第52話 作戦会議
翌朝、ヴォルカン方面の軍事会議が開かれた。
招集したのは竹ノ塚だ。
ピリット将軍をはじめ高級将校が勢ぞろいしていてビビってしまったよ。
軍人さんって怖そうな顔をしているんだよね。
だけど、竹ノ塚は堂々と僕たちの計画を話し出した。
「以上、木下が立案した作戦です」
竹ノ塚の言葉に僕は戸惑ってしまう。
「お、おい、作戦なんて大げさなものじゃないだろう?」
「いいや、立派な作戦だぜ。うまくいけば敵を後ろから奇襲できるんだ」
そう簡単にいけばいいのだけど……。
指揮官のピリット将軍が質問してきた。
「キノシタ伯爵、本当にトンネルを掘ることは可能ですか?」
「小さなトンネルですが、掘ること自体はそれほど難しくはありません。問題は内部構造の情報がないことと、トラップの存在です」
前提条件として、大軍を送り込めるような大きなトンネルは掘れない。
掘れないというか、そんなものを掘ると時間がかかりすぎてしまうのだ。
僕が掘るのは人一人が通れるくらいの穴である。
その穴を使って召喚者チームが敵の背後から奇襲をかけるというのが、僕と竹ノ塚が考えた作戦だ。
トラップは避けて掘ればいいけど、万が一にも起動させてしまったら何が起こるかわからない。
既存の坑道からは少し離さないとな……。
「音はどうなるでしょうか? 敵に気づかれる恐れはありますか?」
それだよなあ……。
「坑道の近くを掘ったら、どうしても振動などは伝わってしまうと思います。大きく迂回すればリスクは減るでしょう。ただ、先ほども言ったように内部構造がわからないので……」
間違って坑道の壁に穴を開け、魔物と鉢合わせ、なんて可能性もゼロではないのだ。
そうなれば僕は真っ先に攻撃対象になってしまうだろう。
「それならお任せください。坑道の見取り図はヤンデール城の金庫にございますわ」
護衛として僕のそばに座っていたエルニアさんが口を開いた。
「伯爵、こちらの方は?」
「ヤンデール公国のエルニア殿下です。事情があって一緒に行動しています」
「どうぞよしなに……」
「こちらこそ……」
なんだかぎこちない挨拶をしているぞ。
魔軍の侵攻があったとはいえ、ローザリア軍は国境を越えてヤンデール公国にやってきている。
言ってみれば、この二人は国境を侵された側と侵した側なのだ。
ヤンデール軍は壊滅状態だから仕方ない部分もある。
だけど、国と国とのことはセンシティブな問題があるのだろう。
そう考えれば、この微妙な雰囲気もうなずけた。
「い、今は魔軍を退けることだけを考えましょう」
柄にもなく発言してしまったよ。
困難なときこそ優先順位を見失ってはならない、と校長先生が朝礼で言っていた。
いがみ合っていても仕方がない。
とにもかくにも魔軍の撃退だ。
僕にとって大切なことはトンネルづくり。
そして、ヤンデール公爵の救出
同級生や兵士たちの住環境づくり、その三点である。
やるべきことを粛々とこなしていくだけだ。
竹ノ塚や今中さんも僕に同調してくれた。
「ま、そういうことだな」
「政治的な話は混乱が収まってから関係者でしてください」
三郷さんや、由美まで大きくうなずいている。
召喚者たちが同じ意見を共有していると見て、将軍も気持ちを切り替えた。
「そうですな、まずは魔軍を撃退することが先決。私も軍人です。後のことは大臣たちに任せて目の前の敵に集中しましょう」
一連のやり取りを見てカランさんは満足そうにうなずいていた。
僕の成長を喜んでくれているようだ。
それに対してアイネはちょっとつまらなそうである。
「もう少しまごまごしていてもいいのに……」
「えー、少しは成長を喜んでよ」
「……………………………………はい」
間が長すぎる!
アイネのことはさておき、この日の軍事会議でかなり詳細な部分まで作戦内容は詰められた。
「それではこれで会議を終了します。ずいぶんと遅くなってしまいましたな。このまま食事をここへ運ばせましょう」
指令所である天幕の外は、もう薄暗くなっていた。
会議の緊張で胸がいっぱいだったけど、終わったとたんにお腹がすいてきたぞ。
せっかくだから僕もいただくとしよう。
将軍が合図をだすと当番兵たちが次々と食事を運び入れた。
本日のメニューはどうなっているのかな?
豆と野菜のスープ
硬く焼きしめたパン
鶏のバターグリル
リンゴのコンポート
これが将校たちの食事である。
戦場にしては恵まれた食事だったけど、竹ノ塚たちは肩を落としていた。
「どうしたの?」
「味も量も悪くないんだけどさ、ずっと同じメニューが続いているんだよ」
戦地、しかも他国ということで食料の補給がうまくいってないそうだ。
さらに、召喚者と将軍は毎日チキンを食べられるが、普通の将校は三日に一度らしい。
一般兵士にいたってはパンとスープだけとの話だ。
「食料だけではありません。生活用品も不足しているのです。士気にかかわるので大変困っているところですよ」
すぐに底をつくようなことはないが、かなり
竹ノ塚はガツガツと豆のスープをかきこんでいるけど、今中さんたちは手が止まっている。
みんなはヴォルカンに来てもう三週間以上経つそうだ。
不自由な暮らしを強いられているんだなあ。
それに、もっとひどい状態に耐えている千五百人の兵士がいる。
彼らのストレスは溜る一方だろう。
今こそ僕の出番ではないだろうか?
よし、今度はあれを作ってみるとしよう。
夜間工事だってキノシタ魔法工務店にお任せあれだ。
騒音は一五デシベル以下で、便利なアレを作ってしまうぞ!
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