誰であっても
子蜘蛛達は外の世界に右往左往しながらも前へ前へと進み、やがて小さな死骸や果物を食べ始める。
生命の神秘とも言える瞬間……なのだが、子供とはいえその大きさは前世の比ではない。死骸や果物はあっという間に食べ尽くされてしまった。
だが、それでも生まれてくる子蜘蛛は後を絶たない。
『……このままじゃ、どう考えても餌が足りなくないか?』
不安に思いつつも様子を伺っていると、母親の
細かく細かく、何度もちぎっては子蜘蛛へと自身の体を与え、何とか子供達の飢えを凌ごうとしている。
だが、それも焼け石に水。
子蜘蛛はその数を次々と増やし、やがて巣全体を埋め尽くす程の数へと達してしまった。
子蜘蛛の数と比較して、餌の供給が明らかに足りていない。
おそらく母親蜘蛛もそれは分かっている。だが、それでも自身の体をちぎっては子蜘蛛の餌にしようとしている。
その姿を見ていると胸が痛くなると同時に、母親蜘蛛が俺をここまで連れてきた意味が何となくわかった気がした。
『……お前は、俺に助けてほしかったのか』
助けてほしいと願っているなら、救いの手を差し伸べる。
それが同じ
誰であっても、「助けなきゃ」と思えば全身全霊で応える。それが俺の憧れた
彼らの様になりたいなら、今俺がやるべき事は一つだろう。
「――分かった。任せろ」
幸い、俺には救う為の
『問題は何を再現するか……だが』
子蜘蛛の様子を見ていると果物系よりも圧倒的に昆虫・小動物の死骸の方が人気だったし、餌としても長持ちしていた。
どうせ再現するなら、そちらの方がいいのだろう。
一つ問題があるとすれば、再現する際には対象の詳細な
グロいし思い出しても決していい気分はしないが、泣き言は言ってられない。
こうしている間にも母親蜘蛛の体はどんどん子蜘蛛の餌になっていくので、急ぎ再現していく。
――!!!
子蜘蛛は新しい餌に気がついたのか、俺の生み出した死骸に惹かれて近づいてきた。各々が死骸に手を伸ばし、凄まじい勢いで食べ始める。
俺も子蜘蛛の食欲に負けない為にも更に生成速度を上げ、何とかして餌の山を作り出した。
『これで子蜘蛛の方は大丈夫。後は……こっちの母親蜘蛛か』
見れば見るほど痛々しい姿だった。特に千切られた手の断面は不揃いで、明らかに力ずくでやっていたことが見て取れる。
合わせると体の二、三割は子蜘蛛の餌になっただろうか。母親蜘蛛は明らかに衰弱していた。
この勢いだと、俺がいなかったら全身を子蜘蛛に食わせる気だったのかもしれない。
「――ヒラリア」
今度こそ
『……けど、俺が自分に使った時と比べると効き目が悪い気がする』
相手が人ではなく蜘蛛だからなのか、それとも治療する体が大きいからなのか。理由は分からないが、今はひたすら
――……………………。
母親蜘蛛は大人しくしながら、治療する俺へとその若草色の視線を送ってくる。
『待ってろ。すぐに治してやるからな』
そうして俺はひたすら治療を続け、母親蜘蛛の体が完全に元へと戻ったのはそれから十分後のことだった。
――!!!!!
母親蜘蛛は興奮した様子で元に戻った両手を使い、俺をガッチリと掴んで頬擦りしてきた。この様子だと、もう手の心配は必要ないらしい。
子蜘蛛の方も腹を満たした個体から巣の外へと飛び出し、そのまま森の中へと消えていった。
流石に色々あって疲れたので、このまま母親蜘蛛の背中で休ませてもらう。ちなみに寝心地はいい感じにフワフワしている絨毯という感じだ。気持ちいい。
「――ぉーい………………おーい!」
暫く背中のフワフワに浸っていると、外から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
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