第6話 王都探索Ⅱ 前夜②
結局、昨夜のご飯はハンバーグだった。
思ったよりルナは料理が上手で、思わずほっぺが落ちそうになった。
本人はいつもより張り切ったと言っていたが、どうやらそれは本当のようだ。
そして、今に至るのだが。
ベッドに二人並んで眠っていたという、そんな状況なのだが。
時は食後に遡る。
「おいしかったなぁ」
「ふーん、ま、私はこれくらい余裕よね」
「おい、またそんなこと抜かしやがって……素直に喜べんのかお前は」
てへっ。
そう視線だけで言ってくる。表情を変えずに。
バーンもやれやれと言いたげな目でルナのことを見ていた。
「そういえば、フィアナちゃんの部屋、どうするの? 満室なんでしょ?」
「それだな、問題は。空き部屋はないしな」
どうやら、ここは全部で三部屋あるらしい。
その全部が埋まっているが、残りの二部屋の人達は現在、不在だそうだ。
勝手に使うことも不可能だし。
「……じゃあ、仕方がないから今日はルナの部屋で過ごしてもらおうか」
「あれシングルベッドだよ?」
「知ってるさ。まあいいだろ、同性だし」
「……嫌ではないけど」
「文句があるなら金を払ってから言え」
「わかりました仰せのままに」
宿泊代の話になると奴隷のように話を聞くようになる。本当にお金に困っているのだろう。
それにしても、宿泊代を払わないルナのことを追い出さずに泊めている理由は一体何なのか。純粋な優しさ故なのか、あるいは何か理由があるのか。
「フィアナもそれでいいだろ?」
「え? 私は何でもいいですが」
「そうか。だってよルナ。仲良くしてやってな」
「はいはい」
「返事は一回だろ!」
「にゃん」
「はー。駄目だこりゃ」
ルナは真顔でそう言うから面白くあり、可愛くある。これをギャップと呼ぶのかは知らないが。
無言で背を向け、歩き出そうとするルナ。
どこへ行くのかと思ったら、口を開いた。
「ほら、部屋行くよ」
その一言で、何か報われた気がして。
認められたような気がして。
振り返らずに発せられたその声は凛と澄んでいて、可憐で。
「うんっ」
走って大きな背中を追いかけ、横に並ぶ。
並ぶことができたのはこの現実だけで、実際は程遠い存在だと感じてしまう。
後ろでバーンが
二人に微笑みかけるように。
足並みを揃えて歩み始めた。
階段を上り、音のしない廊下に足音だけを響かせる。
目指すは最奥。いわゆる角部屋と呼ばれる場所に存在する部屋。
部屋に入って開口一番、ルナが話す。
「お風呂行く?」
と。
当然、フィアナも女の子だからお風呂に入りたくないと思う訳がない。ということで、秒速で承諾。
ルナに借りた着替えを持って、先導されながら扉の外へと出る。
どうやらここには公共の浴場があるらしく、ルナが言うには大きいそうだ。
「はい、ここがお風呂ね。どう? 大きいでしょ」
「大きい……かも?」
確かに、大浴場と言われれば大浴場。少し裕福な家のお風呂だと言われればそれに感じる。つまり、中途半端だということ。
そもそもここには三部屋しか存在しないからこれくらいでも十分なのだろう。
……そもそも一宿屋に大浴場なるものは存在するものなのだろうか。
その時は、服を一切着ていない状態で語り合った。色々と。
「ふー、気持ちよかったぁ」
「疲労回復効果か何かが含まれてたりするかもね」
そう言われても違和感を感じないくらいには気持ちが良かった。
もう時期的に病み上がりではないのでは……と思ったが今日ぶっ倒れたことを思い出した。
髪を乾かして退室。疲労を忘れさせてくれてありがとう、と感謝しながら。
部屋へ向かう。特に話すこともなく。
「じゃあ、私は椅子で寝るから」
部屋に戻った途端、ルナがそう言った。
「そんな、申し訳ないって。部屋取っちゃったから、私が椅子で寝るよ」
「いいんだ。疲れてるでしょう? 今日はベッドで疲れを取るといいよ」
「……ありがとう」
やはり心優しくて。バーンと同様に寛大な心をお持ちのようで。
女であるフィアナでさえ惚れてしまいそうなほどには格好良かった。
カーテンのない窓から差し込む煌びやかな月光を直に浴びながら、ルナに背を向けて眠った。
……はずだった。
目覚め。
疲労感が月と共に消えて行き、さっぱりとした朝。
思いの外ふかふかのベッドで。――けれど、眠った時よりは若干狭かった。
あれ? 掛け布団が、ない。
道理で肌寒いと感じたことだ。
今度は窓から陽光が差し込み、開いた青の双眸を刺激する。昨夜よりはまだほんの少し暖かい。
体勢を整えて座り、うんと伸びる。これが日課になっているから。
そのせいで少し視界が高くなった。だからこそ気付くこともある。例えば、今眠っているベッドが狭い原因が。
「すー、すー……」
同時に静かな寝息が耳に入る。
怪しい。
そう思ったフィアナは恐る恐る振り返る。
そこにいたんだ。格好良くベッドを譲ってくれた本人が、ベッドの上で丸まって可愛らしい寝息を立てている。そう、あのルナが。
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