第40話 レッツ デュエル!
西部最大の都市ゴートに到着した。
ここでは僕が来ることがあらかじめ知らされていて、ご領主さんに歓待されたよ。
広い館で催されるパーティーに招かれてしまった。
きらびやかな衣装に身を包んだ、お金持ちそうな人がそろっている……。
「みなさん、グラスはいきわたりましたか? それでは乾杯しましょう。我らが英雄、キノシタ・タケル殿に!」
「キノシタ・タケル殿に!」
自分の名前を大声で唱和されてしまったぞ。
うん、気恥ずかしい……。
セティアじゃないけど大広間の隅っこでじっとしていたい気分だ。
「もっと堂々としていてください。ご城主様は氷魔将軍ブリザラスとスノードラゴンを討ち取った英雄なのですよ」
黒のカクテルドレスに着替えたカランさんに叱られてしまった。
改めて見ると、カランさんって美人だよなあ。
凛とした黒百合って感じだ。
今夜は僕もガウレア城塞の城主としての正装である。
カランさんに言わせると、こんなのはまだまだ序の口で、王都ローザリアに帰還すればさらに大きなパーティーが待っているらしい。
「だからここは肩慣らしくらいに考えてください」
「はあ……」
「いろいろな頼みごとをされると思いますが、すべて受け流すように。何かを約束するのは絶対にダメです。名士とか紳士とか呼ばれる人間はえてして貪欲なものです」
「わ、わかった……」
「いざというときは国王陛下のお許しがないと、と言えば問題にはならないでしょう。田舎紳士程度なら陛下のお名前を出しておけば無理なことは言いません」
黄門様の印籠みたいなもんだな……。
「あと、女には気をつけてください。ご城主様は後腐れなく遊べるタイプではないでしょう? 不用意な誘いに乗れば厄介ごとを抱えますよ」
「了解。だったらカランさんが僕を守ってよ」
「ご要望があるのならそうしましょう」
なんだかアイドルのマネージャーみたいだなあ。
その晩は飲み慣れないワインを三杯も飲んでしまったけど、思ったよりは美味しかった。
女の子たちからキャーキャー言われてサインをねだられたのは、やっぱり嬉しかったな。
モテ機到来? みたいな感じで、ついつい気が大きくなってしまったよ。
あらかじめカランさんについていてくれるように言っておいてよかったかもしれない。
特にナンチャラ夫人とかカンチャラ夫人と呼ばれるアラサーのお姉さんたちにグイグイ迫られたんだよね。
この人たちは隙あらば僕を連れ出そうとしたほどだった。
「すこし風に当たりたいですわ。バルコニーまで連れて行ってくれませんこと?」
だの、
「異世界の殿方はどんなお身体をしているのかしら? 私、とても興味がございますのよ。 このあとお暇?」
とか、大きく胸の開いたドレスで迫ってくるのが衝撃的だった。
この世界って不倫がオープンなの?
まあ、そのつどカランさんが撃退していたけどね。
食事会が終わると、ご領主さんがカードに誘ってくれた。
僕を気遣ってくれたようなので、ありがたくお受けすることにした。
カードバトルは嫌いじゃない。
「カードですか? いいですね、デュエルは僕も大好きですよ! あ、でも、僕のデッキは日本に……。ん? ああ、カードってトランプですか」
デザインはちょっと違ったけど、こちらのカードは地球のトランプとほぼ一緒だった。
ここでは、これを使ってギャンブルをするらしい。
って、本当にお金をかけるの?
「ギャンブルなんてやったことがないよ」
思わずカランさんに耳打ちする。
「たしなみ程度に楽しんでください。くれぐれも深入りはしないように」
社交界ではこういうのをやらなきゃならないようだ。
これも付き合いというものか。
郷に入っては郷に従え、と、国語の山中先生も言っていた。
不安はあるけどやってみるか。
だけど……。
「あの、僕はカードのルールとか知らなくて……」
「では大富豪はいかがです?」
領主さんの言葉に唖然とした。
「大富豪って、あの……?」
「別名、大貧民。異世界からの召喚者がこちらで流行させたカードゲームですよ」
「それなら知っています……」
「では『革命』アリでいきましょう!」
なんだか賭け大富豪が始まってしまったぞ!
「ところで、どうやってお金を賭けるのですか?」
「ゲームのはじめに、大貧民は大富豪に金貨を二枚、貧民は富豪に一枚払うルールです」
なんかそれ、リアルすぎて嫌!
さっそくゲームが始まって九人の紳士淑女がテーブルを囲んだ。
最初のゲームで僕はなんとか平民におさまり、金貨を失うことも貰うこともなく済んでいる。
それにしても部屋の照明が暗くて手元や場のカードが見えにくいな。
それにこのテーブルもカードが扱いにくい。
「ちょっとよろしいですか。このままだと目が悪くなりそうで……」
魔力を集めて羅紗を張った大きなカードテーブルを作った。
遊戯室も、キノシタ魔法工務店にお任せあれだ。
テーブルのサイドにはLEDが内蔵されていて、場の雰囲気を盛り上げている。
作製にかかった時間はおよそ五分。
今夜も絶好調。
これで遊びやすくなったぞ。
異世界の皆さんも目をお大事に。
「邪魔になるようなら後で消すので、今はこちらで遊びましょう」
ご領主は大慌てだ。
「消すなんてもったいない。どうかこのテーブルは私にお売りください!」
「ご領主がもらってくれるのなら、今夜の歓待のお礼にさしあげますよ」
そう言うと会場は大いに盛り上がっていた。
「これが『工務店』の能力……」
「テーブルの上が輝いているではないか……」
ざわめきが遊戯室に広がっている。
「本当にステキ! ねえ、横でカードを見ていても構わないかしら?」
「ワインのお代わりを持って来てさしあげましたわよ」
ナンチャラ夫人とカンチャラ夫人がまた寄ってきたぞ。
「あ、あんまりくっつかないでくださいね……」
興が乗ってきた僕は金貨を取られないようにカードに集中した。
◎◎◎
領主の館を外から覗く者があった。
タケルの動向を探るヤンデール公爵令嬢エルニアである。
エルニアは中の様子を見て歯噛みする。
「庶民のために風呂を改装したと聞いて見直したのに、何なのあれは!」
タケルはボンサール夫人とクレニア夫人に挟まれてカードをしている最中だった。
既婚者とおぼしき女性に挟まれてギャンブルだなんて破廉恥はなはだしいわっ! と生真面目なエルニアは憤慨する。
やはりキノシタはどうしようもない女好きだったとエルニアは判断した。
気は進まないが明日はその部分を利用して接触してみるしかないだろう。
キノシタは自分にもその魔手を伸ばしてくるかもしれない。
そうなったとき、自分は上手く切り抜けることができるだろうか?
だが、やらなければ祖父ヤンデール公爵の命はない。
どうせキノシタはあの婦人たちと関係を持つのだろう、エルニアはそう予想する。
不倫なんて許されることじゃないわ。
それなのにキノシタは……。
アイツはドスケベだから、夫婦の寝室でことに及ぶかもしれない。
そうやって背徳感を煽って、ますます興奮するのよ。
そして「旦那と俺、どっちが気持ちいいんだ?」なんて聞くのだ。
そうに決まっているわ!
女の方は「そんなこと言えない……」とか言って言葉を濁すんだけど、キノシタは自分の方が気持ちいいと女が認めるまで激しく攻め続けるのよ。
なんてひどいやつ!
冬の寒さに震えながら、今夜もエルニアの妄想は止まらなかった。
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