第74話 四皇
スマホから通信が鳴った。
SNSでキセキカナウからフォローをされたという通知だった。
Vtuberの仕事をしてから通知は鳴らないようにしていたが、なぜか今回は通知された。
私はSNSのアプリを開く。
むやみにフォローバックしてはいけないと福原さんに言われている。
特に個人勢は。
しかし、相手は登録者238万のVtuber。
それなら大丈夫かなと思って、私はキセキカナウをフォローバックする。
するとすぐにまた通知が鳴る。どうやら前に私がコロナの件をポストしたコメントにキセキカナウがリプライをしたようだ。
『コロナか。大変だね。機会があったらコラボしよう』
それに私はリプライで返答する。
『そうですね』
◯
電子書籍の続きを読んでいた。
するとドタバタと階段を駆け上がる音が聞こえた。そしてノックもなし私の部屋のドアが開けられた。
「ちょっとお姉ちゃん! これはどういうことよ!」
佳奈はずかずかと部屋に入ってきて、スマホを私に向ける。顔がすごく険しい。
(なんだ?)
私はベッドから起き上がり、佳奈のスマホを見る。
スマホ画面は私とキセキカナウのSNSのやり取り。やり取りといっても社交辞令。
「これが何? というか私はコロナ感染中だから部屋に入ってきては駄目だよ」
「あっ、そっか」
そう言って佳奈は半歩下がるが、すぐに「で、どういうこと? 説明して!」と前に出る。
「キセキカナウにフォローされたからフォローバックして、その後にリプライがきた。それだけ」
「それだけって、あのね。SNSや掲示板とかで調べたらお姉ちゃんがキセキカナウの配信にコメントを残したって書いてるよ」
「よくもまあ、そこまで調べるわね」
「エゴサとか当たり前よ」
「そんなことしてたら心が壊れるよ」
エゴサは基本悪口。
だからエゴサはしない方が良いと聞く。
「今はどうでもいい。なんで相互しているかということよ」
「別にお互いがフォローし合ってまずい? まあ、むやみにフォローバックしてはいけないって言われてるけど、相手は登録者238万のVtuberでしょ? 皆やるでしょ? 佳奈だってフォローとかするでしょ?」
佳奈は黙った。そして首を静かに振って、
「……私はフォローされてない」
まずいなと感じた。
前に私だけ人気が出て、佳奈が苦しんだことがあった。
まさかそれが再び?
「皆、フォローバックはされてない」
けれど、思いもよらない形となった。
「え?」
「うちのペイベックスVtuberでキセキカナウにフォローバックされているのはお姉ちゃんと1期生の星屑ミカエルだけなんだよ」
「そうなの? 星空みはり先輩とかは?」
星空みはりはペイベックス初のVtuberで人気ナンバーワン。
「みはり先輩でもフォローバックされてない」
「そんなにすごい人なの?」
「
「歯垢? 歯のやつ?」
私は歯を指して聞く。
「違う。つまんないボケはやめて」
結構本気で聞いたんだけどな。
「漢字でどう書くの?」
「漢数字の『四』に天皇の『皇』で『四皇』」
「それなら四天王でよくない?」
「四天王もあるよ。Vtuber四天王。それと裏四天王もね」
「ならどうして四皇なんてものがあるの?」
四天王があるのにわざわざ作る必要もないはず。
「それは四天王や裏四天王は
つまり新しい四天王ということか。
「それで四皇は現在最も人気のある四人のVtuberを指すの。その中でキセキカナウはVtuber黎明期からの古参。発言権もあり、皆から注目されているVtuberよ。キセキカナウがプレイしたゲームは
佳奈が熱く語る。
もしかしてファンか?
「黎明期? 四天王も黎明期だよね?」
「うん。当時はキセキカナウも底辺Vtuberだったからね。同接が一桁台でも普通だったらしいよ」
「一桁。それはなんとも……」
「辛いよね。それでもキセキカナウは辞めずに今でも続けているんだよ」
佳奈は深く何度も頷く。
「それゆえキセキカナウを知らない人はモグリと呼ばれているわ」
「じゃあ、私はモグリか」
その発言に佳奈は眉と目を伏せる。さらに溜め息をつく。
「少しは勉強をして。他のVtuberとかも知ってよ」
「ごめんね」
「……まあ、いいわ。お姉ちゃんはこの前までパンピーだったもんね」
「ちなみにその四皇にペーメンは誰が入ってるの?」
「いないよ」
「えっ?」
「ペーメンは一人もその四皇には入ってない」
「星空みはり先輩とか、もしくはその星屑ミカエルとか入ってるんじゃ……」
星空みはり先輩はペーメン
先程、佳奈の口から星屑ミカエルは1期生でキセキカナウとフォローし合う仲。
「入ってない。うちのダブルスターは四皇に入ってない」
「ダブルスター?」
「星空と星屑は両方『星』があるでしょ。それでダブルスターなの」
「なるほど」
「そういうこと。四皇は本当に雲の上の存在なの」
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