第10話 焼肉

「……VTuberって、焼肉好きが多いんですか?」


 私はトングで肉を網の上に置いていく氷さんに尋ねる。


 熱により肉の脂が網目をすり抜けて落ち、火が燃え盛る。


 スタジオで福原さんと別れた後、私達は駅前の焼肉屋に移動した。


 着いて早々、氷さんは店員に生ビールを注文。出町柳さんは自分の見た目が若いということに気づいているのか免許証をテーブルに置いてビールを注文。

 私はまずコースを選択してから、その後でドリンクバーに行き、烏龍茶をコップに注いだ。


「ん? 居酒屋が駄目だからさ。肉かなと思ったんだけど。千鶴、肉嫌い」

「いえ、好きです。ただVと食事をする時、高確率で焼肉なもので、つい」

「まあ、人間誰しも肉は好きなんじゃない? 食べ放題なんだから、じゃんじゃん食べよう! ん? マッチ、どうした?」


 氷さんの隣に座ってる出町柳さんが氷さんの二の腕を突っついている。


「ご飯も」

「食べたいの? ほれ」


 氷さんは出町柳さんに注文用タブレットを渡す。


「あ、私のもね。千鶴は?」

「では、私もお願いします」

「ご飯3つね。他何か欲しいのある?」

「ん〜キムチとか韓国海苔とか……あと、何がある?」

「唐揚げ、ビッグポテトフライ、ビビンバ、エビチリ、バターコーン、サラダとかあるよ」


 出町柳さんがタブレットを操作して答える。


「ええとサイドメニューも食べ放題なんですよね?」

「そうだよ。ただしビールは別。初回注文は半額ね」


 そして注文したご飯とキムチがそれぞれ3つ届いた。

 肉はまだ焼けていないのでキムチを私は啄む。


「ちなみに千鶴、食べ放題の必勝法って知ってる?」

「え? 必勝法? 知りません。なんですか?」


 ビュッフェとかの話は聞くけど焼肉食べ放題の必勝法は初耳だ。


「焼肉をたくさん食べる秘訣はねポテトやご飯系のような腹が膨れる食べ物は避けることだよ。特にここのビッグポテトフライなんて相当でかいよ」

「なるほど」

「だからって、馬鹿みたいに肉食べたら駄目だよ。氷、食べ過ぎで吐いたことがあるんだよ」


 出町柳さんがぼそりと突っ込む。


「そんなことがあったんですか?」

「あれはビールで酔ってたのもあるかな。それと東京は仕方ないよ」


 目を逸らし、アハハッと苦笑いしながら氷さんは答える。


「東京のせいにするな」

「東京の朝焼けは吐いてなんぼ」

「なわけないだろ」


 肉が焼け、私達は食べ始める。


「千鶴は実家暮らしなんだっけ? 親御さんたちには連絡した?」

「はい。先程食べて帰るので遅くなると」

「そっか。ならオールとかでもオッケー?」

「ダメでしょ?」


 と、出町柳さんがまたしても突っ込む。


「えー! 華の女子大生ならオールや合コンなんて当然でしょ?」

「それあんたの価値観でしょ? 皆が皆、そんなことしないよ。ね?」


 出町柳さんが伺う様に私に聞く。


「そうですね。私もまだそういうのは経験ないです」

「おいおい。そいつはもったいない。若いうちは遊んどきな。大人になると遊べないぞ」

「節度ある大学生活を送った方がいいよ」

「……は、はい」


 真逆な勧告を受けても困るというもの。

 とりあえず返事をしておく。


「大学生ってことは卍とも同級生?」

「はい。同じ大学です。この前、知り合ったんです。あとカロも」

「カロ……4期生の?」


 私は頷き「カロとはキャンパスは違いますけど同じ大学なんです」


「キャンパスは違う?」

「カロは理系だよ」


 と、出町柳さんが氷さんに教える。


「あー! 文系と理系って、キャンパスが違うんだっけ」

「そうです」

「へえー。……ちなみにオルタは星空みはりの中……魂を見たことある?」

「え!?」

「いや、仲良いからさ。噂だと女子大生って聞くじゃん」

「会ったことはないです。氷さんはないのですか?」

「ない。ね?」


 と、氷さんは隣に座る出町柳さんに相槌あいづちを求める。


「うん。ないね」

「そうなんですか。あまりオフで顔を見せない人だとは聞いてましたけど」

「あの子は特別なのよね。顔を合わせたことあるのって一部スタッフと0期生くらいよ」

「噂だとバ美肉説あり」

「バ美肉? なんですそれは?」

「男性がボイチェンで女性と偽ってVtuberやってること」

「へえ、星空さんはその可能性が……あると?」

「ないない。ネットの一部噂よ。スタッフや0期生曰く、恥ずかしがり屋な女性だって。ちなみに女子大生っていうのも、この前のデマであったやつ」


 氷さんが肩を竦めて言う。


「でも気になるよね〜」

「そうだね。何か訳ありなのかな?」


 と、言いつつ出町柳さんは肉を食べる。


「訳ありというと明日空姉妹みたいな?」

「そうかもね。……肉無くなったよ」

「マッチ! 私が育てた肉も食べたの?」


 網の上には肉は一つもなかった。


「……焦げちゃうから」

「焦げるなら言えばいいじゃない。もう!」


 氷さんは注文用タブレットで肉を追加注文する。


「次はタンとミスジね」

「カルビ食いたい」

「千鶴は?」

「何でも大丈夫です」

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