第26話 新しい力
アパートは屋根工事、断熱工事、外装工事、内装工事を順調に終え、約束の三日後に完成した。
今回も工期を守ったぞ。
僕は毎晩ぶっ倒れてしまったけど、そのたびにカランさん、アイネ、セティアが面倒を見てくれて、なんとかやってこられた。
というわけで、今日は上級士官たちにアパートのお
「やけに人数が多いですね」
アパートの戸数は十六しかない。
でも、集まった士官は城塞にいるほぼ全員だった。
見学に来ていたエリエッタ将軍がボリボリと頭をかいている。
「すまんなタケル。見学会をすると言ったらみんなが興味を持ってしまったもので」
かく言うエリエッタ将軍だって単なる野次馬だ。
一通り内見を済ませた士官から次々と質問が飛んだ。
「こ、この風呂を自分たちが使ってもいいのでありますか?」
「うん、お湯は二十四時間出るので空いた時間に使ってください」
「自分で照明をつけてもいいのですか?」
「はい。むしろロウソクやランプは禁止です。火事が怖いので」
このアパートは城塞と違って木造だ。
火気は厳禁である。
「トイレがやたらときれいなのですが、本当にうんこをしてもいいでありますか⁉」
ストレートな疑問だなあ……。
「そのためにトイレはあるのです。そのかわり清掃は各自できちんとやるように」
僕が説明するたびに士官たちは目を輝かせていた。
そして当然のようにアパート争奪戦が起きた。
部屋を明け渡した士官だけじゃなく、他の士官たちもここに住みたいと言い出したのだ。
「階級が上の者に優先権を与えるべきだ」
「平等にくじ引きにしましょう!」
「私はウルバート子爵家の三男だぞ」
「紳士らしく決闘で勝負をつけようじゃないか。エアコンは誰にも渡さん……」
大混乱に狼狽する横でエリエッタ将軍は楽しそうに笑っている。
「あの程度の風呂で醜い争いをしおって、困った奴らだ。私はもっといいお風呂に入っているから関係ないもんね~。なっ、タケル」
にっこり笑うエリエッタさんは無邪気だ。
将軍は年上だけど、まっすぐに感情を向けてくるところがわかいい。
「あの、僕はそろそろ行かないといけないんですけど」
「ん、どうした?」
「空いた士官たちの部屋を繋げて、今度は兵たちの大部屋に改造するんですよ」
「そうだったな。では、こちらのことは任せて行ってくれ」
「でも、あれは大丈夫なんですか?」
士官たちの争いは殴り合いに発展しそうなくらい熱くなっている。
「ははは、いつものことさ。いざとなったら私がこいつで止める」
エリエッタ将軍はゲンコツを固めて見せた。
さすがは将軍だな。
僕はサッサとその場を後にした。
グスタフとバンプスを伴って兵士の部屋の改造へ向かった。
扉を開けた瞬間に動物園の檻のような臭いが鼻を突く。
見れば二十平米ほどの部屋に八~十人ほどの兵士と荷物が詰め込まれているではないか。
ベッドもなく、床に直接毛布を敷いて寝ているようだった。
「ご、ご城主様!」
全員が怯えた顔で直立不動の姿勢をとった。
そんな態度をとられるとこっちまで緊張しちゃうよ。
「今からこの部屋を改造します。荷物は邪魔になるのですべて廊下に出してください。詳しくはグスタフ一等兵とバンプス一等兵の指示に従うように」
瞬く間に部屋は空っぽになった。
とりあえず隣の部屋との壁を取り払って広くしよう。
それから、簡易ベッドも必要だな。
スペースの節約のために二段ベッドでいいかな。
後は天上に照明と壁に断熱材。
窓の大きさはそのままでいいけど、ガラス窓に取り換えてしまおう。
結露防止と暖房のことを考えてトリプルガラスにしておくか……。
☆☆☆
部屋の改造は日暮れ前にかなりの工程が終了した。
だけど、改造しなければならない部屋はまだあるのだ。
すべて完成させるのは明後日くらいかな、と考えていた。
ところが翌朝、ベッドで目覚めた僕にある変化が起きていた。
「とんでもないことが起きました……」
「おねしょですか?」
真面目な顔でカランさんが聞いてくる。
つっこむ気にもなれなくて、僕は無言でシーツをめくった。
「違うようですね。シーツをめくったということは私に来いという意思表示……。オネショタですか?」
また上手いことを言おうとしているな。
しかも無理やり……。
「違いますよ。社員を雇えるようになったのです」
「ご城主様はそれなりの財力があるので数名の社員くらいなら雇えるでしょうが……」
「そういうことじゃないんです」
なんと『工務店』のジョブレベルが上がった結果、自分の能力を分け与えられる社員を一日に二人だけ雇えるようになったのだ。
さっそくグスタフとバンプスの二人を社員にしてみた。
「どう、壁の変形のやり方がわかるようになった?」
「は、はい……。とんでもねえです……」
戸惑っているようだけどスキルの伝授は上手くいったようだ。
「ただ、これは一日限定の能力だから、日暮れとともに使えなくなってしまうんだ」
「それはいいのですが、俺たちにできるでしょうか? その……、工務店の仕事が」
「少しずつ慣れていってくれればいいよ。どうせ能力は一種類しか分け与えられないんだ。しばらくは壁の変形に専念してね」
「承知しました。ただ問題が……」
グスタフが申し訳なさそうな顔をしている。
「どうしたの?」
「俺たちは魔法が得意じゃないんです。ちょっとした身体強化を数分使えるだけでして……」
「それなら心配しなくていいよ。社員には僕が魔力を供給することもできるから」
二人にはさっそく壁の撤去をお願いした。
ぎこちないながらも丁寧な仕事をしてくれている。
作業時間は僕よりだいぶ遅いけど、それは仕方のないことだろう。
「いいようだね。それじゃあこの現場は任せるよ。僕は向こうで二段ベッドを作成するから、何かあったら呼んでね」
「へい、親方! ……じゃなかった、ご城主様」
その日のうちに部屋の改造はすべて終わってしまった。
もっとも魔力枯渇を起こした僕が寝室に運ばれる恒例行事はいつものように起こってしまったけどね……。
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