第59話 敵の兵器
トンネルの軌道をずらして坑道の方までやってきた。
エルニアさんも作業に慣れて、トンネルを掘るスピードは上がっている。
これなら、時間のロスは少なくて済みそうだ。
そろそろ魔物のいる場所が近い。
ここからはさらに慎重になる必要がある。
掘削スピードを緩めてなるべく音を出さないように掘り始めると、ちょうどそこへ三郷さんがやってきた。
僕がお願いしてきてもらったのだ。
「私をご指名だって? 坑道が近いから魔物の気配を探るんだね」
「うん、資材置き場に敵がいないかを確認してほしいんだ」
「了解。将軍から依頼があってさ、穴が繋がったら私がステルスの魔法を使って偵察に行くことになってるんだ」
「単独行動なんて大丈夫なの?」
「そりゃあ、こっちに来たばかりの頃は怖かったけど、場数を踏んで慣れてきたよ」
「でも坑道内はトラップとかもあるんでしょう?」
「正面から侵入するとなると厄介だけど、キノちゃんのおかげで行くのは穴の途中からだよ。何とかなるっしょ」
心配ではあるけど、三郷さんは偵察のスペシャリストだ。
僕が口をはさむまでもないか。
とにかく今はトンネルを資材置き場につなげることに集中しよう。
資材置き場が近づくと、三郷さんは壁に手をついて目を閉じた。
「何をしているの?」
「魔力の揺らぎを検知してるの。これで魔物の位置がわかるんだ。……坑道はまだ先ね。大丈夫、このまま掘り進めて」
「わかった」
音を立てないようにそっと掘ることを心がけた。
ついに資材置き場の近くまでやってきた。
「おそらく、この土の向こうが資材置き場だよ。もう一メートルもないくらい」
三郷さんが敵の気配を窺う。
「うん、部屋の中に魔物はいないね。今なら大丈夫」
僕らはうなずきあって、一気に穴を開けた。
「オッケー、見た感じトラップもないよ」
三郷さんの後ろから僕とエルニアさんも資材置き場に入った。
部屋の中は真っ暗で、しんと静まり返っている。
「灯りをつけてもいいかな?」
「いいけど、用心のために小さいのにしてね」
「豆球ならいいよね?」
〇・五ワットのLEDを壁につけた。
「いいな、これ。夜中にトイレに行くとき、足の小指をぶつけなくてすみそう」
「帰ったら三郷さんの部屋もリフォームしてあげるよ」
「キノちゃん、大好き!」
たわいのない会話をしながらも、僕らは慎重に資材置き場を調べた。
そして、とんでもないものを発見してしまう。
「ええっ⁉ なにこれ……機銃?」
かすかなオレンジ色の光に浮かび上がったのは、禍々しいフォルムをした巨大な武器だった。
形は機銃に似ているのだけど、かなり大きい。
戦闘用のスキルを持たない僕でさえ邪悪な魔力の波動を感じられるほど凶悪な代物だった。
「
エルニアさんがかすれた声を出した。
岩魔砲の名前を聞いて三郷さんがうなずく。
「聞いたことはあるよ。土魔法を応用したロックザハットの秘密兵器だね。なんでも一分間に石礫を五〇〇発も撃てるんだって。これでやられた兵士はかなりの数に上るそうだよ。ここにあるのは未完成品みたいだけど……」
「私が知っているだけで、ヴォルカン坑道に岩魔砲は二か所も設置されています」
狭い坑道にこんなものが二か所も!
「竹ノ塚みたいな防御力を持っていればいいけど、一般兵士はひとたまりもないよ。あーしだって直撃すれば……」
三郷さんは吐き出すように言った。
これまで三郷さんがいたのは激戦区だ。
いやというほど死体を見てきたのかもしれない。
僕も戦闘は知っているけど、そこまで悲惨な体験はまだないのだ。
「こんなもの!」
思わず岩魔砲に飛びついていた。
「キノちゃん、なにしてんの?」
「砲身に強力なコンクリートを流し込んでいるんだ」
こんなものを持ち出されたら被害は大きくなるばかりだ。
ひょっとしたら、ロックザハットはトンネル完成前に討って出てくるかもしれない。
岩魔砲なんて使えなくしておいた方がいいに決まっているのだ。
「エルニアさん、岩魔砲が設置されている場所はわかりますか?」
僕は坑道の地図を広げた。
「わかりますが、どうするつもりですか?」
「行って、無効化してみる。三郷さんのステルスは一名の随伴者が可能だったよね?」
「やる気? おもしろそうじゃない!」
三郷さんは乗り気のようだ。
「とりあえず内線で相談してみるよ」
本部にはいつでも連絡が取れるように、僕はトンネル内に内線を引いてきている。
受話器を上げると、カランさんはツーコールで呼び出しに応じてくれた。
「――というわけで岩魔砲やトラップをつぶしておきたいんだ。所要時間はおよそ二時間ってところだよ」
「承知しました。すぐに将軍たちに掛け合ってみます」
カランさんからの折り返しは十分後にかかってきた。
「作戦の許可が下りました。ですがくれぐれも気を付けてください。伯爵がお亡くなりになれば私の出世がなくなります。ついでですが、心の張り合いも失ってしまいますので」
「最高の激励だと受け取っておくよ」
受話器を置いてエルニアさんに向き直る。
「エルニアさんはトンネルの中で待っていてください。すぐに護衛が駆けつけてきますので」
「わ、私も行きます!」
「そうはいきません。偽装のために資材置き場側からトンネルへの穴は塞ぎます。それに三郷さんのステルスに同伴できるのは一人だけなんです」
「…………」
「必ず戻ってきますので」
「わかりました」
エルニアさんを見送ってから、穴を塞いだ。
さすがはきのした魔法工務店、補修作業も完璧だ。
そこに穴があったとは信じられないくらい自然な仕上がりになっているぞ。
「私たちのやることは二つ」
「敵の動向を探ること、そして岩魔砲やトラップの破壊だね」
「そういうこと。じゃあ、私の肩に手を置いて」
「う、うん……」
「遠慮しないでもう少し近づきなって」
そうしなければステルスの効果が及ばないのはわかっている。
でも、クラスメイトの女子に触るのは緊張するなあ……。
ズボンで手を拭いてから、三郷さんの肩に軽く手を置いた。
「キノちゃん……」
「え、なに?」
「勃起してる?」
「そんなわけないだろう!」
むしろ縮み上がっているよ……。
目指す場所には魔物がうようよしているらしい。
この僕がそんなところに行くなんてね。
「イッシッシッ。まあ、リラックスしなよ。心臓の音を魔物に聞かれちゃうかもよ」
「まじで?」
「冗談。声も足音も、音はすべて遮断するから安心して」
『無音』は逆位相の音波をぶつけて音を消す、三郷さんの超絶スキルだ。
「そんじゃまあ、行ってみますか」
小さな声で三郷さんが呪文を唱えると、認識阻害の魔法が僕らを包み込んだ。
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