第10話 戦場Ⅲ 会敵
しばらくして、本隊が帝国兵と
けれど、そこに魔人は居なかった。
皆が鎧を身に付けた人間。擬態している可能性も否めなくはないが、可能性としては低いだろう。魔力の流れを確認しても、普通の人のものだ。
魔力量は少ない。魔術を使えばすぐに消費され切ってしまうほどに。
だから人は工夫を凝らのだ。
微量の魔力を剣や鎧に纏わせ、攻撃力を上げたり、防御力を上げたり。
その点を鑑みると、フィアナは比較的魔力量は多い。魔術を普通に使えているから。
その代償で体が弱くなったのか。
だとすれば魔力量も多くて体も弱くないルナは一体何者? 化け物ですね。
「わ、私達は何を?」
「取り敢えず今は息を潜めておいて。私達が相手をしなきゃいけないのは別に居る」
何処に?
ああ、なるほど。別部隊がいるのだな。
なんてどうでも良いのか良くないのかわからないことを考えながら、フィアナは戦闘の様子を眺める。
刹那。
上空から莫大な魔力を肌で感じ、ビクリと反応する。
無意識に首は空を向く。
空に浮かぶは太陽と雲。――だけじゃなかった。
「はい、誘き寄せ作戦大成功♪」
太陽に重なる膨大な魔力の、その真下。ルナは若干口の端を上げる。
同時に、上空から声が響いた。
「チッ、随分と勘のいいガキだなぁ。ま、それだけねじ伏せ甲斐があるってことかぁぁあ!?」
その声に若干身震いし、今更異変に気付く。
――あれは、人の姿をしているだけで、人ではない。
魔人だ。
羽もないのに空中に浮遊している魔人は、地上で立ち尽くす二人に向けて右腕を伸ばし、叫ぶ。
「消し飛べェ!
インフェルノ・キャノン。炎属性の、超級魔法。
当たり前のように詠唱破棄されたその一言だけで、伸ばした手の前に赤黒い炎の弾が形成されていく。
けれど、ルナは一切動じていなかった。その瞳は、勝ちを確信した者のものだった。
杖を碧空に向けて伸ばし、おもむろに口を開く。
「『
訳のわからない単語を複数呟き、杖の先が光を帯びる。同時に魔法陣が杖の前に反映される。
その魔法陣は、フィアナが本で見た無属性の中級魔術である
魔人の手から魔術が放たれる寸前、二者の間に魔力の膜が――障壁が張られたのが視認できた。
特に考える時間もない状態のまま、それは発射された。
このままならあの薄い障壁も突破されてしまうのではないかとも思ったが、信じるしかない。
「ギャハハハ! 哀れだなぁ、可哀想だなぁ! とっとと死んどけクソ雑魚……が」
「……うるさ」
獄炎を纏った弾はその障壁に衝突し、やがて止まった。
ぴり、と静電気のように炎が散り、見事なまでに跳ね返る。名も知らぬ魔人の顔は、それはもう滑稽で仕方がなかった。
躱されはしたものの、通り過ぎた後に空中で大爆発を起こし、魔人の背筋に悪寒が走る。
「な……んだと? 有り得ない……たかが人間ごときが、こんな……」
困惑しているようだ。
自身が出せる中でも比較的高位であろう技を以てしても防がれ、弾かれる。――見下している人間がやってのけたのだから、それも当たり前だ。
「何が何だか知らんが、マグレだろう? たった一発で、調子に乗んじゃねぇぞクソアマがァ!」
喚き散らかす魔人を見向きもせず、ルナは一切疲弊していない様子だった。
殺したくない。そう言っていたはずだが、手加減をしている様子が見られない。この程度では死なないとわかっているからこそできる芸当だ。果たして、今まで何度魔人と戦ってきたのだろうか。
「さ、今度はフィアナの番だよ。その実力、確かめさせてね」
「はい?」
だからこそルナの口から発せられた言葉に驚いた。
――私が、戦う?
――今、真なる最強二人を前にして、普通になるためだけに努力してきた弱い私に何ができる?
何も、できやしない。
「大丈夫。君ならできる……けど、早くしないとヤバいよ」
励ましの言葉と同時に、杖でくいっと空を指す。
その先には、鬼のような形相で睨む魔人がいた。
「そういえば、名乗るのを忘れていたなぁ。俺は魔人ガリアだ。ま、これから死ぬ相手に名乗っても無意味だがな!」
「名乗ってもらったところ申し訳ないんだけど、死ぬのはあなただよ」
「なんだと?」
「私の相方は強いので」
あの、えっと……ルナさん? ハードルを上げないで頂きたいのだけれど。と、心の中でひっそり呟く。
うっかり漏れ出してしまいそうだったが、なんとか抑えた。
魔人ガリア。
そこそこ名の通った人物だ。そんな奴を怒らせてしまったルナは言葉通りの戦犯だ。
そうこうしている内に、ガリアが手を掲げた。
先刻よりも強大な魔力が凝縮されていくのを感じる。
「……ちょっとまずいかもだけど、なんとか頑張ってね」
(え?)
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