第9話 戦場Ⅱ 魔術
「さて、今ここにいるのは私たち二人だけ。その場合、どう立ち回っていけば良いと思う?」
今、森の中でルナとフィアナは二人きりだった。
ルナがそう申し出たから。
それをあっさり了承するあの人もどうかとは思うが、実力を鑑みればこのような状況になってもおかしな話ではない。だって一人が宮廷魔術師なのだから。
「えっと……自軍の動きを把握して、それによって敵軍がどう動くのかを予測して……ですか?」
「そうだね。それも大切。でも、もっと大切なことがある」
「…………」
「時間切れ。もっと大切なこと、それは敵に位置をばらさないこと」
なるほど、と頷く。
「……確かに、それが一番大切なことですね!」
「ちょ、ちょっと静かに。それと、やっぱり敬語は気持ち悪い」
「ですが、あなたは宮廷魔術師じゃないですか」
「関係ない。私たちは友達でしょう?」
友達。
幼い頃からあまり外で遊べなかったから、そう呼べる人物はいなかったと言っても過言ではない。
ハッキリと明言されて、心にじんと何かが襲う。
「友達……そっか、友達だもんね。わかった」
自分に合うとか、合わないとか。そんなことはどうでもよくて。
ただ目の前にいる友達が嫌だと言っているのなら、改善しようと思う。
「そう、それでいい」
若干ルナの顔が柔らかくなる。
「でも、これだけは約束して」
急に深刻な顔になって、フィアナは口を紡ぐ。
「絶対に、人は殺さないで」
その顔は、少し悲しそうな顔だった。
まるで、一度――いや、何度か経験したことがあるかのような、そんな顔。
「私は、国のためならとか自分のためならとか言って人を殺す人は嫌い。戦っている人が敵であろうとも」
だからか。
だからあの時、あんな顔をしていたのか。
「私も、人を殺すのは嫌い。――殺したことはない……ないけど、気持ちだけはわかる」
土に埋めたくらいで人は死なないだろう。顔はひょっこりと出ていたから。果たしてあの盗賊達は今頃何をしているのだろうか。
あの生命力なら何日か飲まず食わずでも生き残ることができるだろうし、あえて柔らかい土にしておいたから、簡単に抜け出せるだろう。
――今はそんなことどうでもいい。
「ありがとう。ところでフィアナ、魔術は使えるでしょう? 詳細とか教えてくれない?」
「詳細?」
「うん。属性とか、階級とか」
「……わからない。使ったことがあるのは、土属性と水属性の初級……かな?」
二重詠唱が使えることは言わないでおこう。
「ふーん、二属性は使えるんだね。私は水・風・光の三属性特化だから。ちなみに、神級は使えるよ」
魔術には、属性と階級が存在する。
属性は、主に四大属性と呼ばれる水・炎・風・土属性。それに加えて光・闇・無属性の計七つ。一応無属性は魔力さえ扱えれば誰でも使える。
残りの三属性は四大属性とは少し趣旨が違う。
光属性は攻撃魔術の他にも、治癒や蘇生などの聖的な役割も担っている。
闇属性にも攻撃魔術は存在し、他には召喚や幻惑などが得意だ。
最後に無属性。無属性に攻撃魔術は存在せず、身体強化を筆頭にサポートをするものが大半だ。
階級は初級・中級・上級・超級・神級・魔神級・神王級・幻想級の計八つ。神級であっても使える人はそう聞かない。
さすが宮廷魔術師、と言ったところか。
フィアナ自身、その二属性と初級しか使ったことがないから、限界がどこなのかはっきり言って不明。
「まあ、二属性使えるだけで十分なんだけどね」
大抵の人間は一属性しか使えない。だから初級であっても二属性自体凄いのだ。
「じゃあ、私たちも動こうか。王国軍は正面から攻めるようだから、私たちは右翼側から攻めよう」
「りょ、了解」
そしてルナは走り出す。
「遅くない? もっと速く走らなきゃ」
「ご、ごめん……運動は苦手で…………」
走り慣れていない上に体の弱いフィアナはルナと同じように速く走ることはできない。ましてや走り方も不格好。
少し走った程度で息切れする。
「はぁ、仕方ないなぁ……」
そう嘆息して再び口を開く。
「
じわ、と何かが流れ込んできた感覚。
身体強化は無属性、継続治癒は光属性の初級魔術だ。それぞれ文字通りの効果を発揮する。
音声遮断は風属性の初級魔術。外部に音を漏らさないように、あるいは外部から音を遮断するためのもの。これは音を漏らさないためのものだ。
「おお、凄い。力が……」
「そうでしょう? 得意なんだ。それぞれこの戦闘中で効果は消えないから、心配しなくてもいいよ」
身体強化だけではなく、継続治癒まで使用したのは、フィアナの体が弱いということを察したからだろうか。
直接伝えた訳ではないから、そうだろう。
「さあ、行くよ」
ルナが音を立てずに走り出した。
それを追いかけるようにフィアナも走る。
軽い。体が軽い。
疲れない。
足音が聞こえない。
ああ、幸せだ。こうして自由に走ることができるということは、これほどまでに楽しいことだったのか。
しばらく走って、ようやく見えてきた。
敵軍と思われる軍勢が。
加えて、上空に飛ぶ何かも目に入った。
それが何なのか、遠目ではわからなかった。
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