好機
「……別にあれくらい、お前なら簡単に
空へと飛び上がる少年を見上げながら、余力を残している目の前の男に問いかける。
「手を抜いている訳ではないさ。ただ、彼の実力をもっと見てみたくてね。それを分かった上で、君も手加減をしているんじゃないのか?」
「は? 俺がいつ手加減したって?」
「ほら、態々
「んな訳あるか! こちとらこれが全力だっつうの!」
誰が自分の命を懸けてまでそんな事をすると思うのか。
俺にそんな余裕はない。さっきの攻撃もコイツが止めてなかったらどうなっていたか。
「――話はこれくらいにしておこうか。私達もやるべき事をしないとね」
「……あぁ」
俺とミュールは再び剣と盾を構え直し、元来た方へと振り返る。
視線の先では、鬱陶しい羽音が幾つにも重なり合って近づいて来ていた。
木々を縫って現れたのは
普通に出てくる分には問題ないのだが、偶にこうして他の魔物と戦っている時に現れては横から魔力を吸いに来る為、放っておくと非常に厄介なことになる。
それに体が片手を広げたくらいの大きさはあるので、刺されると普通に痛い。
「彼が
「分かってる。――いくぞ!」
そうして俺達は
* * *
『何だあれ……蚊?』
下の方が騒がしくなったので様子を見てみれば、ウォルターとミュールが何かと戦っている。
特段苦戦はしていないみたいだが、動きが速い所為で時々攻撃を避けられているみたいだ。
「なら、早く倒して向こうの援護に――……っと!」
ふと目を離した隙に
避けた水弾は背後にある木の幹を大きく凹ませ、細い物ならへし折ってしまう程の威力がある。
これに当たる訳にはいかないので幹や葉を使って姿を隠しつつ、手に持った風剣で斬撃を飛ばして蜘蛛の巣を切断しにかかる。
蜘蛛の巣は広く張られている分、斬撃の影響だって広範囲に及ぶ。
斬撃は確かに蜘蛛の巣へと命中するコースだったが、水滴から照射された水が今度は盾になって斬撃を防いできた。
『――成程。あの巣は砲台兼防御壁ってことか……』
あの蜘蛛の巣をどうにかしないと攻撃を止めることも、奥にいる
残った水滴は依然変わらず攻撃を仕掛けてくるし、現状のままだと圧倒的な手数の差がある。
相手の攻守の要である蜘蛛の巣を破ろうと火球をぶつけてみても、展開された水盾に触れた瞬間にジュッと音を立てて消えてしまった。
火ではダメ。なら次は手数を更に増やし、火力を上げる作戦に切り替える。
空いていた手にも風剣を装備し、二刀流で斬撃を繰り出す。
斬撃の数が倍近くに増えても
『クソッ……、これもダメか』
なら次は――と頭を過ぎらせた瞬間に左手を滑らせてしまい、斬撃があらぬ方向へ飛んでいく。
「やばっ!」
斬撃を視線で追うと、幸いウォルターやミュールのいる方向ではなく大樹の方向へ飛んでいったようだ。
一先ず安心し、再び攻撃を続けようと正面を向くとまたしても
どこへ行ったかと思えば、何故か
だが、
その結果、斬撃の威力を多少殺すことは出来ても相殺とまではいかず、
一連の行動に疑問は残るが、これ以上の好機はない。
この隙に
「
最大火力で放ったそれは広大な
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