2-7.風精霊の実力


「やっぱ、地道が一番だね」


 裏技の方が大変だと悟ったので、オレは地道に詠唱を繰り返し、消費した品々を複製して補充していく。

 お粥のレトルトパックやミネラルウォーターといった食品から、携帯トイレの乾燥剤やポリ袋なんかの生活必需品を優先的に複製した。

 ホームセンターで買った段ボールと麻袋も複製しておこう。


 その一方で、プリンやヨーグルトや一部のサプリメントの複製が上手くいかない。

 唐揚げ弁当や牛丼を複製できるか試したが、これもできなかった。


 たぶん、必要な元素が足りないのだろう。


 砂糖や米や野菜類なんかは幾らでも増やせるみたいだから、当面の食料は問題ないんだけどさ。


「――魔法も繰り返すと疲れるね」


 一回一回はそれほどでもないけど、こうも繰り返すと消耗が激しい。


「病み上がりだし、無理は禁物だ」


 ちょっと休憩して、景色を眺めて心を休めてから続きをする。


 地面にぶちまけた塩がもったいなかったので、ポリタンクやペットボトルを量産してみた。

 量産したポリタンクに水を汲んで、ウィッチ・ハンドを使ってインベントリに収納する。


 やっぱり、水の確保は基本だよね。


 ペットボトルにも汲んでおこう。こっちは後でミネラルウォーターを複製する時の素材に使えるしね。


「腹減ったな……」


 ケーキを食べてからだいぶ経ったし、そろそろお昼を食べよう。


 焚き火は遠くからでも煙に気付かれかねないから、自炊はやめておいた方がよさそうだ。

 殺されそうになってから、もう二週間が経過しているとはいえ、用心はしておいた方がいいだろう。


 ――とはいえ。


 お粥ばっかりだったので、今日は違うものが食べたい。


 オレは少し思案してから、インベントリに入っているお弁当を取り出した。

 まだ弁当の複製補充はできないけど、たくさん買い込んだのもあるし、それを食べよう。


 今日は焼き魚定食の気分だったので、焼き鯖弁当を食べる。


 ――美味い。


 ちょっと濃い味がたまらない。

 それに魚の中だと鯖が一番好きなんだよね。


「何食べているの~?」


 いつの間にか風精霊のクゥが傍にいた。

 弁当の匂いに釣られて戻ってきたのだろう。この子は本当に食いしん坊だ。


「クゥにも一口やろうか?」


 クゥが差し出した魚の身をクンクン嗅いでからプイッと顔を逸らした。


「――クゥはいらない~」


 魚料理は嫌いらしい。


「チーズケーキ食べる~」

「それはまだ複製できないから、こっちをあげるよ」


 オレはそう言って塩飴を差し出した。


「これあんまり好きじゃない~」

「じゃ、フルーツアメは?」

「これ好き!」


 フルーツ飴の袋を剥いてクゥに与える。

 クゥは三つくらいほっぺに詰め込んでご満悦だ。


 このフルーツ飴は普通に複製できたんだよね。

 色素に使う元素はどこから補充したのか気になる。


 クゥが美味しそうに飴を食べる横で、オレも焼き鯖弁当を味わう。

 手が小さいから割り箸が使いにくい。今度使う時は、あらかじめ適当なところで折って短くしよう。


 この身体はまだまだ胃が小さいので、弁当の三分の一も食べないうちに満腹になった。

 残りはインベントリに収納して、夕飯の時にでも食べよう。


 滝の音をBGMに温かいお茶を飲む。


 こういうスローライフな感じって、大好きだ。





 ――そうだ。


「クゥ、ちょっと手伝ってくれない?」

「いいよ~」


 クゥは頼み事の内容も聞かずに即答だ。


 さっき賢者ちゃんに聞いた「風の精霊なら、風の魔法を底上げしてもらうとかじゃない?」という言葉を確かめようと思ったのだ。


「今からパッシブ・サーチの魔法を使うから、それを補助してほしいんだ」

「にゅ~? ぱしぶ~?」


 クゥに難しい言い方はダメらしい。


「まわりの気配を感じる魔法を使うから、手伝って」

「お任せあれ~」


 さっそくパッシブ・サーチの魔法を使う。


「おおっ」


 クゥの協力でサーチ範囲が一気に広がった。

 体感で三倍から五倍くらいだ。


「――げげっ」


 範囲が広がるのは歓迎すべき事なんだけど、それよりも大変な事に気付いた。


 パッシブ・サーチに人間らしき存在が大量に見つかった。


 というか、村だ。

 たぶん、ムルゥー君の生まれた村だと思うけど、めっちゃ近くにある。


 オレ単体のパッシブ・サーチ範囲の少し外側に、村の端っこがあるようだ。

 体感距離なので正確には分からないけど、たぶん一キロメートルも離れていないと思う。


 太陽の位置からして、滝の真東に村がある。


「参ったな……」

「クゥ、何か失敗した~?」


 勘違いしたクゥがしょんぼりした。


「ごめんごめん、違うよ。クゥはちゃんと役だってくれたよ。ありがとう」


 オレはお礼を言って、フルーツ飴をクゥにあげる。


「わーい、飴好き~」


 飴を受け取ったクゥがくるりと宙返りした。


 それを愛でたいけど、そういう訳にもいかない。

 だって、パッシブ・サーチで見つかった人間の小集団が、こっち側に向かって移動開始したのを見つけてしまったのだから。


 さて、オレはどういう行動を取るべきだろう?






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