第11話 パリピ照明
行くあてのないセティアを引き取ることになった。
名目は城主の助手ということにして、僕個人が雇い入れたことにした。
僕自身も国から悪くない給料をもらっているのでセティアを雇うくらいは何とかなった。
「もう、なんとお礼を申し上げていいやら……」
「予言によると、僕らは協力してすごい薬を作るんでしょう? 僕も楽しみだよ」
「薬を作り上げたときは、必ずご城主様に献上いたします」
「え~、僕は今のところ健康体だよ。薬は困っている人に使ってあげて」
セティアは僕の顔を不思議そうに見た?
「ど、どうしてそんなに優しくしてくださるんですか?」
「う~ん……、僕も異世界人としてみんなから怖がられているんだ。本当はぜんぜん怖くないのにね。だから、ウーラン族であるというだけで避けられているセティアを放っておけなかったのかもしれないね」
「ご城主様……」
「それに、かわいい女の子が困っていたら助けたくなるもんだよ」
「か、かわいい⁉ そ、そんな、わ、私なんてブスだし、もう三日も水浴びすらしていなくて汚くて、服だって……」
またセティアがワタワタしだしたぞ。
三回目の気絶はやめてほしい。
なんとか落ち着かせようと考えていたらカランさんが前に出た。
「言われてみれば少々匂いますね。着替えを用意するので、まずは水浴びをしていらっしゃい」
「そんな。もったいないので……」
セティアはすぐに遠慮するけどカランさんは取り合わない。
「ご城主様の前で見苦しい姿は許しません。助手になるというのならそれ相応の恰好をしてもらいます」
「はっ、はい、ごめんなさい!」
セティアはカランさんに引っ張られて行ってしまった。
そういえば僕もお風呂に入っていないな。
ガウレアでは水が貴重なので城主といえども毎日お風呂に入ることは許されないのだ。
体を洗うお湯が執務室に運ばれるくらいのものだ。
もう少ししたらお風呂に入れてくれるとカランさんも言っていたので楽しみにしている。
ただ、城塞のお風呂はあまり期待できそうにないんだよね……。
まだ見てないけどだいたいの予想はつく。
やっぱりお風呂も自分で作ってしまう方がいいんだろうなあ……。
いろいろやることは多いけど、今は自室に照明を取り付けることを優先しよう。
カッコいいのはやっぱり間接照明だよね。
具体的には……。
僕は集中して魔力を巡らせる。
すると目の前の空間に照明のカタログが現れた。
これも最近見つけた『工務店』の能力の一つだ。
見た目は枠のないタブレットって感じかな。
カタログをフリックして自分好みのものを選んだ。
それから天井を変形させたり足元の壁を変形させたりして光源を埋め込んでいく。
これも水道と同じでエネルギーがどこからきているかはわからない。
ただ、知らない次元から無尽蔵に送られてくることはわかっているので気にしないで取り付けていく。
やっぱりリモコンスイッチは絶対に必要だよね。
現代人って面倒くさがりになっているもん。
小学校の頃は寝るときにドア横のスイッチまで起きていったものだけど、中学になって家をリフォームしたときに照明がリモコンになった。
便利すぎて、もう元には戻れないよ。
☆☆☆
大きな窓からオレンジ色に染まる夕焼が見えた。
今日も城下町は平和そうだ。
きっと夕飯の支度をしているのだろう。
家々の煙突からは白い煙が何本も上がっている。
そろそろ日の入りの時刻だな。
「失礼します。火をお持ちしました」
ロウソクを手にしたアイネとセティアが入ってきた。
水浴びを終えて着替えたセティアは見違えるようだ。
肌は透き通るようになっているし、緑の髪もふんわりとした。
「その服はどうしたの?」
「ア、 アイネさんの普段着をお借りしました。」
アイネはいつもメイド服なんだけど、仕事がないときはこの地方の民族衣装を着ているそうだ。
細かい柄の付いたブラウスに、大きなひだが特徴のプリーツオーバースカートである。
スカートの色は緑を基調として裾には赤い生地があしらわれている。
こちらにも細かい花の柄がついていた。
「かわいいね、よく似合っているよ。アイネもありがとうね」
軽く褒めただけなのにセティアは顔を真っ青にしてムンクの叫びみたいなポーズをとってしまった。
せっかくかわいかったのに残念だよ。
僕の周りにはクセの強い女性が多い……。
「ご領主様、テーブルのランプに火を入れますね」
アイネが明かりを灯そうとするのを僕は止めた。
「ちょっと待って。しばらくこのままにしておいて」
「ですが、もう夕方です。すぐに暗くなってしまいますよ」
「うん、僕は暗くなるのを待っているんだ。見せたいものがあるから二人もつき合ってよ」
三人でソファーにかけて待っていたらカランさんもやってきて、けっきょく四人で日暮れを待つことになった。
やがて山の端にあった最後の残光が夜の闇に飲まれた。
「ご城主様、もう真っ暗ですよ。いったい何をなさりたいのですか?」
少しイライラした声でカランさんが聞いてきた。
カランさんは無駄なことが嫌いなんだよね。
「ご城主様、怖くはないですか? 私が手を握っていますね」
「はぁ……、暗いところは落ち着きます……」
アイネとセティアは平常運転だ。
「そろそろいいかな。それじゃあ、この部屋に取り付けた照明を試してみるね」
「照明? 新しいランプですか?」
「それは見てのお楽しみ。ではカウントダウン。3、2、1」
ピピッ!
手元のリモコンで『全灯』を選択すると、すべての照明が点灯した。
「な、なんですかこれはっ⁉」
よしよし、今日もカランさんの驚く顔が見られたぞ。
アイネとセティアも口をあんぐりと開けて驚いている。
照明は天上の際に沿って四本、部屋の四隅に四つ、足元を照らすものも忘れていない。
「昼間よりも明るいなんて……」
カランさんの手が小さく震えているぞ。
えへへ、やったぜ!
「これで夜も書類仕事がしやすくなったよ。なかなかいいでしょう?」
「す、素晴らしいです……」
カランさんの口から素晴らしいをいただきました!
それだけでも照明をつけた甲斐があるというものだ。
でも、こうして見ると執務室の壁ってけっこう汚いな。
長い間放置されて煤けているのだ。
次は壁紙でも張ろうか?
僕と同じことを考えたのかカランさんが口を開いた。
「よく見ると拭き残しがたくさんありますね。壁は仕方がないとしても、床がこれではいけません。アイネ、どういうこと?」
「も、申し訳ございません! 暗くて見えなかったのです」
「暗い? 大きな窓のあるこの部屋はどこよりも明るかったはずですよ」
カランさんに叱られてアイネはすっかり恐縮している。
「これはお仕置きが必要ですね。鞭打ち五回くらいでしょうか……」
「鞭打ち⁉ それはちょっと厳しすぎじゃないですか?」
この世界のことはよくわからないけど、暴力は良くないと思う。
「これでも甘すぎるくらいですよ。ご城主様の専属メイドは他の者の模範にならなければなりません」
いつの間にやらカランさんの手には乗馬用の鞭が握られていた。
「えっ! いったいどこからそれを出したんです?」
カランさんが着ているのはピッタリとしたスーツだ。
スカートもタイトなロングスカートである。
隠しておく場所なんてないはずなのに……。
カランさんは僕の質問を無視してアイネに向き合った。
「さあ、お尻を出しなさい。折檻してあげます」
「うぅ……」
目に涙をいっぱいためたアイネがスカートを持ち上げようとした。
「待って。そんなことをしたって無駄だよ」
「無駄ではございません。人間を
「恐怖で支配しているだけでしょう? それはダメ」
「どうしてですか?」
「体罰っていうのは信頼関係を崩すと思うんだ。それに恐怖による支配だと、それ以上の成長を阻害する恐れもあるよ」
って、倫理の中村先生が言ってた!
「アイネは僕の専属メイドでしょう? 自分で判断して行動できるように、もっと成長してもらわないと困るんだ」
カランさんはじっと僕を見てからうなずいた。
「承知いたしました。そういうことなら鞭打ちはやめておきましょう」
そう言ってブラウスの襟元を開き、胸の谷間にスルスルと鞭を入れていく。
はいっ⁉
どうやったらあれが収納できるわけ?
ぴったりとしたスーツは均整の取れたボディラインを反映して、なんら型崩れを起こしていない。
もしや、胸の谷間に次元収納が?
探究心は尽きないけど、確かめる
「アイネには別の罰を与えましょう。この部屋を徹底的に掃除するのは当然として、兵士用のトイレも一人できれいにしてもらいますからね」
「承知しました」
アイネはしょんぼりとうなずいていた。
あのトイレを一人で掃除か……。
僕なら二十回は吐いてしまいそうだよ。
次はいいものを作ってアイネを慰めてやろう。
「ところでセティア、どうしたの?」
セティアは両手のひらで顔を押さえている。
「いえ、私にはちょっとまぶしすぎて……」
「これで? この部屋の照明はね、こんなこともできるんだよ」
僕はいたずら心いっぱいに『パリピ』と書かれたボタンを押した。
一瞬だけ部屋は真っ暗になったが、すぐにフラッシュライトが明滅する。
それだけじゃない。
三原色の照明が天井から降り注ぎ、青や紫のネオンが床や壁を照らし出した。
これはもうクラブのフロアみたいだぞ。
行ったことないけど……。
「ご城主様、死ぬ! セティア、死んじゃうっ! なんだかわからないけど場違い感が許容度を越えています!」
「あはは、セティアは大袈裟だなあ」
「ダメ、お許しをぉおおおお! ブクブクブク……」
うわっ、本当に泡を吹いて倒れちゃった!
「カランさん、治癒魔法を! 早くっ!」
「まったく、世話が焼けますね」
セティアを介抱するのに大わらわで、その日の作業はそこで終了となってしまった。
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