旅の終わりと試験の始まり
まるで御伽噺に出てくる白亜の城の様な外観。西洋チックな造りも相まって、壁の先には俺の知らない新たな世界が広がっているのだと確かに感じさせる。
「近くで見ると、すごいな」
「うん。私達何人分の高さなんだろうね」
「ルルフィが十人いても足りるか怪しいレベルだな……っとと」
止まっていた馬車が急に動き出し、少々体のバランスを崩した。
御者が門番らしき人と話をつけ終わったらしく、俺達を乗せた馬車は白亜の城壁を通り抜ける。
城門を潜ると同時に隠れていた太陽が再び姿を現し、影に慣れていた目が不意に眩んだ。
白く塗られた視界が元の色を取り戻すと、映ったのは先程までの広大な自然とは真反対の景色だった。
遥か彼方、これまた白亜に彩られた城まで一直線に伸びる煉瓦の道。それに沿って様々な種類の露店が立ち並び、道行く人々との掛け合いで大きく賑わっている。
人の様相も多種多様で、商いを営む耳の長い老人と話をしている獣人がいたと思ったら、その数メートル先では恐竜と人間を足して割った様な人が大剣を担いで建物の中へと入っていく。
他にも鎧に身を包む人がそこら中に立っていたり、首が無くなった巨大な魔物を載せた馬車が街中へと運び込まれていたり、俺が今まで培った常識では到底測りきれない光景ばかりだった。
だが、街の人は一人としてこの光景に異議を唱えようとしない。
彼らの中では、この光景は常識の範囲内に収まっているのだ。
『これが王都か……。東京なんかとは丸っきり雰囲気が違うな』
馬車から降り、地に足を付けて辺りを見渡してみる。
「まずは学院を探さないとな」
「そうだね。試験についてもちゃんと話を聞いておかないといけないし」
俺達の目的は魔術学院の試験を突破して入学することだ。
何の準備も無しに試験を受けても、即刻落とされるのがオチだろう。
「そうか、お客さん達は魔術学院が目当てでしたね」
俺達の会話を聞いて、馬を落ち着かせた御者がこちらへと歩いてくる。
「学院なら大通りを真っすぐ歩いていくと、嫌でも目につきますよ」
「なるほど。ありがとうございます」
『嫌でも目につく』という表現は気になるが、これで探す手間は省けた。
「では、私はこれで失礼しますね」
その一言を残し、御者は馬車を連れてその場を去っていった。
「場所も分かったことだし、早速行ってみようよ」
足早にその場を動こうとするルルフィを一度止める。
「いや、先に宿を探しに行こう」
「いいけど……どうして?」
「一番優先度が高いからだ」
「これだけ大きな街だと俺達と同じ様に地方からやって来る人も当然いる。だから、宿は早めに抑えておく方がいい」
宿というのは予想の三倍早く埋まるものだと思っている。それが都会なら尚更だ。
「もし宿が取れなかったらどこかで野宿とかに成りかねないし、慣れない土地でそういう事態になるのは避けたいからな」
「それに、エトレも交えて一度今後の方針を確認したい。王都の探索はそれからでもいいだろ」
「なるほど……」
一通り説明するとルルフィは納得したのか、一瞬柔らかい笑みを浮かべた。
「じゃあ、まずは宿探しだね! 行こう!」
今度は顔全体で笑って俺の手を握る。彼女の整った顔はまるで太陽の様に眩しく、思わず目を逸らしてしまう。
「? どうかしたの?」
「い、いや、何でもない」
最近になって、どうも彼女の距離感の近さにドキドキすることが多くなった気がする。
『初めて会った頃は特段意識することもなかったんだがな……』
この身体も、健全な男子に近づいているということなのだろうか。
* * *
「これより、作戦会議を始める!」
借りた宿の一室にあった机を囲み、今一度三人で顔を合わせる。
「議題はずばり、『どうやって試験を突破するか』だ!」
――遡ること数時間前。
無事に宿を抑えた俺達は当初の目的であるユニバ魔術学院へと足を運んだ。
御者の人に言われた通りに大通りを歩くこと数分。
まるで小さめの城かと思わせる外観の施設が街の建物を軒並み押しのけ、景色の奥側で存在感を漂わせていた。
その施設こそ、ユニバ魔術学院である。
魔術学院へと着いた俺達は早速中へと入り、試験について話を聞くことにした。
受付の人曰く、どうやら試験は幾つかの行程に分けられているらしい。
今日は既に一次試験が終了していたので試験を受けることこそ出来なかったが、代わりに二次試験が一般向けに公開されていることを教えてもらい、三人で見学することにした。
試験会場では丁度二次試験の内容を説明している最中だった。その試験内容こそ、今回の悩みの種なのだ――。
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