第24話 そして、みんなが見た


 ちょっとした事件があった。

少し遠出して、とある村に蛇口を取り付けに行ったのだけど、そこで熱烈歓迎を受けたのだ。

僕が蛇口を取り付けて回っていることはガウレア地方では有名な話になっているらしい。

村民総出の出迎えを受けて、若い娘さんから花束をもらってしまったよ! 

しかもほっぺにキスまでされたのだ……。

しかも六人に……。

次々と!


 そんなこと初めてだったから真っ赤になってしまったのだけど、それを見ていた人々は大うけしていた。


「思っていたよりぜんぜん怖くないんだな」

「かわいーいっ!」


 チョロい城主と思われたかもしれない。

でもそんなのどうでもいい! 

ようやくガウレア地方の人々に認められたって感じだよ。

蛇口取り付けを提案してくれたエリエッタ将軍に感謝しないとね。


 将軍は甘いものが大好きだから、お礼に冷蔵庫の中のバスク風チーズケーキを進呈するとしよう。

今日は気分もいいからチョコバナナクレープもつけちゃうぞ。

十日をかけて方々へ出向き、それぞれの集落すべてに蛇口を取りつけた。


 

 大事業が終わり、僕は帰りの馬車で体を崩してだらしなく座っていた。

連日の疲労が抜けきらず疲れていたのだ。

だけど、これでようやく自分の好きなことができる。


「さて、いよいよ明日から本気を出すか」


「ダメ人間みたいなことを言っていますね」


 カランさんが呆れた顔で僕を見る。


「いや、本当に頑張りたいんだよ。ほら、お風呂が作りかけのままになっているだろう?」


「ああ、そんなものもありましたね……」


 風呂用スペースとして寝室の隣にあるゲストルームを二部屋ももらっているのだ。

すでに配管などの下準備は整えてあるのだが、魔物の襲来などが重なり作業は中断されたままだった。


 機は熟した。

いよいよ明日から作業を再開する。

広い浴槽、ジャグジー、打たせ湯、サウナ、岩盤浴などを順次作っていく予定だ。

内装のタイルや滑らない床材。

乾燥機なども取り付けないとな。

『工務店』のレベルは相当あがっているから完成までにそれほど時間はかからないだろう。


「セティア、薬草茶のストックはある?」


「十杯ぶんくらいは」


「よ~し、明日は魔力が空っぽになるまで風呂作りをするぞ」


 木下工務店は挑戦し続ける企業でありたいのです! 

個人経営だけどね。



 猛烈に頑張ったので三日でお風呂は出来上がった。

本当はもっと早く作る予定だったんだけど、ずいぶん遠回りしてしまったなあ……。さあ、さっさとお湯を張って入り心地を確かめるとしよう。


 僕は内線でアイネを呼び出した。


「アイネ、ついにお風呂が完成したよ!」


(まあ、それはようございました)


「僕は今から入るから、誰か来たら待っていてもらって。緊急のときは26番(フロ)が脱衣所の内線番号だからそれで呼び出してよ)


「承知いたしました!」


 やけに弾んだ声をしていたけど本当にわかったのかな? 

まあいいや、久しぶりの広いお風呂を存分に楽しんじゃおっと!


 浴室の扉を開くと、そこは異世界だった。

異世界の中の異世界。

もう複雑すぎてわけわかんね。

僕はハイテンションだ!


 だって、白い大理石を使った円形のお風呂は広く、青い床が光り輝いているんだよ。

給湯口からは滾々こんこんとお湯が溢れ、白い湯気を上げている。

しかもこれはただのお湯じゃないぞ。

治療効果の高い魔法湯まほうとうを異次元の源泉から直接引いているのだ!


 いや、一人で使うのはもったいないくらいだなあ。

湯量は毎分七千三百リットルも湧いているみたいだから、いつか兵舎の方にも回してあげるとしよう。


 どれどれ、お風呂の具合はどうだろう? 

まずは体にお湯をかけてから……。


「あ~~~~~、いい…………」


 湯船につかると思わずため息が漏れた。

手足を伸ばしてお風呂に入るなんていつ以来だろう? 

日本でだってウチのお風呂は広くなかった。

でも今は……。


 のんびりとお風呂に使っていたら脱衣所で声がした。


「アイネなの?」


 気を利かせて着替えを持って来てくれたのかもしれない。


「着替えなら脱衣所のカゴの中に入れといてねー」


「はーい」


 やっぱりそうだ。

アイネは気が利くな……にぃいいい⁉


「失礼しまーす。うわー、広いですよ、カランさん」


「本当ですね。これなら四人で入っても問題ないでしょう」


 み、水着を着たカランさんとアイネが入ってきた! 

アイネは水色を基調としたガーリーなチェックの水着。

カランさんは前にも聞いたことのある黒のビキニだ。

二人ともスタイルがいい。


「セティア、早くいらっしゃい」


「いらっしゃいじゃないですよ! 僕は裸なんです。出て行ってください」


「私は本国にご城主様の真価を報告する義務があるのです。そのためにも風呂の調査は絶対です。それに一緒に入りたがったのはご城主様ではありませんか」


 そうだ、前に独り言を聞かれてしまったんだよな……。


「それじゃあ……どうぞ。でも、僕も水着を」


「え~、もういいじゃないですか。私は見慣れましたよ」


「アイネ!」


「私が何度お風呂のお世話をしたと思っているのですか? 魔力枯渇で動けないときは下着をお替えしたことだってあるのですから」


「そ、そうだけど、他の人は……」


「私も見ていますよ」


「カランさん?」


「お忘れですか? ガウレア城塞にくるとき、馬車の中で」


そうだった! 

やっぱりあのとき見られていたのか……。

もう、このままお風呂の底へ沈んでしまいたい……。


「まあ、カランさん、全部見たのですか?」


「はい、臀部でんぶを全部。その他も」


 上手いこと言ってんじゃねえ……。


「それにしてもセティアは遅いですね。早く来なさい」


「で、で、で、でも。こ、こ、こ、こんな格好をご城主様にお見せして大丈夫でしょうか? し、失礼に当たらないか心配で」


「平気よ。それに私たちより露出度は低いじゃない」


「そ、そうですが……」


 ん? 

セティアはどんな格好をしているんだ?


「そ、それでは失礼して……」


 浴室に入ってきたセティアに仰天した。


「そ、それはさらし? いや、包帯か!」


「み、水着がないので代わりのこれを巻いてきました。ごめんなさい!」


「い、いや、謝らなくていいんだよ」


 確かに露出度は他の二人より低いのに、なぜかエッチだ……。


「お、おかしいでしょうか? それに卑猥すぎですよね。ああ、死んでしまいたい」


 おかしいし、エロいけど僕は全力否定する。


「おかしくない。かわいいよ!」


 フォローにいっぱいいっぱいになってる僕の耳に別の女性の声が聞えてきた。


「たのもおぉー!」


 お風呂に道場破り? 

力いっぱいドアを開けて入ってきたのはエリエッタ将軍だった。

しかも素っ裸⁉


「エリエッタ将軍まで、どうして⁉」


「アイネがやけに浮かれていたので問い詰めたら、楽しいイベントがあることを白状したのだ。私だけ除け者にするなんてひどいじゃないか!」


 全員、呼んでないんですけど!


 エリエッタ将軍は筋肉の浮き出る褐色の肌を隠そうともしない。


「エリエッタ将軍、せめて水着を着てくださいよ」


「私は戦士だ。いちいちそんなことを気にするもんか。それにタケルだって裸じゃないか」


「これは!」


「我々は友だ、遠慮は無用だぞ」


「わ、わ、わ、私もご城主様と裸のお付き合いができて……うれし恥ずかし、カカシ、駄菓子……です」


 カランさんやアイネだけでなく、セティアやエリエッタ将軍にまで裸を見られたのだ。

もう、僕は開き直るしかないや。

とりあえずタオルを巻いて……。


「それでは、木下工務店が誇るお風呂の使い方を説明します!」


 ウキウキのお風呂タイムは、みんながのぼせて脱衣所のレストルームで牛乳を飲むまで続けられた。

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