第75話 通話
佳奈とのやり取りの後で、私は瀬戸さんに電話をかけて、キセキカナウについて聞いてみた。
『ええっ!? 知らなかったの?』
「うん。私、あんまりVtuberのこと詳しくなくて」
まだVtuberの仕事をして半年も経っていない。
『
「そうなんだね。さっき佳奈にも言われたよ」
あと四天王とか裏四天王とか学んでおけって。
『知ってたからキセキカナウに近づいたんじゃないの?』
「そんなわけないじゃん。暇だからスマホでぶらぶらーとライブ一覧を見てたら、キセキカナウのライブが目に入っただけだよ」
『それで仲良くなったんだ。すごいね』
「ん? もしかして知ってる?」
会話から私とキセキカナウの件を知ってるようなそぶりが伺えた。
『ネットでちょっと話題になったよ。キセキカナウの配信に赤羽メメ・オルタがコメントを送り、それにキセキカナウが返事をした。さらに配信後にSNSをフォロー』
「そっか。話題にまでなってたのか」
『あのキセキカナウがフォローしたんだもん』
「そういえば、あまりフォローしない人らしいよね」
佳奈曰く、ペーメンでもフォローされているのは星屑ミカエルだけだとか。
『うん。前はそうでもなかったんだけど色々あってね』
「色々?」
『それも知らない?』
「名前も今日初めて知ったくらいだから」
『もー。キセキカナウはV界隈では超有名人だからね。知らないともぐりって言われるよ』
「それも佳奈に言われた」
『少しはV界隈……Vの歴史について勉強しといた方が良いよ』
瀬戸さんがどこか呆れたように忠告する。
「今、暇だしね。勉強しておくよ」
『そういえばコロナって聞いたけど』
「うん。そうだよ。あれ? 言ってなかった?」
記憶を手繰るとグループチャットでは言った。だけどそこには瀬戸さんや天野さん達の陽キャグループは含まれていない。
『聞いてないよ』
「ごめんごめん」
『SNSでオルタがコロナ感染って知ってびっくりしたよ』
「コロナといっても軽症だから」
『メメちゃんは?』
「佳奈は平気」
『メメちゃんにうつしては駄目だからね』
「分かってるよ」
『絶対だからね。絶対!』
瀬戸さんはメメの大ファンだからしつこく言う。
「瀬戸さん達は大丈夫? 誰かコロナに感染した人いる?」
『新以外は健康。でも、感染者増えるかも』
瀬戸さんは自嘲気味に言う。
「ん? どうして?」
『休みだからって、周りが外で遊んでばっかなの』
「ええー!?」
コロナ感染を増やさないために大学が休みになったのに。これだと本末転倒だね。
『ほんと、あいつら何やってんだか』
瀬戸さんが溜め息交じりに呟く。
「天野さんも遊びに?」
『うん。昨日、遊びに行ったって言ってる。しかも、その後で私を別の日に遊びに行こうって誘ってきた。マスクとソーシャルディスタンスを守れば平気と考えているんでしょうね』
◯
瀬戸さんとの通話後すぐにスマホが鳴った。
何か言い忘れでもあったのかとスマホ画面を見ると相手は瀬戸さんではなく、マネージャーの福原さんだった。
『もしもし、今は大丈夫ですか?』
「はい。どうかしましたか?」
『キセキカナウについてです』
福原さんもキセキカナウの件で連絡をしてくるとは。
『彼女と相互フォローしたとか?』
「ええ」
『配信のコメントがきっかけとか?』
「はい。そして配信後にフォローを受けて、こちらもフォローバックしました。問題でもありましたか?」
『いえいえ、むしろファインプレーですよ。まさかキセキカナウからフォローを受けるなんてペーメン内では星屑ミカエルに次いでのことですよ。すごいことですよ』
福原さんは明るい声音で言った。
「キセキさんはあまりフォローしない人なんですか?」
私がそう聞くと福原さんは複雑そうな声音を出した。
『今はそうですけど、昔は違ったんですよ』
「……昔。何かあったんですか?」
『昔は今と違って、Vtuberはあまり認知されてなかったんですよ。キセキカナウもかなり苦労していて、当時は相互フォローも普通だったんです。ですが……』
「ですが?」
『Vtuberが認知され始めるとキセキカナウの人気も上がったんです』
「それはコロナ禍の巣ごもり需要というやつですか?」
コロナ禍で外出が制限され、ネット通販やオンラインゲーム、ペット等が売れた。それでネット配信も流行ったとか。
『いえ、キセキカナウの人気が上がったのはそれの少し前です。人気が上がればどうなるかオルタの貴女ならお分かりですよね?』
その質問は私と同じようなことがあったということ。
自分の身の上で起こった出来事を考えると。
「周りからオファーを受けたりとか?」
『ええ。周りのVtuberは人気にあやかろうとキセキカナウにすり寄ってきたんです。それでコラボをしたり……』
そこで福原さんは一度言葉を止めた。
『キセキカナウは期待には
「それは……大変ですね」
『ええ。ネットではアンチも増えたり、リークも発生したり、デマも流れました』
「きついですね」
『だけど、それらを行ったのがフォローしていたVtuber』
「えっ!?」
『ショックだったでしょうね。仲の良かったと思ってたVからの裏切りですから。その後、心を病んだ彼女は一度お休みをしたんです。そして復帰して、その時にフォロー等は一度全てリセットしたんです。それからキセキカナウはあまりフォローをしないようになったようですね』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます