1:スカーレット家の人々
「ルルちゃーん、ごはんよー」
自分を呼ぶ母の声に、ルルは遊んでいた積み木を放り出してキッチンへと向かう。テーブルの前にたどり着くとすでに父は座っていた。そして黒髪で眼鏡をかけた母ではない女性が抱き上げて椅子に座らせてくれた。
ルルが産まれてから3年の月日が流れていた。最初に変化が訪れたのは3歳の誕生日を迎えた時だった。ルルに前世の記憶が蘇ってきたのだ。よくあるフラッシュバックのように、ではなく毎日少しずつ『流川るみ子』が持っていた記憶が、異世界の知識とともに徐々に頭の中に溶け込んでいく。1か月も経つ頃には、前世の記憶は全てルルの頭の中にインストールされていた。
ルルが住むこのスカーレット家には自分以外に3人の人間が住んでいる。
一人は父、アイル。茶髪の線の細いイケメンである。たまに剣の稽古をしている。
一人は母、リリシア。金髪の小柄な美少女である。ルルはどちらかというと母親似で、髪も母親譲りの金色である。両親共に共通することはどちらも若いということ。見た目だけなら高校生ぐらいである。
一人はメイド、ハナ。黒髪のナイスバディなお姉さんである。
このハナという人物、最初は父の妾かもと思っていたが、どうやら母に忠誠を誓っているようである。主に仕事で父と母がいないときはハナに面倒を見てもらっていた。
「んまんま」
ハッシュドポテトをフォークで刺し、口いっぱいにほおばるルル。前世の知識が戻ってから彼女はとても驚いたことがある。料理がおいしいことと、生活が文明的なことだ。不作で苦しむこともなく一年中を通しておいしい食材や香辛料が安価で手に入ること。なによりもおいしい調理方法が確立されていること。じゃがいもを手に入れるところから始めなくてもいいのだ。
そして魔道具の存在である。前世では電気やガスで動いていたものが、この世界ではすべて魔法で動くのだ。エアコン、冷蔵庫、照明、ガスコンロ、水洗トイレ、お風呂…すべてが一般家庭にも普及している。オール電化ではなくオール魔道具化なのだ。この世界では科学ではなく魔道工学と呼ばれているらしい。中世ヨーロッパ並みの暮らしを覚悟していたルルにとってこれはうれしい誤算であった。
記憶を取り戻したルルだが、前世のラノベの知識をフル活用し、極力普通の子を演じている。ただ、今のところ何かの力に目覚めたり、産まれながらに特別な称号をもらったり、ということはないようだ。なので安心して全力で子供をエンジョイしている。
そんなルルの目的はただひとつ。大きくなったら世界を巡り、イケオジと恋愛すること。そうリアル『オジ恋』をすることである。
「うへへ…」
まだ見ぬイケオジたちとの恋物語を夢見ながら、ルルは今日もまた眠りにつくのであった。
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