料だよ! 刃のお手入れ〞と〝プルンと魔石の取り方(ゴブリン編)〞だ。
トロール戦を入れたら3本だ。
共に100万回以上再生されていて、今も尚カウントは増えている。
「いやー、あげる度に〝次を早く〞って催促くるしさ。大変だったよ」
次々と見せられる物に驚く事しかできない。
鉄は熱いうちに打てというが、ヒナタの行動力には脱帽だ。
俺が感心しているのを感じたのか、ヒナタは信じられない位に得意気になっている。
「一過性で終わるか、それともインフルエンサーになるかは、このタイミングだと思うんだよね。それを嗅ぎ分ける能力って大事じゃない?」
まるで一流の仕掛け人のような含み笑いだ。
余裕と貫禄がにじみ出てきているよ。
増長。
いまのヒナタにぴったりな単語かな。
「あのー、お話し中すみません。ちょっといいですか?」
見上げるときれいな女の人が2人、少し離れたところから話しかけてきた。
「もし良かったら、一緒に写真を撮ってもいいですか?」
「あ、え、お、はい?」
2人はなんだかモジモジしていて、俺もなんだか変な対応になってしまった。
だって写真だなんて、言っている意味が分からない。
それはアイドルの領分で、いち高校生のすることじゃないよ。
どう断ろうか戸惑っていると、横から割り込む人がいる。ヒナタだ。
「はいはーい、写真いいですよー。ウチの青空くんはこういうのに馴れていなくってー。本当にスミマセン」
「キャー、馴れていないってカワイイ」
仕掛け人ではなく敏腕マネージャーに早変わり。見事な対応力を見せている。
頭の中が真白な俺には、到底真似できない事だよ。
「握手もどうですか? ほら、青空くん手を出して」
「ありがとうございます。やったー」
されるがまま身を委ねている。
女の人たちが写真を撮り終わると、それをキッカケに他のお客さんまでもが我も我もと寄ってきた。
「はいはーい、順番ですよ。青空くんは逃げませんからねー。それとチャンネル登録お願いしまーす」
されるがまま。
逃がしてくれない敏腕マネージャーだ。
「なんだかちょっと堅いわねぇ。よーし、こちょこちょこちょー」
「にょおおぉおぉおぉ、や、や、やめてけー、にょおおぉおおお」
ヤバい、俺くすぐられるのダメなんだ。
抵抗しようにも、そのタイミングすらとれない。
それをみんなに見られている、じ、地獄。
「はい、そのオフショットいただきー!」
「ふぃ、ふぃ、ふい、ひ?」
今度は何かと思ったら、SNSにあげる〝今日の青空くん〞だそうだ。
てか、いつの間にそんなコーナーを作ったんだ。
少しやり過ぎかと心配になるけど、さっきので力が抜けてもうダメ。
更にお店の人が、何やら嬉しそうにやってくる。
「青空くん、これはお店からのプレゼントです。召し上がってください」
「こんなにも沢山の料理を? す、すみません」
「だって君はこの町の誇りだよ。無理せず頑張ってね」
登録者数は伊達じゃない。
一般の人までが、昨日まで平凡だった高校生を知ってくれている。
フトもう一人の青空呼人が頭に浮かんだ。
トップ探索者にして、世界一のインフルエンサー。
彼も最初は無名の一般人だった。
それが覇王剣術をひっさげて、瞬く間に世界におどりでた。
彼もこんな気分だったのだろうか。
聞く機会があれば確かめたいな。
「そっか、いまの俺なら彼に会えるかも知れないんだ……あは、あはははは」
「青空くん。そんなに喜んで何か良いことでも思いついたの?」
「ああ、今日は次の配信テーマを決めるんだったよな?」
「うんうん、それで?」
戦い専門の俺に企画力はない。
次を考えろと言われても思いつかなかった。
でも、もう一人の青空呼人に会うためにしなくちゃいけない事なら分かる。
それを題材にすれば良い。
「ちょっと一般的じゃないけど、迫力だけならあるぞ」
「だから何よ?」
「みんなが憧れるマジックバッグを入手するよ」
「……あは、あはは、は、えっと~ゴメン。なんだか聞き間違えたみたい。いまマジックバッグて言った気がしたよ」
ヒナタはおかしな事を言いだした。
それで合っているのに。
「え? えええええ! それってSクラスのアイテムじゃない!」
ヒナタは店の中だと忘れたのか、喉がつぶれるほどの大絶叫をあげた。
さすがにこれは説教をしておきました。
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