第6話 配信者デビュー ④

「待ってよ、何もおかしな事はないよ。普通に魔石を取っているだけじゃないか」


 誤解だよと言っても、ヒナタは呆れてタメ息をついている。


 俺はちゃんと理解してもらえるように、丁寧に説明をすることにした。


「よーく見ていてよ。体には血管の通っていない部分があるんだ。それがここさ」


 魔石取りで手間なのは、解体とその時につく血と脂の後始末だ。


 そこで色々と試したら、切り裂かなくても簡単に取り出せる方法を見つけたんだ。


 まずは肋骨の3番目と4番目の間に、魔石があるミゾオチへ向けて刃物を入れる。


 ──ザクッ!──


 この時、入れる深さは拳1個分。


 後はテコの原理でこじ上げたら、ゴブリン特有の緑色の魔石が、プルンと小気味こきみ良く出てきてくれるんだ。


「ほらな、こうすれば魔石が出てくるんだよ。別に怪しいことなんてしてないぞ」


 ふー、説明としては完ぺきだ。口下手な俺にしたらよくやったよ。


 特別なスキルを使ったのでなく、誰にでも出きる雑技だとわかってもらえただろう。


〝なーんだ〞って落胆されてしまうだろうが、誤解されるよりはいいからな。


「それよーーー! 全然ふつーじゃないわよ。血の一滴も出てないしさ、超便利な裏技じゃん!」


 鼻面がくっつく程に迫られている。


 思っていた反応との違いに、俺の方が戸惑っている。


「えっ、そういう血管の通っていない所を見つけただけで……」


「だけって。それ以前にプルンて何よ。まるで枝豆みたいに飛び出してくるじゃない」


「いや、たまたま筋肉の裂目があってだな、それを通してやればって……思ったんだよ?」


「あのね、それを思いつくのが凄いんだよ。何処まで君は規格外なのよ?」


 いや、これもスキルなしのソロ活動の産物だ。


 俺には魔石の近くをバッサリと切り裂く大技もない。


 かと言って、水魔法や浄化魔法でキレイにする事もできなかった。


 それにモタモタしていれば、別のモンスターに襲われる。


 この時短採取は、苦肉の策に他ならないんだ。


 だけど、それを他のみんなも凄いことだと喜んでいる。

 ヒナタも瞳を輝かせ、エアー魔石取りまでし始めた。


「こうかな? うーん、やっぱ本物をやらないとコツがつかめないわね」


「あのー、良かったら俺の獲物で練習してみる? あっ、みんなもどうぞ」


「えっ、いいの?」

「やった、わたし一番!」

「ズルッ、俺にもさせてよ」

「うおおお本当に枝豆だー、すっげーーーわ!」


 プルン、プルンと魔石が飛び出す度にどよめきが起こっている。


 全員には行き渡らないが、誰にでも出来るのをみて難しくない事を実感してもらえた。


「すげーな青空。いや、青空師匠」

「なんでも出来るなんて格好いいよ」


「そんな事はないよ。コツが分からなかったら教えるからね」


「「はーい」」


 皆が夢中になっている中、コメントを見てみるとこちらも良い反応で安心できた。


〈またまた試しました。これは気持ちいい、クセになりそう笑〉

〈今までの苦労は何だったやら〉

〈ゴブリン、ゴブリンはどこじゃー〉

〈え、おらも行ってくらあ〉


「またまた実践ありがとうございます。喜んでもらえて何よりです」


 自分の雑技も捨てたものじゃないとジーンときた。思わず頭をさげてしまう。


 改めてもう一度説明していると、ひとつのコメントが目についた。


〈あれ、グラスウルフだとちゃんと出ないぞ。しかも血が吹き出た〉

〈もしや万能でない?〉

〈オークでは取り出せたけど、イマイチかな〉


 早くも応用をしている人がでた。

 これには顔がほころび、嬉しくなって答えてしまう。


「取り出し方はある程度の共通はありますが、モンスターの種類によって違います。その度にお教えしますので参考にしてください」


〈はーい、お願いします〉

〈ええええ、早く知りたーい〉

〈違うのか、ざんねん〉

〈〝種類によってとは〞って、青空くんの底がしれないな〉

〈チャンネル登録しなくては〉

〈焦らすなよー笑〉


「あははは、すみません。獲物がいたらお見せしますね」


 こんな交流をしながらなんて、なんかちゃんと配信できているな。


 同接も2万を超えてきている。ちょっと自信になりそうだ。


 これで良いんだよねとヒナタを見ると、この子も〝えーっ〞と落胆していて、いち視聴者になっているよ。


「でも青空くん、なんでそんな事が出来ちゃうの? 私たちと一緒でこっちに来たの初めてなのにさ」


「あ、それは」


 ヒナタのこの本質をついてくるひと言で青ざめた。


 自分で工夫した小技だから気楽に話していたけど、改めて聞かれると返答に困ってしまう。


 探索者として30年間の工夫の賜物だなんて言えやしない。


 だけど嘘はもっと言いたくない。


 だってヒナタが俺を見る目は、他の誰よりも信頼度しきっている眼差しだ。


 しかも動画配信を一緒にする仲間になった。


 大事なパートナーだからこそ、適当な事を言いたくない。


 でも本当のことを言えば、ヤバい奴の烙印をおされてしまうよ。


「青空くんってもしかして、魔力とかで何か見えちゃうの?」


「お、おう。そ、それだよ、それ。さっきの手入れもそれ系さ」


 これはあながち嘘じゃない。


 ある配信者の動画を参考にして、魔力を感じる能力を身につけた。


 その人は索敵や鑑定スキルに合わせると効果的だと紹介していたが、俺にはそんなスキルなどない。


 何か応用できないかと考え、魔石採取にあててみた。


 するとそれが見事にはまったんだ。


「そうなんだー。スキルに耐性だけじゃないなんて君って本当に凄いんだね」


「あはは、ありがとう」


 でもその魔力を感じる能力は、その配信者が発見したものだ。


 かなり特殊なやり方で見つけるのに苦労しただろう。


 だから、その身につけ方までは伝えない。その人が公開するまで内緒だよ。


 そうこうしていると、目的の橋が見えてきた。みんな警戒しつつも安堵している。


 モンスターの襲撃もなく無事に帰れそうだ。


「良かったね、青空くん」


「ああ、ヒナタも無事で何よりだ。さあ、帰ろうか」


「うん」


 明るい返事に笑いあって手をとる。


 と、余談だがこの後少しの間、ゴブリン狩りがブームになった。


 探索者が狂ったように狩りまくり、現地の住民は驚いていたらしい。


 それはのちに〝第一次プルン争奪戦〞と言われ、ちょっとしたお祭りだったらしい。

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