第66話 ロックザハットをやっつけろ!
三郷さんの補助を受けながら、ロックザハットの部屋の上まで穴を通した。
認識阻害の魔法が効いているとはいえ、敵の将軍に近づくのは手が震えたよ。
七大将軍は召喚者数人に匹敵する力を持っているという話だからね。
部屋の真上まで来ると、先ほど使ったパイプカメラで内部の様子を確認した。
ごつごつした岩を組み合わせてできたような岩人間が、大きな椅子にふんぞり返っていた。
身長は二メートルを余裕で越えている。
肩幅だって僕の三倍はありそうだ。
頑丈そうな鎧を付けた姿は、いかにもパワーがありそうだった。
こいつがロックザハットか……。
僕たち四人はモニターを見つめながら息を飲んだ。
ロックザハットは部下らしき魔人と向かい合って何やら話し合っていた。
「援軍は予定通りか?」
「偵察に出たガルダンから報告がありました。援軍は予定通り、ここから二日の距離まできております」
ガルダンとは鳥系の魔物のことだな。
ロックザハットはガラガラと大きな笑い声を立ててうなずいた。
「そうか、そうか! いよいよ明後日は満月だ。俺の魔力も最大限に高まる。ローザリア軍と召喚者たちの最期も近いぞ」
「しかし、大丈夫でしょうか? 敵の中には防御力の高いパラディンもいるようですが」
「パラディンなど恐れるに足りぬわっ! 援軍と挟撃、浮足立ったところに我が必殺の『火炎岩石流』で攻撃すれば、いかに召喚者たちといえどもひとたまりもない!」
岩魔将軍は山の上から燃え盛る大岩を千個くらい落とす作戦であるらしい。
これは満月の晩にしか使えない大技のようだ。
竹ノ塚のマジックナイトシールドは広範囲に展開する高性能防御魔法だけど、火炎岩石流の衝撃に耐えられるのだろうか?
大岩の全てを受けきれたとしても、高熱と酸素不足が心配だ。
僕の顔色を読んだのだろう。
竹ノ塚が笑顔を見せる。
「心配すんなって。やられる前にやっちまえばいいのさ」
そのとおりだ。
そのために僕らはここまできたのだ。
ロックザハットは部下を相手に話を続けた。
「忌々しい召喚者たちを潰せると思うと興奮がおさまらんわい」
「さしもの召喚者も将軍の火炎岩石流の前ではなすすべもないでしょうな」
「うむ。だが、やつらはしぶとい。ひょっとしたら生き残るかもしれんぞ」
ロックザハットは愉快そうに笑った。
「奴らが生き延びるというのに、どうして将軍はそんなに嬉しそうなんですか?」
「当たり前だ。もしも瀕死のやつらを見つけたらじっくり手当をしてやるさ」
「ええっ!?」
「そして、傷が癒えたら拷問してやるのさ」
「なるほど、それは名案だ! 死なせてくれと泣きながら懇願するまで、たっぷりいたぶってやりましょう!」
二人の魔人は拷問について愉快そうに語り合っている。
指を一本ずつ岩ですり潰すとか、石抱きの刑にして、誰が最初に泣きを入れるかを賭けるとか勝手なことを言って盛り上がっているのだ。
本当に楽しそうで、心の底からムカついてしまうよ。
「これ以上は聞いてられねえ。さっそく作戦にかかろうぜ」
竹ノ塚の提案を否定するものは誰もいなかった。
ただ、先ほども述べたように七大将軍は強い。
特にロックザハットは怪力の持ち主であり、防御力に関しては七大将軍の中でもいちばんとの情報もある。
単なる奇襲では反撃される恐れがあった。
「そこで僕の出番だね」
攻撃力はもたない僕だけど、落とし穴は得意である。
スノードラゴンをやっつけたという実績もあるのだ。
そこで、今回もロックザハットを穴に落とすことにした。
ただし、ロックザハットは頑丈だ。
むき出しの鉄骨をしかけても、それらを撥ね返してしまうかもしれない。
だから、奴を穴に落としておいて真上から由美が攻撃することにした。
今回のメンバーの中で火力がいちばん高いのは由美である。
反撃の隙を与えずに上から攻撃を加えれば、いかにロックザハットの防御が優れていても、必ず討ち取れるだろう。
「よーし、始めるぞ!」
まず、ロックザハットの部屋の真下に深さ三〇メートルの穴を掘った。
底には剥き出しの細い鉄骨を配置している。
スノードラゴンを倒した単純なトラップだ。
ロックザハットの部屋の床はまだそのままで残っている。
あとは『工務店』の力で床を解体してしまえばいいだけだ。
ロックザハットはまだ部下と馬鹿話に興じているぞ。
やるなら今しかない。
「みんな、準備はいい?」
竹ノ塚、今中さん、三郷さん、由美の四人はうなずいて、赤マムリンを一息で飲み干した。
全員の魔力は最高値まで上がっている。
「敵の注意を天井にひきつけるよ。三郷さん、ステルスを解除して」
「了解」
僕らの存在を消していた魔法が消えた。
よし、やるぞ。
「くらえっ、必殺、床外し!」
僕の声に驚いたロックザハットは天上を見上げたが、その瞬間に床が消えてなくなった。
「うおぉおおおおおっ⁉」
ロックザハットは部下の魔人と共に足元の闇の中へ落ちていく。
ややあって、ズシンと腹に響く地鳴りがした。
どうなった……?
五人で穴の底を覗き込むと、ロックザハットが起き上がるところだった。
「死んでない!」
鉄骨はロックザハットに刺さるどころか折れている。
それよりなにより、三〇メートルの高さから落ちても平気だなんて……。
だが、これはまだ想定の内だ。
「破邪閃光矢」
すかさず由美が攻撃していた。
魔力を具現化した光の矢が穴の底へと放たれる。
最大魔力がこもった由美の必殺技だ。
これで決まったか!
息を殺して見守ったけど、やはりロックザハットは一筋縄ではいかなかった。
すかさず部下の死体を拾い、これを盾にしたのだ。
魔力が送られた部下の体から石の結晶が生え、一瞬で堅固なシールドへと変化した。
破邪閃光矢は召喚者の必殺技だ。
いくら七大将軍が相手であっても、直撃すればひとたまりもない。
だが、硬いシールドがあれば軌道をわずかに逸らすことは可能だった。
ロックザハットは矢を受け流しながら身をひねって必殺の一撃をかわしていた。
「小川、次を撃て!」
竹ノ塚が叫んだけど、大技だけあって破邪閃光矢のチャージには時間がかかる。
反撃はロックザハットの方が速かった。
ロックザハットが地面に手をつくと魔法陣が回転し、岩の裂け目から禍々しい武器が出現した。
「
一秒間に五〇〇発の石礫を飛ばす最凶の武器が、僕たちに狙いを定める。
「まとめて死ねっ!」
ロックザハットの怒声が穴に響き、銃口が火を噴いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます