第17話 防衛戦に向けて
真っ暗な部屋で目が覚めた。
やけに気分爽快だ。
昨日は魔力枯渇を起こして倒れるように眠ってしまったのだけど、そのおかげでまたレベルが上がったらしい。
これなら残りの子機も今日中に設置できそうだ。
元気よく執務室に入っていくとカランさんがソファーで書類に目を通していた。
「おはようございます。もう体調はよろしいのですか?」
「うん、一晩寝たらスッキリしたよ。寝る前に飲ませてもらった薬草茶がよく効いたみたい。いつもよりずっと調子がいいんだ」
カランさんは書類に目を落とす。
「それなら報告を受けています。ブレガントという薬草を配合した特別なお茶みたいですね」
「あれを飲んだらスーって楽になったんだ。今日元気なのもセティアのおかげだね」
「今後のこともあるので、セティアには今日もブレガント草を探してもらうよう依頼しておきました。あのお茶があればご城主様の体調管理に役立ちましょう」
僕は気になっていたことをカランさんに伝えた。
「それなら、護衛にバンプスをつけてあげて。ほら、ウーラン族は恐れられているでしょう? いつかみたいに危険な目に遭うといけないから」
「作業の方はよろしいのですか?」
「こっちの助手はグスタフが一人いればなんとかなるよ」
「承知しました。セティアの薬草はご城主様にとって、なくてはならないものになるかもしれません。念のためにバンプスを同行させましょう」
これで何の憂いもなく作業に集中できるぞ。
満月の日まではあとわずかだ。今日も頑張っていこう!
能力が上がったせいか午前中に残りの子機をすべて取り付けてしまった。
魔力はだいぶ減ったけど少しは余裕を残している。
一日ごとに成長しているんだなあ。
木下工務店が一部上場するのも遠いことではなさそうだ。
あ、異世界に株式市場はないか。
あるのかな?
冗談はさておき、子機の作製や配線作業に慣れたのだと思う。体が仕事を覚えたって感じかな。
今日もお昼ご飯が美味しいや!
お昼ご飯を食べながら、僕は上機嫌だった。
「もう絶好調って感じだよ!」
「それはようございました……」
給仕をしてくれているアイネはつまらなそうだ。
「なんだかなぁ……。僕が元気だと気にくわないの?」
「そういうわけではございませんが……。やっぱり、弱っているご城主様の方が魅力的ではありますね」
「ひどいなあ」
「いいじゃないですか。ご城主様が大変なときは、心からお尽くしするのですから」
言われてみればそうかもしれない。
「まあ、今日も夜になったら倒れてしまうかもしれないんだけどね」
アイネの瞳がギラリと光った。
「昨日みたいにボロボロですか?」
「うん、その恐れはある。なんたって、午後は防犯カメラを取り付けるから」
「防犯カメラ?」
「説明するのは面倒だから、後で実物を見てよ」
「頑張ってくださいね。その代わり、ご城主様がボロボロになったときは何でもして差し上げますから♡」
唇を舐めながら微笑むアイネが妖艶すぎた。
城塞のために何ができるか僕なりに考えた末、防犯カメラをつけることに決めたのだ。
リアルタイムで敵の様子がわかればパイモン将軍も命令を出しやすいだろう。
高解像度のカメラだから暗くてもある程度の画像は保証されるけど、やっぱり照明もつけた方がいいだろうな。
魔物と違って人間は夜目が利かないから、照明があれば戦闘の役にも立つだろう。
映像を映し出すモニターも設置しないと……。
今日もやることはいっぱいだ。
本当はお風呂を作りたいんだけど、今は命を優先させなければならない。
生き残らなきゃお風呂も楽しめないからね。
それから連日頑張って、城壁や城門にカメラを設置しまくった。
いつも限界まで魔力を使ってしまうので、夕方になると一ミリも動けなくなる毎日だ。
グスタフにおんぶされて運ばれる僕を兵たちは不思議そうに見ている。
僕が何をしているのか、どうして魔力を使い切ってしまったのかが理解できていないようだ。
でも、それもこれも明日までのことだ。
すべての準備は整った。
明日の午前中に配線を繋いで映像をモニターに映し出せばきっと……。
疲労の極限にあったけど僕の心は充実していた。
本日も魔力枯渇で担ぎ込まれた僕を見てアイネとセティアは大騒ぎだった。
アイネは瞳を
「あ~ん、大変だわぁ♡」
「死んじゃう、ご城主様がしんでしまいますぅううう! 城塞の中にお医者様はいらっしゃいませんかぁあ⁉」
こんなときにカランさんの冷静さはありがたい。
「アイネは発情してないでご城主様の靴を脱がせてさしあげて。セティアは薬草茶の用意を」
二人はすぐに仕事に取り掛かってくれて、一息つくことができた。
「ふぅ、やっぱりセティアの薬草茶はよく利くね。もう楽になってきたよ」
「よ、よ、よ、よかったです。私の薬が役に立って」
「チッ、ブレガント草を根絶やしにしたいわ。そうすればご城主様はズタボロのまま……」
「アイネ、どうしてもお尻に鞭が欲しいようね。なんなら十発くらいくれてやってもいいのですよ」
「い、いえ~、とんでもない。私はズタボロのご城主様を慰めるのが好きなのであって、自分がズタボロになるのはちょっと……」
「では自重しなさい。それにしてもご城主様は連日無茶をなさいますね。内線の有用性は認めますが、防犯カメラというのもそれほど素晴らしいアイテムなのですか?」
僕は力なくうなずいた。
今日も疲労で喋るのが大変だ。
「明日になればわかるよ。それよりキャビネットからゼリー飲料を取って来てくれないかな? 食事は喉を通りそうにないから」
何も食べないよりはマシだろう。
満月の夜まであと少し。やれることはすべてやっておきたかった。
カラン・マクウェルの報告書
パイモン将軍とも話し合いましたが内線の有用性は計り知れないということで見解の一致をみました。実戦投入はこれからですが、情報伝達の超効率化は戦術に革命を起こすでしょう。このたびの防衛線では必ず我々の予想が実証されると信じております。
しかも観察対象者、木下武尊はまだ何かをしようと目論んでいます。彼の魔力が持つかが心配ではありますが、これまでの実績を
ただ、木下武尊は頑張りすぎるきらいがあるようです。無理をさせ過ぎないように気をつける必要があるでしょう。精神面を含め、今後はもう少し踏み込んだケアが必要だと愚考する次第です。
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