プロローグ【キセキカナウ】

 赤羽メメ・オルタというのは知っていた。


 以前、オルタブームがあり、数多くのVtuberがオルタ化をやった。


 そのほんとんどが、わざと配信事故を演出し、他人を姉妹や兄弟と偽り、配信に出演させるというもの。


 当初はなんだこれといった感じでそのブームを感じていた。


 私は発信源は誰なのかを調べて、そして赤羽メメ・オルタに辿り着いた。


 初めてオルタが現れたという事故配信を見て、私は本物と感じた。

 もしあれら全てが演技であるなら、相当な役者だ。


 ペイベックスはアーティストからお笑い芸人まで幅広い人材のいる企業だ。役者もいておかしくはない。

 けど、あれは演技とは思えなかった。


 オルタは声をアニメ声に変えることもなく地声でプレイ、そしてコメントを意識せず、ただ単にゲームをしていた。

 そういった媚びない姿勢が人の目を惹きつけたのかもしれない。


 それからオルタブームは一時的のもので、すぐに終わった。


 そのほとんどは失敗に終わり、私の知る限り、成功したのは赤羽メメ・オルタの一例だけではないだろうか。


 その後、オルタは星空みはりとコラボしてさらに人気が出た。それは元の赤羽メメよりも。


 人気が出れば大変なことも起こる。


 他のVtuberは人気にあやかろうと集まり、元の赤羽メメを蔑ろにする。


 それが原因で赤羽メメがキレた。


 あの瞬間、かつての私の身に起こった出来事がフラッシュバックした。


 掲示板では赤羽メメのスレッドではコメントが荒ぶれていた。


 その後、メメとオルタの問題はなんとか解決。

 人間関係も破綻するようなことはなかった。


 それからだろうか。私はオルタが気になっていた。


 そこへきて、オルタから配信中にコメントをもらった。

 つい太客でもスパチャでもないのに、反応してしまった。


 配信後はオルタのSNSをフォローした。するとすぐに向こうからもフォローバックをしてくれた。


 意外にも世間はこれだけのことでざわついた。

 四皇のキセキカナウがオルタとコンタクトを取ったと。

 別にSNSをフォローしただけなのに。

 些細なことで騒がないでもらいたい。


『それは無理な話だよー』


 Vtuberの無二丸にそんなことを言われた。


「なんでよ?」


 分かってはいるが、それでも疑念を言う。


『お前は四皇の1人なんだから』


 四皇。人気のあるVtuberを指す言葉。誰が言い始めたかは不明。いつの間にか私はその四皇に当てはめられてしまった。


 それだけ認知されているということであり嬉しい反面、少し窮屈に感じるようになった。


 それに人気なれば昔のように──。


『どうした?』

「ごめん。ちょっと考え事」

『そう深く考える必要はないよ。肩の力を抜いて自由にやりな』

「…………」


 こいつ。


、自由にすると周りがはしゃぐんでしょ!」

『そうだった、そうだった』

「まったく」


 私は呆れて溜め息をつく。


『その赤羽メメ・オルタとはあれからどうなの?』

「何もない」

『おいおい、それ大丈夫か?』

「分かってるわよ。でも、相手はちゃんとしたVtuberでもないし、箱はペイベックスよ」


 ペイベックスは企業としては最大手。しかし箱としては中の上あたり。


 そして赤羽メメ・オルタは正式なVtuberではない。あくまで赤羽メメの別側面というキャラで魂はメメの姉。

 つまりVtuberの家族と仲良くなったということでもある。


 赤羽メメ本人はどう思ってるだろうか。自分ではなく、オルタが他のVtuberと仲良くなるのは。


 私はメメもフォローすべきか?

 しかし、そうなるとメメは周りから非難されるのではないか?


 オルタのおかげでおこぼれを貰ったと。


「どうするべきかな?」


 つい悩みが言葉として出てしまった。


『うーん? オルタは悪い人でもなさそうだし、試しにコラボでもしてみれば?』

「それだと今後、相互フォローになったら、コラボするみたいな空気にならない?」

『仕方ないよ。それはお前がフォロー……ごめん。忘れて』

「いいよ」


 なかなかフォローしない私が悪い。

 でもそれは、昔のようにならないようフォローを制限したから。だけどそれが逆に私が誰かをフォローすると周りが騒ぎ出した。


「……ま、ちょっとDMで会話してみるよ。コラボするかはその後で」

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