第3話 配信者デビュー ①
みんなが笑いながら悲鳴をあげている。
「ぎええええ、きっしょー!」
「おえっぷ、匂いがダメだ」
「いやー、わたし無理、ヤダー!」
トロールの脅威がなくなり、みんなが落ち着き始めた頃。
先生が魔石の捕り方を教えると、解体をはじめた。
だけど、汚くて臭いモンスター代表のトロールだ。
それと生々しい血と肉に、生徒はドン引きだ。
「こーら、この程度で騒ぐな。この魔石1つで数万円分になるんだぞ。そう思えばお宝に見えてくるだろう」
「うげー、あれをやるなんて無理だわ」
「血がーー、ヒィィィィ!」
血みどろの先生がニタリと笑うと、まさにホラーでしかない。
耐性のない子は卒倒している。
俺は独自のやり方があるし、みんなが見れるように場所を譲って後ろにさがっておく。
それよりもこれからの事を考え、やるべき事を準備しなくちゃいけない。
と、七海さんが横にやってきた。
「青空くん、さっきはありがとう。嬉しかったわ」
「いいって。でも、どうしたの。血が嫌いなの?」
「ううん、解体は大丈夫。……ちょっと青空くんに相談あって来たの」
改まってなんだろうと聞いてみる。
「青空くんって、動画配信に興味ない?」
「ああ、大好きでよく見ているよ」
そう言えば、前の人生ではもう一人の青空呼人の配信ばかりを四六時中見ていたっけ。
そもそも、探索か動画チェックかの生活を繰り返すだけの人生だったな。
……うっ。いま考えると華やかさのない日常だったよ。
彼女なし、ソロ活動だから友達なし、いくらかの貯蓄はあっても使う道なし。
ストイックがすぎていた。少し意固地になっていたかも。
「そうじゃなくて出る方よ。青空くん、私といっしょに動画配信を始めてみない?」
「お、おれがー? はははっ、ただの高校生の配信なんて誰も見ないだろ」
俺はてっきり、チャンネル登録をしてくれというお願いかと思っていた。
それならオッケーするつもりでいたが、全く見当違いの内容だった。
「ううん、そんな事ないの。既に青空くんはちょっとした有名人になっているのよ。ほら、見て!」
それはさっきのトロールの映像だ。
もう動画投稿としてあげてある。
「あれ、戦っている所も撮っていたの?」
「だってめっちゃカッコ良かったよ。それよりもこの数字を見てよ」
「10万回再生? えっ、これさっき起きたばかりの事だよ。もしかして七海さんってすごい配信者?」
「ううん、実は私の朝までの登録者数なんて、10人もいなかったのよ。それが今や1万人よ、1万人。もう、わたし興奮しまくりよ!」
アップしたてなのにこの数字だ。
しかも現在進行形でその数は増えている。
「でもどうしてこんな事に?」
内容はエキサイティングだけど、きっかけ無しで急激な変化はおこらない。
「それはね、先生がすぐに緊急事態信号を発信していたの。学校や政府が動いて、地球の方じゃ大騒ぎになっているみたいなのよ」
まさかと自分のスマホをチェックすると、【異世界に取り残された生徒たち】と大々的に報道されていた。
前回の人生では、先生たちもそんな余裕はなく、もっと遅くにしか地球に伝わらなかった。
前回では経験をしていない展開だ。
そして先生は少しでも救援の助けになるようにと、七海さんの動画配信があるとも連絡したらしい。
その情報が拡散して、一気にこのチャンネルに人が集中したのだそうだ。
だから今もその数字は伸びている。
「ライブで流していたから、コメントも続々と来ているのよ」
その一部を見せてもらった。
〈心細いだろうけど、みんな応援しているからな〉
〈無事で帰ってきてね〉
〈慎重に行ってよ〉
〈ゴブリンなんか怖くないぞ。それ以外は逃げろ〉
〈誰一人として欠けるなよ〉
〈がんばってねー〉
いまも待機中だけど、生徒全員を映す形で流れている映像に、続々と励ましのコメントが流れている。
前回みたいに人知れず耐えなくていい。
あの時は、生きて帰れないと全員が覚悟していた。
それが今回はコメントに励まされ、クラスのみんなも希望を持とうとしている。
世間のそんな温かい心遣いに頭がさがった。
「それでね、青空くんへの反響がこれよ」
コメント欄をスクロールさせていくと、なんだか賑やかな一群があった。
〈あいつスゲーな、何者だ?〉
〈青空くん、かっけー〉
〈あのタイミングはずるいわ。王子様降臨よ〉
〈後は任せろ、キリッ。キャーーーー!〉
〈青空王子、見参w〉
〈見た目もいいし、マジ惚れました〉
〈青空くんのお陰で、みんなの生還にも期待が出来るな〉
顔から火が出そうな程に恥ずかしい。
いったい何が起こっているんだ。
そこは俺の名前で埋め尽くされていた。
「だから言ったじゃない。みんな青空くんのファンなんだよ」
「ファ、ファン?」
俺が動画で何かを伝えるだなんて考えてもみなかった。
見る専門だったし、トーク力だってある訳ない。
でも俺の戦う姿を見て、勇気づけられたと喜んでくれている。
そんな反応に軽薄だけど素直に嬉しくなった。
コメントをなぞっていくと、ひときわ盛り上がっている部分があった。
〈おいおい、みんな褒めすぎ。奴が貰ったスキルがすごいだけ。スキルよけりゃ誰だってヒーローになれるぜ。騙されるな!〉
〈そうそう、奴じゃなくスキルが最強なのよ。んで、ちょーしにのってすぐドボンよ〉
アンチの人は何処にでもいる。
こんな名もない高校生にだってついてくる。
だが、この件はこれで終わらなかった。
擁護してくれる人がいたんだ。
〈いやいや、その前のタックル見てねーの?すげえよ、ドカンと100mは吹っ飛んだぜ〉
〈そうだよ、初心者でトロールやるなんて、俺らがカバを吹っ飛すのと同じ位に凄いことだよ?〉
〈そうそう、カバにタックル。怖っ!〉
〈カバw〉
〈カバは草〉
〈つまり青空くんはカバ殺しのヒーローだ。誰にも真似できないぞ〉
〈カバ殺し笑〉
〈カバ殺しのヒーロー笑笑〉
〈すみません。俺にはカバは殺せません。無理だわ、おれズボンです〉
めっちゃくちゃいじられている。
「あっ、そこも見ちゃったんだ。……えっとー、それは愛されている証拠だよ?」
「これがなのー?」
俺の渋い顔に苦笑いで返してくる。
しばらく続けたが自然と笑えてしまった。
「あはははは、まあ悪意はないのは分かったよ」
「うん、青空くんには人を惹き付ける魅力があるんだよ。それに今、クラスのみんなも画面の向こうの人も青空くんにすがっているよ。その頑張る姿にみんな勇気づけられるんだよ」
「そんな事はないよぉ、俺みたいな者に無理だって……んん、どうしたの、みんな集まって?」
いつの間にか周りに人だかり。
すっごく期待した目で見てきている。
「もしかして、やれっ事?」
一斉にうなづいてくる。めっちゃ笑顔でずーっとふっているよ。
うんと言うまで止めそうにない迫力だ。
「ほらね、これで分かったでしょ?」
「えっとー、うん、オレやってみるよ」
「「「うおおおおおおおおと、青空くんサイコーだーーーーーーーーーーーーー!」」」
七海さんも凄く喜んでくれた。
だけどひとつ引っ掛かることがあって、それを七海さんに聞いてみる。
「ところでさ、何をやればいいの? 俺は上手に話したりは出来ないよ?」
「うん、当面はバトルかな。青空くんの売りは圧倒的なパワーだし、それを全面に出していきましょ」
これを聞いてホッと胸を撫でおろす。
喋りたくないとかの怠慢とかでなく、未来を知っている俺だからこそ悩む件だ。
戦うだけならお手のものさ。
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