3-7.中集落の人々(2)魔力の増やし方
『あるの?!』
『うん、魔力を枯渇させたら、ほんの少しだけ最大魔力量が増えるんだよ。筋肉と一緒だね』
スポーツジムのトレーナーっぽいコスプレで脳内賢者ちゃんが言う。
魔力の筋トレみたいなのらしい。
『その方法はメジャーなの?』
『それなり、かな? 知っている人は多いけど、魔力枯渇の辛さを何度も繰り返せる人は少ないよ。セイの世界でも筋トレを続けられる人って少ないでしょ?』
そう言われてみればそうだ。
オレも筋トレ方法を知っているけど、夜中のランニングなんて三日坊主どころか一晩で止めた覚えがある。
魔力枯渇はした事無いけど、前に地竜退治で総魔力の三分の一を使っただけで、けっこうな倦怠感があった。あれより酷いと考えると、安易に人に勧めるのは躊躇われる。
『他に方法はないの? 薬を飲むとか?』
『あるよ。魔獣の肉を食べたら魔力量が増えるよ』
『竜の肉とかでも増える?』
『竜の肉は強すぎるから、食べた人がニンゲンの姿を維持できなくなって、バケモノになっちゃうから注意☆』
賢者ちゃんが「てへペロ」な顔で言う。
というか、「注意☆」じゃねー!
『オレ、食べちゃったんですけど! 賢者ちゃん美味しいって言ったじゃん!』
『あははー、忘れてたー☆』
「忘れてたー☆」じゃねー!
『食べて身体に異常がなかったら大丈夫だよ。良かったね』
めちゃめちゃ、他人事だな。
まあ、記憶の中の仮想人格だから仕方ないんだけどさ。
『そんな事ないない。冗談だってば。セイの魔力量なら大丈夫って分かっていたから勧めたんだよ』
やさぐれたオレの心を読んだ賢者ちゃんがフォローしてくれた。
『どのくらいの魔獣の肉ならいいの?』
『食べる人の魔力量によるかな?』
『ミリアくらいの魔力量だったら?』
『あの子は魔力ゼロに近いから、最弱の魔獣の肉でもヤバイと思う』
『魔力ゼロくらいの人の魔力を増やす方法はある?』
『薄めたら?』
賢者ちゃん知識だと、食べて身体が熱くなるくらいがギリギリの許容範囲らしい。
「微熱が続く間は追加を食べちゃダメよ。なるべくなら数日空ける事」
『最弱の魔獣って何?』
『場所によるかな?』
少なくともオレが今までに出会った魔獣は、「最弱」カテゴリーからほど遠いのでダメだと言われた。
ヨーゼフお爺さんか、中集落の大人達に尋ねてみよう。
「まだ、食べ足りない?」
「え?」
エラに言われて気づいた。
他の人達は食べ終わって席を立っている。
「ごめん、お腹いっぱいでぼうっとしてた」
「そう? なら良かった」
エラがオレの食器を受け取って流し場に持っていく。
「それじゃ、あたしは行くね」
「うん、頑張ってね」
「えへへ、任せて!」
ミリアが元気いっぱいになって、山羊達を連れて山の
ご飯を食べているうちに、悪口に落ち込んだ気分も上向いたようだ。
「フリーデ、今日は三本樹の方に行く」
大きな斧を担いだ男達がフリーデさんに声を掛ける。
高校生くらいの男の子達も、大人と一緒に木こりをしに行くようだ。
「あいよ。ならお昼はエラに運んでもらうよ」
「えー、あっちはトゲトゲ藪がいっぱいで服が傷んじゃう」
「文句を言わない。傷んだら――」
「新しいの買ってくれる?」
「買えるわけないだろ? 木を何百本切らないといけいないと思ってるんだい」
え? 服ってそんなに高いの?
高いだろうとは予測していたけど、そこまでだとは思わなかった。
服や布を複製するだけで、食いっぱぐれない人生を歩めそうな気がする。
「嫁入りする時には新しい服を作ってやる。だから、早めに良い相手を掴まえてこい」
「は~い」
エラがお父さんらしき人の言葉を受け流す。
さすがにそんな話を小学六年生女児に言っても、真剣には受け取らないと思うよ。
男達が山に出かけると、洗い物の終わった女達は畑の水やりに出かける。
洗濯は週に一度から月に一度くらいの頻度で、雨の日にやるそうだ。
「ホルガー、インゴ達を連れて水汲みに行っておいで」
「セイはいいんだよ。あんたはハイノ達と家の周りで遊んでおいで」
オレも行こうとすると、奥様方に止められた。
水汲みは小学校高学年くらいの大きな子供達の担当で、それ以下の子達は家や畑の周りで遊ぶのが仕事らしい。
小学校低学年以下の子達は六人。赤ん坊が二人。
五歳のハイノ君と二歳と三歳と六歳の女の子、七歳と八歳の男の子だ。
小学校高学年の子達はエラを含めて男の子四人と女の子三人だから、各家庭に少なくとも四人の子供がいる計算になる。異世界は考えていた以上に子だくさんらしい。
「あそぼー」
「何して遊ぶ?」
「まるむし」
ハイノ君がそう言って丸くなる。
――え? それが遊び?
リアル五歳は思ったよりも子供だ。
というか幼稚園くらいの年齢だから当たり前か。
『まるまる~』
クゥがハイノ君の横で丸まっていた。
いつの間にか遊びに来ていたらしい。
「せーれーだ!」
「せーれー」
クゥは小さな子供達には見えるらしい。
『にゅ!』
集まってきた子供達に驚いたクゥが逃げていった。
それを子供達が無邪気に追いかけていく。
「あんまり追いかけたらダメだよ」
オレは子供達に声かけしつつ、『空高くに逃げて』と念話でクゥにアドバイスする。
――おや?
一軒の窓から、暗い家の中で糸紡ぎをするおばあさんを見かけた。
リアル糸紡ぎだ。
からからと足踏み式の糸紡ぎ機を動かしている。
「そこにいるのは誰だい?」
見物していたら、お婆さんに気づかれた。
「こんにちは」
「その声は山爺の家の養い子だね。こっちにおいで」
周囲を見回して入り口を探していたら、「窓からでいいよ」と言ってもらったので、遠慮無く窓からお邪魔した。
「紡いでいるのは何かの毛?」
「ヤギの冬毛だよ。糸を紡ぎ終わったら、あっちの織機で布を織るんだよ」
オレの想像より、かなり小さな機織り機があった。
「夏毛も織るの?」
「秋から冬は綿帽子を紡ぐんだよ」
綿帽子――綿花か。
「高く売れる?」
「年に反物一つがやっとだし、子供達の嫁入りで使う事が多いから、儲けはほとんど出ないねぇ」
なるほど、集落の需要を満たすのが主目的で、儲けは余剰分を売った時だけって感じか。
将来的に布を売る事になっても、こういったお婆さん達の手仕事の邪魔をしないように注意しないとね。
「あー、こんなトコにいた!」
子供達に見つかってしまった。
その後は隠れん坊をして遊び、お昼は茹でたイモと、小麦っぽい粉を練った皮で酢漬けの野菜を具に包んだお焼きみたいなのをご馳走になった。
これは木こりをする男達のお弁当にもなるので、山で食べやすいように作ったのだろう。
お昼になってもヨーゼフお爺さんが麓から戻ってこないので、子供達と畑の見物に行く。
ここの畑は集落から離れた場所にあったけど、それなりに広い。
日本の畑でもよく見る畝があり、まだ芽は出ていないけど、何かの野菜が植えられているようだ。
「ホルガー、もう一度水汲みに行ってきておくれ」
「えー、またー」
「文句を言わずに行く! それともインゴと一緒に雑草引きをするかい?」
「行ってきまーす」
「「「まーす」」」
大きな水甕を担いだホルガー少年の後ろを、年少組の子供達が付いていく。
「ねー、インゴ君」
「くん? 気持ち悪い呼び方すんな。お前にもインゴ兄と呼ばせてやる」
「じゃあ、インゴ兄。このへんで一番弱い魔獣って何?」
「このへんに魔獣なんていないぞ。御山に住み着いた
へー、ちゃんと領主している。
「なら、どのへんに行ったらいる?」
「さあな。大森林の奥に行ったらいるんじゃないか」
めんどくさくなったのか、インゴ少年が雑な答えをする。
大森林の魔獣は強いから対象外なんだよね。
「誰に聞いたら詳しいかな?」
「そりゃ、魔狩人の兄ちゃん達だろ」
それもそうか。
魔獣狩りの専門家だもんね。
「どこに行ったら会える?」
「さあ、わかんねぇ。向こうから山を下りてきた時にしか会えねぇよ」
インゴ少年によると、ここの魔狩人は拠点を持たず、魔獣を追って山を歩き回っているそうだ。
まあ、ミリアの知り合いにもいるみたいだし、高原の山小屋に住んでいれば会う機会もあるだろう。
「川だー」
「お前ら、川は危ないから近づくなよ」
畑から五分ほどのところに川があった。
ここまでの間は岩が多い荒れ地だったので、畑を川の近くに作れなかったのだろう。
オレも子供達と一緒に岩場の上から覗き込む。
「――川が岩の間から噴き出てる?」
「おう、そうだぜ。親父の話だと、御山の雪が溶けたのが地面の下を流れてくるだってさ」
へー、雪解け水か。
「これを飲み水にはしないの?」
「ダメダメ、腹壊しちまう」
「なんで?」
「俺が知るか」
仕事の邪魔をするなとインゴ少年に追い払われてしまった。
残念。ここが飲料水に使えるなら、山の水源を山小屋まで引っ張れたのに。
「セイー、お爺さんが迎えにきたよー」
エラが呼びに来てくれたので、大荷物を背負ったお爺さんと一緒に山小屋に戻る。
お爺さんはミリアの昼ご飯を持って山の
さて、環境改善の第一歩を実行してみようか。
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