第72話 やっぱりチートだねぇ


 リフォームのために今中さんの部屋へ行った。


「ちわーっ、きのした工務店ですぅ!」


 扉が開いて今中さんが姿を現した。

 普段は重厚な聖女の服を着ている今中さんも、今日はゆったりとしたワンピース姿だ。

 一般人がなかなか目にできない聖女のプライベートを垣間見た気がして胸が高まった。

 制服姿しか見たことのない同級生の私服姿を見ると、なんだか新鮮じゃない?

 それに近いものがあるのかもしれない。

 簡素な服だったけど、それがかえって今中さんの魅力を引き立てている気がした。

 

「どうぞ入って、木下君」

「お邪魔しまーす」


 考えてみると女の子の部屋に入るのは久しぶりのことだ!

 遊びに来たわけじゃないのに、なんだかドキドキしてきたぞ。

 同じ宮廷内だから部屋の造りは僕のところと変わりがないけど、なんだかいい匂いがするなあ。

 こ、これが今中さんの部屋かあ……。


「居間の方へどうぞ。紅茶を用意するね」

「お構いなく、えっ……?」


 扉の向こうに三郷さんがいて僕は驚いた。

 三郷さんは僕の方を見てニヤニヤ笑っている。


「やあ、キノちゃん。ミホりんのお部屋に興奮して勃――」

「わあ~! わあ~!」


 今すぐあいつを防音素材で囲ってしまいたい!


「どうしたの、木下君?」


 今中さんに卑猥な単語は聞こえなかったようだ。

 危ないところだった。


「何でもないんだ。三郷さんがいてちょっとびっくりしただけだから」

「イシシ……」

「花梨ちゃんと木下君って仲がいいよね」

「そ、そうかな……」

「あーしらはマブダチだかんね!」


 マブダチと言われて嬉しかったけど、微妙な気分ではあった。


 紅茶を飲みながらどういうリフォームがいいか今中さんの希望を聞いていく。

 ついでにクラブハウスについても話しておいた。


「それ、とってもいいよ、木下君!」

「私も広いお風呂に入りたい! 滑り台をつけてよ!」


 三郷さんの話はめちゃくちゃだ。

 でも、プールならウォータースライダーはありだよな。

 それに、プールがあればみんなの水着姿が見られる。

 もちろん、今中さんのもだ。

 クラスで一番人気だった小山内春香おさないはるかだって遊びに来るかもしれない。

 そうなれば、クラスメイトの男子からは崇め奉られること間違いなしだろう。

 うん、プールは決定だな。


「キノちゃん……」

「変なことを言ったら滑り台は中止にするよ」

「……なんでもない」


 勃起の二文字を封殺して僕らは話を続けた。


「広いお風呂、清潔でゴージャスなトイレ、そしてプールね。他にはない?」

「私、踊れる場所がほしい! クラブみたいなフロアがいいな」


 なるほど、僕には思いつかない発想だ。


「他には?」

「私は図書館があったらうれしい」


 さすがは文学少女の今中さんだ。

 僕も本は読む方だから図書館はぜひ作ってみたい。

 ラノベや漫画があれば喜ぶやつも多いだろう。


 こんな感じで、クラスメイトのリフォームをしつつ、みんなの意見を募った。

 いちおう全員に連絡を取ったけど、反対するやつは一人もいなかったな。

 みんな乗り気で、資金ならいくらでも提供するから、すぐにでも仕事に取り掛かってほしいと言われたくらいだ。

 我がクラブの名前はサイリョウクラブに決まった。

 名前の由来は僕らが通っていた高校の名前にちなんだものだ。

 僕らにとっての共通点はこれだからね。

 クラスメイトからのアンケートをざっとまとめるとこんな感じになった。


 欲しいものリスト

  大浴場(露天風呂、洞窟風呂、サウナを含む)

  広いパウダールームのついたゴージャストイレ

  プール(屋外型と全天候型の二つ)

  図書室

  音響スペース(ダンスホール兼)

  遊戯室

  コンビニ

  食堂

  談話室

  トレーニングルーム

  休憩室(ベッドがあるところ)


 他にもリクエストはいろいろあったけど取捨選択してこうなった。

 さすがにキャバクラとか、風俗関係は却下だよ。

 あと商品管理が面倒なものもなしにした。

 そういうのはコンビニだけで精いっぱいだ。

 これくらいで勘弁してもらおう。

 全員のリクエストをかなえていたらビルが建ってしまうからね。

 まあ、できなくはないけどさ……。

 大まかな構想はできたので、次は用地をなんとかしないとならない。


「カランさん、どうしたらいいかな?」

「関係部署に問い合わせてみましょう。召喚者たちの福利厚生を担当している者たちがおりますので」


 さすがは頼りになるサポーターだ。

 カランさんはすぐに出かけて行き、そして、すぐに戻ってきた。


「用地の候補が上ってきました」

「やけに早いですね」


 まだ三十分も経っていないぞ。


「王宮からは少し離れていますが、アヴィータ地区にいい出物があります。そこをお買い上げになるのはいかがでしょうか?」

「値段は?」


 ローザリアは王都だけあって土地の値段が高い。

 それに、アヴィータ地区は高級住宅街だったはずだ。

 まあ、クラスメイトがお金を出し合えば、多分買えるとは思うけど。


「お値段は二〇〇〇万クラウンです」

「安っ!」


 想定していた半分以下だ。

 広さはおよそ三五〇〇平米でこれ?

 絶対に問題があるぞ!


「なにか裏があるの?」

「たいしたことではございません。ちょっとした事件があっただけですから」

「事件?」

「貴族のバカ息子が相続問題でごねて、両親と兄弟を刺し殺したのです。親殺しのそのバカは居間で焼身自殺をはかり、屋敷は全焼しておりますね」


 事故物件じゃないか!

 書類を読み上げるカランさんは平常運転だ。

 まるで気にしていない。


「ひょっとして、……出るの?」

「らしいですね。夜な夜な当主夫妻が不出来な息子を探してさまよっているそうです。近隣の住民は例外なく目撃しているそうです」

「そんなところ嫌だよ!」

「どうしてでございます? イマナカ様にお頼みすればいいではないですか。聖女の神聖魔法で彷徨える魂を救済して、その上で伯爵が燃えた屋敷を撤去。綺麗なクラブハウスを建てれば何の問題もありません。幽霊屋敷がなくなれば近隣の人々も喜ぶでしょう」


 言われてみればそんな気がしてきた。

 むしろ、そうした方が死者の供養もできていいのかもしれない。


「わかった、今中さんに相談してみるよ」

「ぜひそうしてください。あんな出物は滅多にございませんから」


 事故物件だってなんのその。

 僕らにとってはお得なチャンスか……。

 ジョブスキルはつくづくチートだと思った。



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1巻が本日(11月14日)発売されます。よろしくお願いします!

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