第20話 確執

「星空みはりが成功した後、本格的なVtuber企画が始動しました。その時、オーディションによるVtuber企画と当社所属タレントによるVtuber化の2つが同時進行してしまったんです」


 福原さんは溜め息交じりに言う。

 その言い方だとまるで問題だったという感じだ。


「この時のオーディション組がペイベックスVtuber1期生で、社内組がのちの2期生にあたります」

「同時期でしたけどちょっとの差で1期生と2期生に別れたと?」

「いいえ。この時は1期生と2期生という枠ではなかったんです」

「そうなんですか?」


 福原さんは大きく頷く。


「当時は2つのVtuberユニットという感じで売りに出していました」

「ライバル的な?」

「ええ。アイドル商法などにもよくある手です」


 ライバルとして競い合わせることでリスナーはどちらを応援するかと意気込んだり、どちらが勝つかと気になったりする。そういう心理を使った商法。


「けれど不平等な金銭的な面が明るみになり始めたのです」

「金銭面?」


 福原さんは頷いた。そしてコーヒーを一口飲む。


「社内組は最初から3Dモデルとオリジナルソング、配信時のオープニングもあったのです。けれどオーディション組はそういったものが……一切なかったのです」

「それは確かに不平等ですね。でも、どうしてそのような差が?」

「予算です。オーディションには予算がかかりましたし、社内組は選抜みたいなものですので予算を切ることはありません。さらに社内組は新たな試みということで予算を多めに手にしたのです。それとかなりのバックアップがあったのです」

「それで差が……」

「ええ。それでこのままだとユニット格差によって社のイメージが悪くなりそうなので、ライバルユニットではなく、1期生と2期生として商法を変えたのです」


 ここで福原さんは一息ついた。


「ただ1期生と2期生にしても、2期生はなかなか3Dモデルなどが使えず、やきもきしていたらしいですね」

「どうしてですか? すでに3Dモデルはあったのでしょ?」

「名目上は1期生が先に3Dモデルを使用してからということなんです。後輩が先輩より先に3Dモデルを使ったらおかしいでしょ?」

「確かに。後輩が先にやると問題ですよね」

「ですので1期生全員が3Dモデル、オリジナルソング、配信オープニングなどを使うまで2期生はストップだったのです」

「もしかしてそれで何か確執が?」

「私の知る限りでは1期生と2期生は仲が良いと見られます。というか仲が良いとこしか知りません」

「なら問題はなかったと?」


 福原さんは頭を静かに左右へ振る。


「不自然なくらい仲が良いとこしか見てません」


 それはまるでということだろうか?


「人の内心なんてわかりませんからね。それにV同士では何もなくても社内では……」

「社内?」


 私の問いに福原さんは肩を竦める。


「結果的に1期生はペーメン内では神5なんて言われるくらいに成長しました。そしてオーディションをさらに設けて3期生、4期生が生まれました」

「そして5期生……あっ! 妹達は社内組なんですね」


 ここにきて社内組の5期生が生まれた。


「社内組派のスタッフが焦って、もう一度社内タレントをVtuberに移籍させたんです。それが5期生。この頃はオーディション組の風が強かったですから。あと5期生はその頃、トラブルがあって……少し無理矢理な選抜ですね。それに有流間ヒスイに関してはオーディションに近いですし」


 と、福原さんは苦笑した。


「そういったわけでスタッフ間では明らかな確執はありますね。私が1人で5期生全員をマネージャーとして担当するのはそういうわけなんですよ」

「それは大変ですね」


 まさかオーディション組と社内組なんてあるとは。しかもスタッフ間は目に見える確執まである。


「まあ、確執といってもギスギスではなく、『あんだぁ? 文句あんのか? この野郎?』といった目のかたきにする程度ですから。それにマネージャー間は仲は良いですよ。本当に」


 そりゃあ、福原さんは怖い人だから舐めたことは出来ないだろう。

 もしかしたら福原さんが5期生のマネージャーに選ばれたのもそういう理由なのではないだろうか。


「でも、1期生──いえ、月風ゆるると仲良くなれて良かったです。まあ、あの人と仲良くなれたなら他の問題ないでしょう」


 ゆるるさんの魂である夜丸氷さんはかなり陽キャな人。たぶん1期生の中でも中心的な人なのだろう。


「他の1期生もギャップがすごい人なんですか?」

「そうですね。オーディション組ですからね。初期は経歴関係なく、奇抜や尖った人を合格にしていたので1期生はくせ者ぞろいですね。しかも表裏なく演じるのかと思いきや、かなり設定を決めてからキャラを演じてますからね」

「それは不思議ですね。演じるのであれば曲者である必要はないのでは?」


 キャラが大事なら結局は声と演技、配信経験のはず。


「それはですね。普通の人が演じるのではなく、やばい人が演じた方が違和感が出るからだそうです。演技ってのはどうしても演者の素の部分が滲み出るんですよ。普通だったら面白くないですけど、やばい人ならば、リスナーは違和感を強く感じるんです。そこが惹きつける力だとプロデューサー言ってますね」

「プロデューサーとかいるんですか?」

「もちろんいますよ。ディレクターとかいますし、その他スタッフも。大勢の人が関わっているんです。時には課の垣根を越えて他の課にも手伝ってもらいます」

「なんかテレビ番組みたいですね」


 プロデューサーやディレクターという単語を聞くとそういう風に感じられる。


「みたいではなく、ほとんどそれに近いですよ。テレビ番組のようにスタジオ撮影やロケもあります。違う点はこちらは個人の生配信とアイドル活動があるというところですね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る