第11話 電話【月風ゆるる】

 うるさく鳴り響くスマホの着信音に私は起こされて、画面を見ずに通話に出る。


「もしもし?」

『やっと繋がった。あんた、今何時と思っているのよ』


 スマホ画面で時刻を確認する。17時09分。


「……夕方だ」

『どんだけ寝てるのよ!』

「もしかしてアン?」

『そうよ。誰だと思ってたのよ!』

「普通にきちんと画面見るのを忘れてた」


 アンとは中善寺杏で、星屑ミカエルの魂。


「昨夜は配信後にオルタ達とご飯食べに行ったから遅かったのよ」


 そして「ふわぁ〜」と欠伸あくびをする。


『オ、オルタ!? な、な、なんでよ!? はあ!? 意味分かんないだけど! ちょっと説明しなさいよ!』


 アンが通話越しにキャンキャンわめく。寝起きにこの声はキツイ。もし二日酔いだったら、通話を切っていただろう。


「だーかーらー、昨日スタジオの配信部屋を使ったの。で、オルタも配信部屋を使っていて、挨拶がてらご飯にってこと。マッチもいたよ」

『マッチも!? あいつ、超人見知りでしょ? 大丈夫だったの?』

「そういえば問題なかった」

『へえ、で、どういう子?』

「普通の……女子大生かな?」

『普通って何よ。もっと分かり易く』


 注文が多いな。めんどくさい。

 私は寝起きの脳を回転させて、働かせる。


「えーと、背は高い方かな。顔も普通。体型も普通。化粧して流行の服を着ればイケイケな女子大生かな?」

『イケイケって、死語よ』

「うるさいなー。てか、何の用で連絡したのよ!」

『そうだ。忘れてた! あんたがオルタの話を出すからよ!』

「私のせいって言いたいの?」

『あんた昨日の2戦目わざと吊られるように重なりキルしたでしょ?』


 さすがアン。分かってたか。

 そう。私はあの時、わざと負けたのだ。残されたオルタがどう動くのか知りたくて。


「ん〜? なんのことかな?」


 一応とぼけてみる。


『白々しい』

「で、それだけ?」

『ああいうのはやめなさいよ。あれでも初心者なんだから』

「でもさ、無事にやり切ったじゃん」


 まさかの人狼側の勝利。

 さらに詩子をキルしたタイミングはバッチリだった。

 詩子もSNSのトレンドに入って嬉しいことだろう。


『ま、結果オーライだけどさ』

「何か持ってるのかな?」

『運でも持っているって言いたいの?』

「かもね。だって、あの星空みはりが真っ先にコラボしたんだよ。ありえなくない?」


 星空みはり。0期生でペイベックスVtuberの祖。


 その正体は一部の人間しか知らず、1期生の自分達ですら会ったことがない。


 その星空みはりが真っ先にコラボしたのだ。

 正式なVtuberではないオルタに。しかも2人っきりで。


 ペーメン内にはまだ星空みはりとコラボをしたことがない者もいるほどで、星空みはりとのコラボはペーメン内に衝撃を与えた。


 私の記憶が確かなら赤羽メメですらコラボをしたことがないはず。


 それをオルタと。しかもその後も何回かコラボをしている。

 ゆえに何か繋がりがあるのかと考えるのが普通。


『まあ、確かに。不思議よね』

「ちなみに直で会ったことはないらしいよ。素性も全く知らないって」

『あんた、そんなことまで聞いたの?』

「つい会話の流れでね」


 嘘である。初めから星空みはりについて根掘り葉掘り聞くため、食事に誘ったのだ。

 たぶんマッチもそのことには薄々気づいていたはず。


「佳奈とは本当に姉妹で仲は良い。大学での友人は少ない方だけど、それなり充実はしている。卍とは大学での友人で、カロとはキャンパスは違えど仲は良い。5期生とは夏での合宿以降仲は良好。あとは明日空姉妹とアメージャ、メテオとも仲良しってところね」

『怖い。オルタもこんな怖いのに捕まって可哀想に』

「人聞きが悪いわね。建前を言うのはやめたら? そっちもキセキカナウの件以降、オルタのこと気にしてたでしょうに」

『そりゃあ、気にはなったよ。でも、あんたみたいにグイグイ入ってあれこれ聞くのは怖いよ』

「あのね。私だって、いきなりあれこれ聞かないわよ。手順ってものがあるの。で、その手順にのっとって調べたの。仲良く食事したんだから」


 しかも私の奢り。


『ちなみに何食べたの?』

「焼肉食べ放題」

『……吐いてないわよね?』

「もう! 私のことをなんだと思ってるわけ?」

『なかなかあの朝焼けのリバースを忘れられないわ』

「アハハハッ」


 あれは私がチャンネル登録者30万人をえて、祝いに皆と焼肉食べ放題に行った時だ。


 自分としてはプレッシャーなんてものは何も感じていないと考えていたが、体は違っていた。いや、メンタル面も実はプレッシャーでガチガチだったのだろう。今思うと無理に否定することで自分を気張っていたのだろう。


 そしてチャンネル登録者30万人を超えて、私は吹っ切れたようにビールをドバドバ飲み、肉をむさぼるように食した。


 そして朝焼けの路地裏で吐いた。


「あれは美味しいビールがいけなかったの」

『……ビールは飲み放題ではないのに馬鹿みたいに飲んでたわね』

「アハッ」

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