第1話 認知【星屑ミカエル】
目が覚めたら夕方の18時だった。
朝の9時に寝たから……9時間か。
昼夜逆転生活。
不摂生。
でも、仕方ない。
それがVtuberなのだから。Vtuberの仕事は基本夜から。キャバ嬢と同じ。
スマホに色んな通知がきていた。
メール、メッセージ、SNS、ソシャゲ。
その中で一つ、寝起きの頭を覚醒させるものがあった。
それは同期の月風ゆるるからのもので、
『キセキカナウがオルタにフォローしたらしいわよ』
キセキカナウ。4皇の1人で絶大な人気を誇り、黎明期から活躍している古参Vtuber。
コラボしたゲーム、商品、企業は数知れず。さらにはとあるテーマパークとコラボしたら、配信後、テーマパークの入場者が倍増したとか。
それゆえ一般にも名は知られている。
昔は誰彼かまわずフォローバックしていたが、一度SNSをリセットした。そこからはあまりフォローをしなくなったはず。
そのキセキカナウがフォローした。
相手の名はオルタ。
ここでいうオルタは赤羽メメ・オルタのことだろう。
少し前に話題になったので知っている。
赤羽メメの姉。
その社内組の5期生である赤羽メメとは2回くらいコラボした。ただし、大勢で。
『え? そうなの? 何かあったの?』
私はゆるるにメッセージを返した。
『知らないの?』
答えを求めているのに、どうでもいい質問が届いた。
『寝てた。で、何かあったの?』
フォローされるということは何かきっかけがあったはず。
キセキカナウは個人勢。
ペイベックスは面識のない他のVとのコラボにうるさい方だ。
メッセージではなく、着信でゆるるからコンタクトがきた。
『キセキカナウの配信にオルタがコメントを送ったのよ。で、キセキがコメントを読んだ』
「で?」
『以上』
「は?」
キセキカナウは人気のVだ。Vtuber以外にもテレビタレントや配信者がコメントを書き込むなんて珍しくもない。
『本当よ。実際、数分程度のことだったらしいし』
「で、フォローを?」
『ええ。だからネット界隈では話題』
「2人は以前から知り合いだったとか?」
『違うらしいわよ』
そりゃあ、話題になるだろう。
ちょっとした会話からフォローに発展。
何かあると深読みするのは至極当然だろう。
「オルタか」
『気になる?』
ゆるるが面白そうに聞く。
「気になるかどうかといえば気になる。あのみはりもすぐに誰より先にコラボしたしね」
そういえばあの時のことも普通に考えたら異常だ。
正式なVtuberでもないのに、星空みはりはすぐにコラボへと動いた。うちの看板Vtuberだから普通はマネージャーあたりが止めに入るはず。
ということはマネージャーを飛ばして直で?
いや、それはないはず。
マネージャーを言いくるめての行動なのか?
それに似合った対価はあるか?
だが、実際あのコラボは成功した。
けれどそれは終わってから判明した。コラボ前は不明瞭だったはず。
『ねえ、今度のコラボにオルタを呼ぼうよ』
「オルタを?」
『どんな人か気になるんでしょ?』
「……気になってるのはあんたもでしょ?」
『まあね。で、どう?』
「コラボって人狼のやつだよね」
ゲーム名は南極基地危機一髪。南極基地を舞台にした人狼ゲームだ。
『そうそう』
「……とりあえず声をかけてみるか」
コラボ人数はだいたい決まっているが、1人くらいは押し詰めても問題ないだろう。
人狼ゲームも多人数でやるゲームだから定員オーバーになることもないだろうし。
◯
ゆるるとの通話後、惣菜パンを一つ食べて、フード配達サービスでファミレス『びっくりガール』の手ごねハンバーグ200グラム×2とライス、カリカリポテトを注文。
届くまでの間、ソシャゲのデイリーを消費し、切り抜き動画を確認。
そしてオルタについてあれこれ調べていたら注文した品がやっと届いた。
配達完了の通知がきた後、配達ボックスから『びっくりガール』の袋を取り出す。
開けてもいないのにハンバーグのにおいがぷんぷんする。
ハンバーグを食べ終えた後はソファで缶ビールを飲みながら、オルタの切り抜きを見た。
ゲームの実力は素人。ハリカー大会の時は活躍していたからカートゲームは得意なのかな?
しかし、あれからカートゲームの配信は見ていない。
最近は6期生の猫泉ヤクモとホラゲーコラボをしていたらしい。
ホラゲーに対しては多少の耐性があるのか。リアクションは普通。主に
面白いかどうかで言うなら……素人感があって新鮮味があるのだろう。
友好関係は星空みはり、明日空姉妹、猫泉ヤクモ、妹のメメ繋がりで5期生くらいか。
いや、確か……コロナがペーメン内で蔓延した時、アメージャとメテオ、オルタがオフで会っていてコロナ感染したとか。
ならアメージャとメテオも友好関係に入れるべきか?
オルタとアメージャは前にコラボしていた。けどメテオはなかったはず。これはアメージャからの紹介か?
しかし、一回コラボしたからといって、メテオを紹介するか?
謎だ。調べれば調べるほど謎が生まれる。
まだ私の知らない秘密があるのか?
面白半分で確かめてみようと考えたが、これはきちんと確かめないと。
今度のコラボで何か掴める──あっ!?
コラボの件でマネージャーに連絡するのを忘れていた。
『……どうしたんですか? こんな夜中に?』
時計を見ると夜の21時を過ぎていた。
電話する時間をミスった。
「ごめん。明日でいいや」
『いえ、とりあえず聞いておきます』
「えっとね、今度の『南極基地危機一髪』だけどオルタも参加してもらいたいなと」
『オルタですか?』
「うん。駄目?」
『……分かりました。向こうには伝えておきます』
「ありがと。それだけだから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます