第5話

5話

◉足るを知る


 ジンギさんの言う通り①-④は来てちょっとした臨時収入が入った。

「ほら、だから言ったろ?10000賭けとけばよかったのにな」とジンギは言うが自分はそうは思わない。増えたならそれでいいのだ。  


 桐谷は『知足』という言葉が好きだった。足るを知る。禅の教えだ。ギャンブルをするならこの考えを持たないと永遠に勝たない。100張って当てても1000張っておけば良かったなんて思ってしまう人には勝利の満足感は永遠に訪れない。負けるまで張り続けてしまうだろう。だから、足るを知る。このくらいでいいと言う考えを持つ。それが勝利者になるための思考回路だと桐谷は思っているのでレースなど当たればそれだけでいいのである。

 この、ちょっと増えたお金。入金する前に何か有意義な使い道はないか?自分の贅沢には絶対使わない桐谷だったが、今は長根尾舞がいるのでそこはケチケチしない。そう言う所も桐谷の良いところだった。自分の節約に他人を巻き込んだりは決してしない。あくまでも節約生活をするのは自分だけ。臨時収入があれば彼女にはプレゼントをと考えるのだ。

 とは言え、なんの記念日でもないので高価なものはさすがに買わない。なにか、程よい価格の素敵なものはないか。そう思っていた所にガラス工房が目に入る。まだオープンしたてのようだ。工房内で販売もしている。

(これだ!)

 店内を覗いてみると綺麗なガラス工芸品が数千円で販売されていた。中でも桐谷の目を引いたのはガラスの中にガラスで作った柑橘系の輪切りがいくつも入った瓶のようなペンダントが素敵だなと思った。きっと長根尾さんに似合う。

「これ、ください」

「ありがとうございます!こちらはお買い得品で2000円ですね」

「そんなに安くていいんですか!こんな綺麗な作品が」

「オープン記念にお買い得品コーナーを設けてみたんです」

 よく見てみたらたしかにその一角にこっそりとそう書いてあった。

「またいらして下さいね」

「はい」


 長根尾舞への程良い価格の素敵なプレゼントが手に入り桐谷は大変満足した。


 残額を銀行へ入金するとスーパーに寄り道して残った小銭で卵と納豆と豆腐と麩を買って家ではどんなにお金があろうとも質素な生活を続けるのだった。

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