第二部 ヴォルカンの穴 編
第35話 旅立ち(第二部)
僕たちを乗せたそりは白銀の世界をなめらかに進んだ。
そりに乗っているのはカランさん、アイネ、セティア、僕の四人だ。
国からの召還を受けて、僕らは王都ローザリアへ向かっている。
太陽の光は暖かく、風も穏やかだった。
まさに絶好の旅行日和だけど、僕の心は沈んでいる。
「お寂しいのですか?」
アイネがそっと僕の手の上に自分の手のひらを重ねた。
「まあ、それはね……。エリエッタ将軍、グスタフやバンプスたちと別れるのは辛らいよ」
みんなで協力して苦労を乗り越えてきたのだ。
この世界でようやく見つけた僕の居場所だったのに、こんなに早くお別れが来てしまうとは……。
「カランさん、これからもこんなふうに移動が続くのかな?」
「そうでございますね。ご城主様のお力を考えれば、その可能性は大きいです」
自分が有用な人間と認められたのは嬉しいけど、あちらこちらを転々とする生活は気乗りがしない。
こんなふうにすぐに別れが来てしまうかもしれないからだ。
「そうだ! ご城主様、いつかお屋敷を建ててくださいな」
だしぬけにアイネがそんなことを言った。
「屋敷って、アイネのかい?」
「違います。ご城主様のお屋敷を建てるのですよ。ううん、お屋敷じゃなくてババーンとお城でもいいですね!」
「僕の……城?」
「そのとおりです。立派なお城を建てて私をそこで雇ってくださいね。私はずっとご城主様のおそばにいますから!」
「アイネ……」
「うふふ、ご城主様がどんなに没落しても、私がベタベタに甘やかしてさしあげますわ♡」
思わず苦笑してしまったけどアイネの心遣いがうれしかったし、家や城を建てるというのはとてもすてきな考えだと思った。
だって、僕は工務店なのだから。
「アイネのためにかわいい部屋を用意するよ」
「あ、あ、あ、あ、わ、私も……、ご、ごいっしょ……」
セティアが口をパクパクさせながら僕を見つめている。
「セティアも来てくれるの?」
今度はブンブンと首を縦に振りだしたぞ。
「だったら使いやすい工房も用意しないとね」
「快適な執務室を希望します。水洗トイレ、プライベートバスルーム、寝室にはウォークインクローゼットも必要ですね」
そりの手綱をとっていたカランさんは振り向きもせずにそう言った。
どうやらカランさんも一緒に住んでくれるようだ。
有能な秘書官が一緒なら心強い。
「うん、そのときがきたら立派な城を建ててみせるよ。きのした工務店にお任せあれだ!」
ガウレア城塞からの旅立ちは寂しかったけど、僕には仲間ができたのだ。
もう弱音は吐いていられない。
それに、この世界へ一緒にやって来た同級生の動向も気になるところだ。
みんな、元気にやっているだろうか?
僕は気持ちを切り替えて雪原の彼方を見た。
雲一つない群青色の空の下、世界はどこまでも限りなく開けているような気がした。
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