第14話 ジル爺さんの昔話
わしは平民出身で、王宮付きの魔道具師になったんです。
父も母もそりゃあ喜んだし近所の見知らぬ人までお祝いしてくれました。どこへ行ってもおめでとうって言われましたね。
ところが実際にはおめでたくなかったんですな。
貴族以外の者が王宮に出入りすることを嫌がるお偉方もいて、わしは常にそういう連中から睨まれていましたからね。そのおかげで魔道具師らしからぬ下働きを一年くらいする羽目になりました。
まあその後も思っていたような仕事は来なかったんですが……。
もちろんそんな立場だから、与えられた部屋は研究棟の端っこで、しかも雨漏りするから本来は使われていないような場所でした。
そこへある日、王様の次に偉いと言われている宰相様が、直接わしを訪ねてきたんですな。
普通なら名誉なことだと思うでしょう。でもこういうのってたいていロクでもないことを依頼しに来るもんなんですよ。
わしはすごく嫌な予感がしましたね。
王宮には、はるか昔に古代遺跡から出た特別な魔道具があると言われておりました。そのうちの一つに[人を洗脳する魔道具]があったらしいんですな。
そんなものを使って古代の人たちが何をしていたのかはわからんですが、とにかくちょっと聞いただけでも物騒な代物だったんです。だから何代か前の王様によって壊されてしまったと。まあもっともな話ですな。
そういうわけで本物は使えないから、似たようなものを作れと宰相様に言われました。
案の定ろくでもない依頼だったと、わしは心の底からうんざりしたもんです。
複雑な魔術回路を組まなければならないのに、材料は小さな魔鉱石一個しか渡されませんでした。これでは無理だと訴えたんですが、全く聞いてもらえませんでな……。
その上研究室の環境をだんだん悪い方へ変えられて、ついには監視が付いて作業工程が進まなければ休憩も食事もとらせてもらえなくなったんです。
わしはあの時、空腹のあまり死を覚悟しましたぞ……。
あぶら汗を流しながら必死に作業して、ようやくできたのは洗脳とは程遠い効果しかない魔道具でした。
暗示程度に人の認識を少し変えられるだけで、「何かおかしい」と気付かれたら簡単に解けてしまうような効果の弱さでしたな。しかもかなり無理のあるバランスで魔術回路を詰め込んだから、おそらく二~三回の使用で壊れるはず。
そんな
魔封じの塔とは魔術師などの魔法に長けた犯罪者を閉じ込めておくための塔で、内部では魔法も魔道具も使えなくなります。要するに牢屋みたいなところですな。
わしは何も悪いことをしていませんし、それどころか宰相様に言いつけられて仕事をしていたのに、どうしてそんなところにぶち込まれるのか?
たぶん宰相様は、口封じのためにわしを殺すつもりだったんでしょうな。
そうでなければバルバラが決死の覚悟であの塔に飛び込んでくる理由がありません。可愛い後輩だからとちょくちょく親切にしておいて良かった……というのは冗談ですよ。
彼女がどうやったのかはわかりませんが、魔封じの塔に仕込まれている[魔力を吸い出す魔道具]を解除し、さらに塔の見張りに薬入りの酒を振る舞って眠らせたというのを聞いた時は、わしは腰を抜かすほど驚いたもんです。
そんなジャジャ馬娘が震えながら自分に
そのまま勢いにまかせて馬車をかっぱらって、彼女と話し合って向かった先がベスフィーオ領だったというわけです。
ええと……あの時わしが作った魔道具が、いま坊ちゃまに抱きかかえられているお嬢さんに使われていたんじゃないか、という話ですよ。
一瞬ですが、
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