第4話 配信者デビュー ②

 死に戻った俺は未来の事を知っている。

 その知識を安易に発信したくない。


 それは未来が変わるからダメとかじゃない。

 実際にこの数分で、知っている未来とは変わっているしね。


 単純だけどパクリをしたくないだけなんだ。

 人が考えた事なのに、我が物顔でってあり得ない。


 裏技や小技の知恵は、その人が必要に迫られたりして世に出たものだ。


 それを考えつく前に、俺が披露しては申し訳ない。

 下手したらその人の人生そのものを壊すかもしれないよ。


 だから俺なりのルールとして、俺のアイデアや異世界での常識などは良しとする。


 逆に他の人が見つけた情報とかは、やむ得ない場合以外は披露しない。


 きちんと線引きをし、出演する事をきめた。


 それで当面の目標は地球に帰ること。


「みんな列になって出発なあ」


 先生の号令で下流にある橋をめざし、約300人での大移動だ。


 そして俺はその集団の先頭を任された。


 先程の戦いで腕を見込まれ、協力することになったんだ。


 それと同時に七海さんから、動画配信の再開をさせると言われた。


「えっ、歩きながらを流すの?」


「心配しなくても、視聴者の反応を見られるよう、モニターは付けてあるからね」


 七海さんは器用にも、カメラの前面にモニターを取りつけ、俺から見えるように改造している。


 この短時間でこの仕事はプロ並みだ。


 だけど、俺が言いたいのはそうじゃない。


「いやいや、俺の担当はバトルだろ。モンスターがいないし、無言って訳にはいかないよ」


「そうよ、だから軽く自己紹介が欲しいわね。それにさ、戦いばかりだと、親御さんとかが危険なのかと心配しちゃうじゃない」


 それを言われるとぐうの音もでない。


 だけどいくらなんでも急すぎて、心の準備が出来ていないよ。


「でも何をしゃべったらいいか分かんないよ」


「なんでも良いのよ。それも含めて青空くんなんだからさ」


 請けおったのはいいけど、いざ始まるとなると緊張してくる。

 ヘタしたら格上モンスターよりヤバいかも。


 今更ながら少し後悔してきたよ。


「ちょ、ちょっと待って。いざって時のため準備をするからさ」


 ピークにきている緊張をほぐすため、黒と白の石を拾い剣の刃に当ててこすりだす。


 慣れた動きをすることで、自分のリズムにもっていくんだ。


 シャカシャカと何度か繰り返していると、少しだけ落ちついてきた。


「青空くん、そろそろ良い?」


「も、もう少し!」


 七海さんはかしているのではないのだろう。


だけど、今ので緊張がぶり返してきた。


 無心にならなきゃヤバい。


 その為にもっとシャカシャカしなくては!


 とにかく無心、余分な事は考えない。ヘタの考え休むに似たりだよ。


 もうこすって擦って擦りまくりだ!


「ねぇ……青空くん。それって何をしているの?」


「あっ、ゴメン。ちょっと夢中になりすぎた」


「それは良いんだけど、普通の石なんかで擦ると剣が傷つくよ?」


「あ? ああ、これはね。たまたま見つけた事なんだけど、これで剣の切れ味を甦らせているんだよ」


「それってただの石だよね。……もしかして異世界あるある?」


「いやいや全然。俺が考えついた事だからね。他の人はこんな事はやらないよ」


「へっ?」


 異世界の物には、大なり小なり魔力が含まれている。

 この何の変哲もないただの石ころでさえでもだ。


 そしてこの黒と白の石には、相反する魔力を持っていて互いに微妙な反発をしあうんだ。


 そこが気になった俺は、何か起きる気がして試してみた。


 するとあら不思議。この2つで刃先を挟んで擦ってみると、反発と同時に融合もおこった。


 具体的にいうと、石が微細化し魔力と溶け合う現象だ。


 それがうまい具合に刃こぼれした所へ微細化した石と魔力が付着して、結果的に剣を修復してくれたんだ。


 出来上がったときには、メチャはしゃいだ。

 剣は新品同様の切れ味になってくれるんだよ。


 まあ、たまたま見つけた事だけど、これは俺オリジナルの工夫のひとつだ。


 特にお金がなかった駆け出しの頃には、よくお世話になりました。


 七海さんに見せるため、試しにそこらの草に刃をあてて、ゆっくり引いて斬ってみる。


 うむ、上出来。


「あ、青空くん、その技って凄くない?」


「いや、貧乏臭い裏技だしさ、恥ずかしいものだよ」


 周りの探索者たちは、俺なんかよりずっと稼いでいた。


 砥石にしたって、ひとつ何百万円もする魔道具をつかっていたよ。


 こんな裏技なんか見向きもされなかった。


 いわばこれは、初心者用の雑技のようなものさ。


「ううん、めちゃくちゃ凄いよ! それを考えただなんて尊敬しちゃうよ。そうだ、その技を配信しちゃおう」


「えっ!」


「だって、今でさえみんなの戦力アップになるし、それに無料ただて知ったら、みんなすっごく喜ぶよ!」


 俺のアイデアで人が喜ぶだなんて考えてもみなかった。


「いや、こんなの誰も興味を持たないよ」


「ううん、良い悪いって判断するのは私たちじゃないの。見ている人にゆだねてみようよ」


 委ねてみるか……なんだかそう言われてスッキリした。


 俺が普段から使っていた裏技が、人にどう判断されるかは興味ある。


 もしみんなが見向きをしなくても、俺は使い続けるだけだし何の被害はない。


 逆に喜んでもらえたら儲けものだよ。


「七海さん、俺やってみるよ。俺なりに伝えてみるよ」


「よーし、話は決まったわね。じゃあ、さっそく行くよ!」


「えっ、えっ、今から?」


「もちろんよ、3、2、1、キュー!」


 有無も言わせずスタートされた。


 またまたド緊張で脈拍が一気に爆上がり、思わず悲鳴を上げてしまいそうだ。

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