2-15.戦利品


「さて、湿っぽいのは終わり終わり」


 頬を軽くパンパンと叩いて気分を切り替える。

 幽霊がカメラに写るか試したかったけど、そんな雰囲気じゃなかったし、そのうち機会もあるだろう。


 まずは置きっぱなしにしていた収納鞄を回収に行く。


「あれ? 中身がある」


 なんかいっぱい入っている。


 オレはブルーシートを敷いて、そこに収納鞄の中身をぶっちゃけてみた。


 食品各種に衣服が大量に、道具類や小物が色々と、あとケースが一個とじゃらじゃらと音がする袋が幾つか。本や手紙や筆記用具らしきもの。最後に予備の武具が幾つも。


「この短剣は綺麗だな」


 淡い緑色の不思議な金属で作られたお洒落な短剣だ。

 もっとも、短剣と言っても、オレの体格だと普通の剣なみに大きいけどさ。


「賢者ちゃん、この短剣っていいやつ?」

『うん、なかなかの逸品だね。碧玉へきぎょくはがねは錆びないし軽いから、貴人の武具によく使われるよ』


 ファンタジーによくあるミスリルとかじゃないみたいだ。


 ナイフは他に数本あったが、そっちは普通の鋼っぽい。

 予備の武器防具らしき物も同じだ。指揮棒みたいのと魔法使いが使いそうな長い杖もある。杖は先端に黄色い魔晶石が填まっていて格好いい。


「やっぱ魔法使いって杖を使うの?」

『使う人は多いね~。攻撃魔法を使う時は、長い杖の先端を発射焦点にした方が、失敗した時に怪我がしにくいし、雑な制御でも使えるから』


 増幅にも使えるそうだが、今のところ困っていないので別にいいか。

 両手が空いていた方が、作業中に使いやすいしね。


 短い杖は某魔法少年ものっぽかったので、「エクスペクト・パトローナム」なんて唱えて遊んでみた。

 賢者ちゃんは茶化す事なく、オレの横で箒に乗って飛ぶ魔女コスプレをしてくれる。


 おっと、遊びすぎた。

 早いところ片付けを済まそう。


「これはダメだな」


 保存食は大丈夫そうだけど、生鮮食品はミイラ状態だった。


 どれもけっこうな量がある。


 ミイラ化した生鮮食品は後でキューブ化して素材に使おう。干し肉や干からびたハムなんかは、肉系弁当の複製素材になりそうだしね。


「衣類も多いな」


 ファンタジー戦争物に出てきそうな衣服が色々ある。


「臭いけど、洗えば使える?」


 衣類や毛布に浄化魔法をかけると、砂のような結晶がボロボロと零れた。

 後で、巣の入り口で払おう。


「こっちは使い道の分かるのから分からない物まで色々だ」


 道具類や小物はファンタジー映画やゲームで見たような品がいっぱいで、見ていて楽しかった。

 そのほとんどは使い方が分からなかったけど、魔法の道具は賢者ちゃんが使い方を教えてくれた。


 正直、LEDランタンやカセットコンロの方が便利そうなので、日の目を見る事はなさそうだ。


「おおっ、宝石だ」


 ケースの中には大粒の宝石がいっぱい入っていた。


「キラキラ~」


 どこかに行っていたクゥが、オレの横で目を輝かせている。


「甘い~?」

「宝石だから食べられないよ」

「アメじゃ無い~?」


 どうやら、飴と勘違いしたようだ。

 違うと分かったクゥが、興味を失ってしおしおになる。


「賢者ちゃん、価値はどのくらいだと思う?」

『そうね~、どれもかなり高価よ』


 鑑定士のコスプレをした賢者ちゃんの話だと、どの宝石も金貨数十枚から数百枚級の品らしい。


「それにしても、どうして竜退治に宝石を持ってきたんだろ?」

『たぶん、非常時の換金用でしょ。宝石は嵩張らないから、旅先で大金が必要になった時に便利なのよ』


 なるほど。そういえば昔遊んだテーブルトークRPGでも、換金用の宝石がいっぱい出てきたっけ。


「こっちは貨幣か、銅貨が多いな」


 じゃらじゃらいう袋の二つは貨幣だった。


 一つは袋いっぱいの銅貨。歪んでいるのから錆びているものまで様々で、大小何種類も交ざっている。

 枚数は数えてないけど、数百枚はあるんじゃないかな?


 もう一つの袋は銀貨や金貨。銀貨は普通のコインだけじゃなく、一朱銀みたいな四角いのとか麻雀の点棒みたいな棒状のヤツまで幅広い。賢者ちゃんの話だと、色々な国の貨幣が交ざっているようだ。

 金貨は同じようなサイズのコインで、表面の肖像が違うのが交ざっている。


 銀貨は一〇〇枚以上ありそうだけど、金貨は全部で一〇枚ほどしかない。


「まあ、このへんは人里に行ってからかな」


 豪遊はできないと思うけど、人里スタート・セットとしては十分だと思う。


「こっちは魔晶石? ちょっとくすんでいるし、いびつな感じだから違うのかな?」


 じゃらじゃらいう袋の残り三つは大小様々な魔晶石っぽい石がいっぱい入っていた。

 賢者ちゃんによると、これは魔獣から採れる魔石というもので、魔晶石の原材料との事だ。


「出し忘れの手紙?」


 最後に本や手紙や筆記用具らしきものを確認する。


『それは遺書だよ』


 賢者ちゃんが手紙と一緒にあった紙を指さす。

 そこには「この日記や手紙を遺品と一緒に」と書かれてあった。王子の日記と仲間達の遺書らしい。

 本かと思ったのは、革張り装丁の日記だったらしい。


 この日記や手紙は、遺品の短剣やメダルと一緒に収納しておこう。

 バラでいれると後で困りそうなので、収納鞄の中に入っていた幾つもの袋の中で、一番上等そうな袋に入れて一纏めにした。





「――無理」


 謎オブジェを解体しようと思ったけど、ドラゴンの怪力で圧着されている箇所も多く、幼児の力ではどうしようもない事が判明した。

 それでも、ウィッチ・ハンドでなんとか聖剣は抜け、遺品のメダルと短剣も聖剣が抜けた拍子に外れたので、他の部分は根元から次元斬で切断してそのまま収納する。


「こっちも次元斬で回収かな?」

『それでいいと思うよ。錬金術の溶解や分離があれば楽なんだけどね~』


 残念ながら、賢者ちゃんセレクトの「異世界で役立つ魔法」シリーズには含まれていなかった。


 オレは竜の寝床を次元斬でバラして、アース・ハンドで回収する。


『またつまらぬ物を斬ってしまった』


 着流し袴の浪人スタイルで十三代目の大泥棒のコスプレで決め台詞を言う。


「これ、すごい斬れるけど、消耗も激しいね」

『それはセイの体力が無いからだよ』

「魔力じゃなくて?」

『うん、魔力を使うための器が未熟な感じ?』


 なるほど、幼児で筋トレは背が伸びなくなりそうだし、ウォーキングとかして基礎体力を増やした方が良さそうだ。


「これで資源は回収し終わったかな?」

『マナ・サーチしてみたら? 何か魔法の品が転がっているかもしれないわよ?』


 賢者ちゃんの勧めに従って確認したら、竜の巣全体がほんのりと魔力を放っているのが分かった。


『竜の巣だから、赤竜の発散した魔力が残留しているのよ。その中でも強い反応はない?』

「えーっと――ああ、あった」


 巣の中にポツポツと魔力反応が濃い場所がある。

 竜の鱗や何かの皮――賢者ちゃんは脱皮した竜の皮だろうと言っていた――それから、小さな魔法の道具や魔晶石の欠片、そして――。


「灰色の岩石?」


 真円に近い岩石がある。

 オレの身長よりも少し高い。


「なんだろう?」

『岩塩よ』

「――岩塩?」


 異世界の岩塩は魔力を含んでいるのか?


『違う違う。たぶん、赤竜が塩分補給に舐めてたんだと思う。長い年月で赤竜の唾液が染みこんで、濃い魔力を帯びたんだと思う』


 なるほど、ドラゴン用の塩飴みたいなものか。


「まあ、これだけの大きさの岩塩があれば、塩素材問題は解決だね」


 食用の塩はたっぷりあるけど、複製素材に使う塩が欲しかったんだよね。


『えー、もったいないよ。これだけ良質の魔力を含んだ塩なら、色々と使い道があるんだし』

「そうなの?」


 まあ、ドラゴンがこれだけの岩塩を拾ってきたって事は、どこかに岩塩の採取できる場所があるんだろうし、手持ちの塩残量がヤバくなるまでは保留にしよう。


 しばらくして、魔力の反応が高い素材を拾い集め終わった。


「さて、これからどうしよう?」


 ここは広くて、入り口に結界を張っておけば雨風も防げる。

 奥から入り口に向けて傾斜しているから、中で水を使っても排水が大変って事もなさそうだ。


 とはいえ、ここを拠点にするには問題がある。


「賢者ちゃん、ドラゴンって友達の家を訪ねたりするのかな?」

『繁殖期ならともかく、それ以外で訪ねる時は、狩り場を奪いに来た時くらいだよ』


 背中に小さな翼、お尻に爬虫類っぽい尻尾を装備した、ドラゴン賢者ちゃんが答えてくれた。

 白衣を着てメガネまで着ているって事は、ドラゴンの研究者ってコスプレなのかな?


 属性が多いね。


「ここも狙われそう?」

『当分は大丈夫じゃない? 争った形跡もないし、赤竜がマーキングしている痕跡が薄れる来年くらいまでは、他の魔獣どころか他の竜も寄ってこないと思うよ』

「ふーん、そういうもの?」


 賢者ちゃんがこくりと頷く。


「襲ってくる時は、未明に巣を強襲とか?」

『ないない。普通は近くの峰に降りて、ドラゴン・クライっていう咆吼を上げて自己主張するところからよ。「俺はここにいるぞー!」「俺はお前より強いんだぞー」って主張するの』


 なんか決闘っぽい趣があるね。


「それで出てこなかったら巣を強襲?」

『強襲が好きねぇ~、襲われたいの? 竜は寝ぼすけだから、気の短い竜でも三日くらいはドラゴン・クライを続けるわ。年経た竜は、もったいぶって焦らすから』


 なるほど、それなら転移の準備をしておけば、ドラゴン・クライを合図に逃げられるってわけか。


『消極的ね。まあ、今のセイだと、正面切って戦うのは止めた方がいいわ。近接戦闘ができないとバレたら、攻撃魔法を使う隙を与えてくれないわよ』

「うん、ドラゴンが来たら逃げるよ」


 異世界バトルは遠慮します。





「お掃除お掃除~」


 とりあえず竜の巣を拠点にしても大丈夫そうなので、クゥと二人で掃除を始めた。

 クゥの操る風で、竜の巣に溜まった埃や毛玉みたいなゴミを、入り口から外に吹き飛ばしてもらう。


 あちこちにコインや金属片が墜ちているので、ウィッチ・ハンドの練習を兼ねて回収していく。

 さっき回収が面倒になって放置した竜の鱗や脱皮した皮の欠片も拾い集めた。古い鱗や皮は劣化していて素材には向かないそうだが、捨てるのももったいないのでインベントリの肥やしにしてみた。


 最後に浄化して終わりだ。


「――寒っ」


 ここは標高が高いので、入り口の結界を外していると寒い。

 掃除が終わったので、入り口に結界を張り直す。滝裏の時と同じタイプの室温維持と換気を両立したヤツだ。


「そろそろお腹が減ってきたな」


 今日は頑張ったからね。


「腹減った~」


 クゥも俺をマネする。


 日も陰ってきたし、今のうちに夕飯の準備をしよう。


「よし、今日のメニューはドラゴン・ステーキだ!」







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