第21話 御用商人
魔物の襲撃を乗り越えて僕は大きく成長した。
とりあえず今日の仕事はない。
ということで、僕は念願の風呂作りに手を付けるぞ!
予定どおり大き目の浴槽を作っていくとしよう。
ほら、誰かと入る可能性もゼロではないもんね……。
みんな僕の作るものに興味を示すと思うんだよ……。
水着を着れば……うん、ありだ!
ダメなら一人で楽しめばいいや。
それにしてもみんなの水着かあ……。
「なんだかエッチなお顔をしていらっしゃいますね」
「カランさん!?」
いつの間にか、すぐ横にカランさんがいた。
「ど、どうしたの? なにか用?」
「うろたえすぎです。内線で連絡がありました。御用商人がご城主様に面会を求めております」
「僕に何の用だろう?」
「塩漬け肉の買い取りにきたようです。ついでにご挨拶をしておこうというつもりでしょう」
「う~ん、いいけど、いまちょっと手が離せないんだよ。とりあえず執務室にお通しして」
「承知しました。あと、わたくしが持っている水着は黒のビキニです」
「なぜ水着のことを……」
「作業をしながら独り言をおっしゃっていましたよ」
くっ、不覚……。
「ご城主様がお望みになるのなら、ご一緒するのもやぶさかではありません、私は」
「え?」
「これも補佐役たる私の務めです。それでは失礼します」
「ありがとう……ございます……」
あー、恥ずかしい。
よりにもよって聞かれていたとはね。
でも、カランさんの黒ビキニ?
至高じゃないか!
なんだかさっきよりも気合が入ったぞ。
さっさと、この排水用転送ポータルを仕上げてしまおう。
作業を終えて寝室で着替えていると、執務室の方から声が聞こえてきた。
「なんですの、これ!? 外が透けて見える板? それに天井が光っている……」
声からして、商人は女性か。
それもまだ若い人のようだ。
「お待たせしました。城主の木下武尊です」
挨拶しながら入っていくと、御用商人は少し驚いていた。
若いお姉さんで、人懐っこい笑顔とピンク色の髪が特徴だ。
ものすごい美人というわけじゃないけど、愛嬌があって、どこか惹かれる顔立ちをしている。
「ボーン商会のフィービー・ボーンでございます。このたびのご城主は随分とお若い方なのですね。てっきりもっとご年配の方かと思っておりましたわ」
「それは自分も同じです。御用商人って、もっと
「父が急病で倒れて後を継いだのです。まだピチピチの二十四歳ですよ」
僕より六歳上か。
「ボーン商会というのはガウレアにあるのですか?」
「いえ、本部は王都ローザリアにございます。こちらには支店だけです。支店ではガウレア特産のダイヤモンドや塩漬け肉を仕入れております」
「それはありがたいですね。じゃんじゃん買ってください」
素直にお願いすると、フィービーさんはおかしそうに笑っていた。
口に手を当てて笑う姿はなかなかお上品だ。
「どうしました?」
「失礼いたしました。召喚者は恐ろしい存在だと世間では言われておりますが、こちらのご城主様はずいぶんと優しそうな方だなと思いまして」
「その誤解は本当に迷惑なんですよね。僕や僕の同級生もぜんぜん怖いことはないんですよ」
「同級生?」
「僕らは二十四人同時に召喚されたんです」
「ひょっとして
「クラス委員の平井! もちろん知っていますよ。あいつ、元気にしてますか?」
「まあ、少し元気すぎでいらっしゃいますね」
フィービーさんは小さなため息をついている。
「なにかあったのですか?」
「こんなことをお耳に入れて申し訳ないのですが……」
フィービーさんは前置きを入れて、周りを
「先日、機会がございまして召喚者数名をご接待いたしました」
フィービーさんの上げた名前はいちいち聞き覚えのあるものばかりだ。
同級生が各地で活躍していることを知って僕も誇らしくなる。
「我々も感謝の気持ちを込めて一席設けたのですが、平井様が少々悪酔いをなされて……」
「平井が酔った? 信じられない」
クラス委員で、勉強がよくできて、いつでも冷静だった平井が?
「平井様の噂は聞いていたのですが……」
「噂ってなんです?」
「女癖の悪さでございます」
「ええっ⁉」
驚きの声を上げずにはいられなかった。
平井は重力の魔術師として名をとどろかせる一方で、あちこちの女性を食いまくっているそうだ。
時にはかなり強引に関係を迫ることもあるらしい……。
「その日も平井様はかなりたくさんお酒を召し上がって、お酌をしに来た女の子に絡んだのです。さいわい不動のパラディン・竹ノ塚様が止めてくださいましたので助かりました。あの方はたいへん優しい方ですね」
「竹ノ塚が? うん、昔からいいやつですけど……」
「味方のためなら、どんなに傷つこうが決して退かない。誰一人見捨てない。不動のパラディンは下級兵士からも慕われる存在でございますよ」
クラスでいちばんやんちゃだった竹ノ塚がねえ……。
良くも悪くも人は変わるのかな?
いや、強大な力を手に入れて、その人の奥にあった元々の性格が浮かび上がってきただけかもしれないけど……。
「あらいけない、私ったらつまらないお話をお聞かせしてしまいましたね」
「い、いえ。同級生の消息を聞けてよかったです」
とりあえず、みんな元気でやっているようで安心した。
「ところで、あの透明な板はご城主様が? それに部屋の灯りも……」
「そうです。僕は戦うことはできませんが、こういうことが得意です」
興味をもったのかフィービーさんに『工務店』のことを根掘り葉掘り聞かれた。
「前回の満月の夜には城塞が光り輝いていたと城下で聞きました。ひょっとしてそれもご領主様が?」
「まあ……」
「他にはどんな能力がございますの?」
「水道かな? 近いうちに城下のあちこちに取り付ける予定なんです」
なんだかフィービーさんの視線が熱いぞ? 気のせいじゃないよね。
「ご城主様、近いうちに一席も設けますので、ぜひいらしてください。それでは失礼します」
フィービーさんが去ったので、僕はカランさんに質問してみる。
「一席っていうと、やっぱり接待?」
「ですね。酒宴を開いてもてなすつもりでしょう。十中八九、ご城主様の『工務店』を自分の商売に取り込みたいのだと思います」
「やっぱりそういうことなんだ……。城主の仕事もあるから、あんまりやりたくないなあ」
「だったらはっきりと断ればいいのですよ」
「そうなの?」
「もちろんです。ただ、商人はあらゆる手段を使って
「あらゆる手段?」
「基本的には酒、賄賂、女です。場合によっては脅迫ですが、さすがにそれはないと思います。だた、ハニートラップには特にお気をつけてください。ご城主様はチョロそうですから。まあ、私が同行するので悪い虫は寄せ付けませんが」
「おお、いつもにも増してカランさんが頼もしい!」
いや、まさか十八歳にして接待を受けるとは思っていなかったよ。
僕としてはもう少しのんびり仕事がしたい。
何かを頼まれても、なるべく断るようにしようと思った。
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