第27話 ばばんば ばんばんばん


 再び満月の晩が迫っていた。

塩漬け肉を売ったお金で買った新しい矢が届いている。

補充の人員も来た。

決戦の日は近い。


 グスタフとバンプスには照明を作る能力を与えて、城壁に追加してもらっている。

僕もカメラや内線のメンテナンスをしてから照明作りに加わった。


「決戦の日までに照明を倍にするのが目標だからね!」


「六百個も増やすんですかい?」


「前回の戦闘で有効であることが証明されたからね。エリエッタ将軍にも頼まれているんだ」


「それはいいですが、俺たちが二人でどんなに頑張っても、一日に六個が限界ですよ……」


「残りは僕が作るから大丈夫。それにスキルは一日で消えてしまうけど、知識は残るはずだよ。慣れれば一日に作れる数だって増えるさ」


 僕の予想は当たって、数日も経つとグスタフとバンプスは二人で十個は作れるくらいに成長した。

おかげで満月まで数日を残して、照明の数は千二百個になった。


「相変わらず大魔法のような光景だな……」


 点灯実験を視察にきたエリエッタ将軍が嘆息している。


「前回の反省を活かして、北側だけじゃなく、真上を照らすもの、南側を照らす照明もいくつか付けました」


 数は少ないけど、空を飛ぶ魔物が回り込んでくることもあるのだ。

そういった敵をいち早く見つけるためにも照明は欠かせない。


 北から冷たい夜風がガウレア城塞に吹き付けている。

もう間もなくここも冬になるそうだ。


「一日ごとに冷えてくるな。こんな夜は風呂に限る。あとで遊びに行くからタケルも一緒に入ろう」


「いやです。将軍は水着を着てくれないから」


 あんなものを見せられたら普通ではいられないよ。


「風呂に入るのに水着は要らんだろう?」


「そりゃあそうですけど、僕だって男なんですよ。将軍が裸だと落ち着いて入れません。変なこと考えちゃうし……」


「へ……?」


 エリエッタ将軍はびっくりしたような顔をしている。


「それは、私を女として見ているということか?」


「当たり前でしょう! じっさい女性じゃないですか。本当に困るんですよね……」


「タケルは私を見て興奮するの……か……?」


「だからそう言っているじゃないですか! わざわざそんなことを聞かないでください。恥ずかしい……」



 突然、エリエッタ将軍がモジモジしだした。


「わ、わかった。今日からはちゃんと水着を着る……」


「本当に? よかった」


「タケルにそういう目で見られていると思ったら急に恥ずかしくなってきた……。なんというか、ごめん……」


「いや、まあ、僕も見せてしまっているから……」


 なんだろうね、この気まずい雰囲気は……。

そうか、今日からエリエッタ将軍は水着を着てくれるんだな。

そうなると、今さらながらちょっと残念に思えるから不思議だ。


「それにしても、これからはさらに寒くなるんでしょうね」


「ああ、ガウレアの冬は厳しいぞ」


「だったら城塞全体をリフォームしましょうか?」


「城塞全体を?」


「すべての窓にガラスをはめ込んで、断熱材や空調システム取り付けるんですよ」


「それで、何か変わるのか?」


「たぶん、今よりずっと過ごしやすくなると思いますよ」


「ふーむ……」


 この様子だと実感が持てていないな。

すべては実物に触れてからのお楽しみとなるだろう。

明日から三人で頑張れば冬前に作業を終わらせることができるだろう。

照明を消して僕らはそれぞれの部屋へ戻った。



 アイネたちと風呂に入ると脱衣所から物音がした。


「タケル、私も入るぞ!」


 あの声はエリエッタ将軍だ。


「はーい、どうぞ!」


 元気な声で応じるとアイネが首をかしげた。


「ご城主様、今夜はエリエッタ将軍が来るとわかっても平気なのですね? いつもはおたおたして落ち着かなかったのに」


「今夜から水着を着てくれることになっているんだ。裸じゃないなら温水プールみたいなものだもん。慌てることはないよ」


「ふーん……」


「失礼するぞ!」


 勢いよくドアを開けて入ってきたエリエッタ将軍の姿に絶句してしまう。

だって下しか履いていないんだもん!


「なんで上をつけてこないんですか⁉」


「だ、だって、魔物の爪痕とかあるし……。こんな胸を見てもタケルはなんとも思わないだろう?」


「思いますよ!」


「え、ホントに?」


 アイネが嬉しそうに説明する。


「ご城主様はかなり興奮していらっしゃいますよ。見てはいけないけど見たい。興奮してはいけないのに身体が反応してしまう。本能と理性の対立。二律背反の葛藤に苦しんでいらっしゃるのです。私が見るところ僅差で本能が優勢のようでございますけど、クスッ」


 アイネめ~、冷静に分析しやがって……。


「タケルが私を見て興奮……。また恥ずかしくなってきた」


「そう思うなら隠してくださいよ」


 エリエッタ将軍はキョロキョロと周囲を見回してセティアに目をつける。


「包帯娘!」


「は、はいぃいいいっ?」


「お前の水着を少し寄越せっ!」


 言うなり将軍はセティアの包帯の端をつかんでグイッと引っ張るではないか。


「あ~れぇ~! お許しをぉおおおお!」


 セティアがコマみたいに回ってる⁉ 

エリエッタ将軍は奪い取った包帯の一部を切り取って自分の大きな胸に巻いた。


「どうだ、これで見えないだろう?」


 かえってエロいです。


「ふえぇん、私の水着がぁ……」


「困っちゃいますよねぇ、ご城主様。お楽にしてあげましょうかぁ♡?」


 胸に包帯を一本だけまく将軍。

下乳をさらけ出すセティア。

発情するアイネ。

興奮でガチガチの僕。

今日もお風呂場は湯煙と混沌カオスに包まれている。


「バカばっかりでございますね」


 捨て台詞を残してカランさんがサウナ室へと消えていった。

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