第69話 戦後のこと
ヴォルカン廃坑の戦いはローザリア軍の圧倒的な勝利で幕を閉じた。
ヤンデール公爵も無事に救出されたので公国は再建の道を歩んでいる。
各地に散らばっていた文武の諸侯も都に集まりだしたようだ。
ヤンデール国内の魔物はほぼやっつけたけど、ピリット将軍が指揮するローザリア軍はいまだにヤンデール公国にとどまっている。
ヤンデール軍の再編にはまだまだ時間がかかるということで、しばらく駐留することが決定したのだ。
竹ノ塚たちは一足早く王都ローザリアに帰還したけど、僕はヤンデール滞在を延長した。
ぶっ通しで働いたせいで、起き上がれなくなってしまったのだ。
根源的な魔力不足が原因なので今中さんの回復魔法でも治せないらしい。
治療法はとりあえず寝る、って感じである。
エルニアさんがヤンデール城に招いてくれたので、一週間ほど静養させてもらった。
ヤンデール城にきて八日目、体中に力がみなぎるのを感じた。
体の奥で枯れかけていた泉が復活した気がする。
これならもう起き上がっても大丈夫だろう。
「うん、元気になった!」
「それはようございました」
「よ、よかったです!」
カランさんとセティアはとても喜んでくれた。
セティアなんて涙を流して喜んでくれている。
それなのに、どうしてアイネとエルニアさんは不機嫌な顔をしているんだろうね?
「もう二、三日くらい寝ていてもいいのですよ、伯爵」
「タケル様のお世話ができなくなってしまいました……」
勝手なことを言わないでほしい。
とはいえ、この二人には大変お世話になった。
僕は動けなかったから、食べるのも、着替えるのも、体を拭くのも、それに……排泄まで介助してもらったのだ。
うん、思い出しても恥ずかしい。
こうしてみると、健康って本当に大切だと思う。
今回は無理をしなければならなかったから、仕方がないと言えば仕方がないけど、今後は計画的な作業が必要だと実感した。
元気になった僕は、リハビリもかねて王城の修復を手伝った。
ここも魔物に襲われて、城門や外壁の一部が崩れ落ちていたのだ。
お城というのは、いざというときは住民の避難先になるそうだ。
それが崩れたままでは城下の人も不安な毎日を過ごすことになるだろう。
そう考えて、無償ボランティアの最中である。
崩れていた城壁はきれいに修復したから今日は壊された井戸を再建するとしよう。
「さすがは婿殿、民のことを一義に考えるとは、まさに王者の鑑!」
「僕は婿ではありません。王様になるつもりもないですよ」
ヤンデール公爵はちょっとしつこい。
何度断っても、僕とエルニアさんをくっつけようとするのだ。
エルニアさんもはっきりと断ってくれればいいのに、恥ずかしがってばかりいる。
そりゃあ、エルニアさんはかわいい。
スタイルだって抜群だ。
何を考えているかわからないことも多いけど、優しくて仕事熱心なところも好感が持てる。
こんな人が恋人だったらすてきだよね。
だけど、結婚となると話は別だ。
僕はまだ十八歳だもん。
「何を言っておるか婿殿。貴族たるもの、十八にもなれば結婚は当たり前ですぞ。儂が正妻のルルノリアと結婚したのは十六歳でしたな。ちょうどやりたい盛りの頃で、毎晩世継ぎ作りに励んでおりましたわい。ルルノリアもノリノリでそりゃあもう――」
公爵は仕事をしながら下ネタをかましてくる。
本日はエルニアさんと公爵が社員になってくれて、井戸を掘りなおしているところだ。
ちょっと意外だったけど、エルニアさんだけでなく公爵も働き者だった。
人を頼むからいいと申し出たのに、自分がやると言ってきかなかった。
しかもまじめで丁寧な仕事ぶりときている。
ずっと下ネタが止まらないのが玉に瑕だけど……。
「タケル様、どうして井戸なのですか? 蛇口を付けた方が早いと思うのですが……」
工務店の仕事に慣れてきたエルニアさんが質問してきた。
もちろん蛇口もつけておくが、まずは井戸なのだ。
「転送ポータルは七年くらいで不具合が出てくるかもしれません。でも、これは僕にしか直せないアイテムです。井戸だったらヤンデールの技術者でも修繕はできますから」
説明するとエルニアさんは悲しそうな顔になってしまった。
「タケル様はもうヤンデールには戻ってこられないのですね」
「そんなことはないです。呼んでいただけばいつでもどこでも駆けつけますよ!」
大切な友だちのためなら二十四時間どこでも対応、それがきのした魔法工務店だ。
でも、僕がそう言ってもエルニアさんの顔は悲し気なままだった。
ため息をつくのはヤンデール公爵も一緒だ。
公爵は駐留しているローザリア軍を見ている。
「どうしたのですか、ため息なんかついて?」
「お金だよ……」
「お金というと、クラウンですか?」
「うむ、まったく足りないのだ」
公爵の話によるとヤンデール公国はローザリア王国に戦費を払わなければならないそうだ。
魔物を撃退したのはローザリア軍だから、これは仕方のない話である。
ただ、それはかなりの額に上り、すべてを返しきるには何年もかかるとのことだった。
「ヤンデールはもともと小国でな、返済のことを考えると頭が痛くなるわい。婿殿、何かいい知恵はないかのぉ?」
「だーかーらー、僕は婿殿じゃないですよ。でも、戦費なら魔結晶を掘ってお金を作ればよくないですか?」
魔結晶は高値で取引されると聞いているぞ。
「それができれば苦労はせんわい。ヴォルカン山の魔結晶はとっくに掘りつくしているのだ。ヤンデールに他の鉱山はないからのぉ」
「掘りつくしている? そんなことないですよ」
「へっ?」
「僕、見ましたもん」
「見たって……、何を……?」
ヤンデール公爵とエルニアさんは、穴のあくほど僕の顔を見つめている。
「魔結晶の鉱脈ですよ。すっかり忘れていましたが、ロックザハットを落とした穴の底で見たんです。たしかディアマンテルとかいう魔結晶じゃなかったかな?」
「ディアマンテルだとぉおおおっ!」
公爵が大声を出すので、僕は驚いてしまった。
「た、たぶんです。魔結晶については専門家ではないので」
魔結晶をエネルギー源にする工具、重機、アイテムなんかが多いので、多少の知識はある。
だけど、それほど詳しいわけではない。
「タケル様、色は? ディアマンテルの色は何色でしたか?」
「たしか、薄いブルーだったと思うけど……」
公爵とエルニアさんが目を合わせてうなずいているぞ。
「すぐに技師を派遣せねば」
「そうですわね。サンプルを取りませんと」
サンプルというのは地中に細い穴を掘って、魔結晶の存在や密度を調べるのだろう。
「僕も軽くやってみましたけど、かなりたくさんありましたよ。たぶん十年くらい掘っても掘りつくせないんじゃないかな?」
「でかした、婿殿!」
「うえっ!」
公爵に強くハグされてしまった。
「おじいさま、それはわたくしの役目ですわ!」
エルニアさんは笑っているけど目が怖い!
「すまん、すまん。感動でつい抱き着いてしまったわい。もう、いっそ儂と結婚するか?」
「ご遠慮します」
何が悲しくておじいさんと結婚しなくてはならないのだ。
「とにかくめでたい!」
公爵は有頂天になり、エルニアさんは抱きつきこそしなかったけど、遠慮がちに握手を求めてきたくらいだった。
その後の調べで、僕が見つけたのはやはりディアマンテルの鉱脈だったとわかった。
しかも最高級とされるブルーディアマンテルだったようだ。
埋蔵量はかなりのもので、ヤンデール公国の復興費用は十分賄えるらしい。
めでたし、めでたしだった。
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