第6話「不思議な少年」

機嫌が悪そうにキッドを睨むタツヤ。

「風花さんが嫌がっているんです!それに風花さんは、タツヤ様のじゃありません!

汚い手で風花さんに触らないでくださいっ!!」

キッドは風花をかばった。


いつになく強気な態度のキッドに驚き

「キッド君?いきなりどうしたんですか」おろおろする風花。



「何だと!? てめぇ、最近、生意気なんだよ!!」

と怒鳴りキッドの胸倉を掴んだ。風花は血相を変え

「きゃあっ!?何をしているんですか!やめてください、タツヤさん。

キッド君に乱暴しないで!」


タツヤの腕を強く引っ張った。ひとまず喧嘩は収まったが、

険悪な雰囲気で3人は学校に向かった。

風花は中等部、タツヤは高等部、キッドは初等部に分かれて、それぞれ授業を受け、




やがて夕方になると、雨が降り出してきた。

授業が終わり風花が校舎から出てくると、キッドが傘を持って待っていた。

「お待ちしていました。風花さん。さあ、帰りましょう」

「タツヤさんはどうしたのですか?」


キッドは少し怒りながら

「ああ、あの人は委員会だそうです。あれでも頭だけはいいですから!」

とキッドらしくない言葉が出た。

風花は少し驚いたが、キッドから傘を受け取ると、

傘を差しキッドと並んで歩き始めた。



しばらく住宅街を歩いていくと、電柱の下にダンボールが一つ置いてあった。

ダンボールから鳴き声がした。

「にゃあ、にゃあ」

覗いて見ると猫がいた。どうやら捨て猫らしい、

三毛の仔猫だ。この雨でずぶ濡れである。


「捨てられたのね…可哀相」

と風花が言うと、キッドは仔猫を抱き上げ

「本当にここじゃ、可哀相ですね。家に連れて帰りたいのですが、

風花さん。いいですか」と、おずおずと聞いた。

「もちろんですよ。早く暖めてあげなくちゃ!」

とにっこりと微笑み。キッドもほっと胸を撫で下ろし

「ありがとうございます! 風花さん」と、嬉しそうに微笑んだ。

家に帰り、仔猫を風呂に入れよく乾かすと、

小さな籠に毛布を敷き、即席ベッドを作った。



「にゃあ」仔猫が鳴いた。

「お腹がすいているみたいですね」とキッドが言うと、

「そうなのですか。ミルクでいいかしら?」

風花が皿に人肌に暖めた

牛乳を入れて持ってきた。ぺろぺろと、

美味しそうにミルクを飲む仔猫、柔らかな表情で仔猫を見詰めるキッド。



風花はキッドの横顔を見ているうち、自分の夢に最近出てくる

彼に似ているなと、思い始めていた。

しかし、そんな事があるはずないと、

かぶりを振る。彼は15歳ぐらいで

どう、見積もってもありえないから、それにキッドが自分にキスなどするはずもない。

キッドは、風花にとって弟のような存在だ。しかも夢の事である。



風花は毛布の中で、いつの間にか眠ってしまった

仔猫の背中を優しく撫でた。とその時、キッドが

風花の手の上に自分の手を重ねた。

「キッド君?」


キッドをきょとんとした目で見詰める風花。

「風花さん、僕は」何かを言い掛けた。

その時、「何をしている。キッド」

後ろからタツヤの冷たい声が聴こえた。


「あっ、タツヤさん」風花が言い掛けると、

キッドが言葉をさえぎり、

「ああ、タツヤ様。お帰りなさい。早かったですね」

にこやかに言うと、タツヤは眉間にしわを寄せ

「お帰りじゃねぇよ、キッド。その猫はなんだ?」

仔猫を指差し、キッドを睨んだ。すると、風花はあわてて

「あっ、あのっ…この仔猫は雨の中、捨てられていてですから!」



タツヤは風花の言葉をさえぎり、

「お前に聞いてるんじゃねぇよ。キッドに聞いているんだ。キッド、

何のつもりだ? 捨ててこい」

すると、キッドは嫌な顔一つせず

「分かりました。僕もこの子と一緒に出ていきます」

玄関から外へ飛び出していった。

「キッド君っっ!!」

風花は真っ青になると、傘を2本持ち追いかけようとした。



だが、「待て! 風花!」と、タツヤに手首を掴まれ引き戻された。

「嫌っ! 放してくださいっ!」

風花がタツヤの腕の中でもがく。

パンッ!何と、気の弱い風花が、タツヤの頬を勇気を振り絞って叩いたのだ。

唖然として赤くなった頬を押さえ、風花を見詰めるタツヤ。


風花の大きな桃色の瞳から大粒の涙が流れる。涙を流しながら、風花は言った。

「酷い・・・酷すぎます! タツヤさん。キッド君は、家族じゃなかったんですか?

何があったか知りませんが、あんな仔猫にまで八つ当たりして、見損ないました!」

と叫ぶと、風花は玄関から飛び出していった。

タツヤは「くそっ!」と小さく舌打ちすると、「風花!」と叫び傘を掴むと、

後を追い掛けた。風花は必死でキッドを探した。だが、どこにも見当たらなかった。



風花はその日、風邪を引いており、

この雨で身体が冷やされ顔が真っ赤になり、

息を乱すと「キッド君、猫ちゃん」

苦しそうにつぶやくと、高熱が出た、風花は地面に倒れてしまった。


冷たい雨が風花に降り注ぐ。

その時、真っ赤な翼を持つ少年が風花の前に下り立った。

茶色の髪、緑色の瞳、整った顔立ち、細身の身体。その肩にはなぜか、あの仔猫が

乗っていた。少年は風花を軽々と抱き上げると、切なげな表情で風花を見詰めた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ここまでお読みいただきありがとうございました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る