第73話 自室待機

「……暇だ」


 コロナになってから部屋に籠り始めて3日目。私は暇を持て遊んでいた。大学も全学部臨時休校のため出席の心配はいらない。


 が、これといってやることまなくベッドの上でゴロゴロしていた。

 ふと軽症だから配信は平気なのではと考えた。けれど、すぐに喉が痛いことを思い出し、配信は駄目だなと決めた。


 周りは何をしているのか気になり、私はグールプチャットにメッセージを送る。


『今、何してる?』


 しばらくして、豆田から『本読んでる』とメッセージが届く。


『漫画? 小説』

『小説読んでる。あんたは?』

『暇してる』

『一昨日、電子書籍でミステリー小説買ったでしょ? もう読んだの?』

『ううん。まだ』

『本でも読んでじっと療養してなさい』


 メッセージのやり取りの後、私は言われた通り、スマホで購入した電子書籍を読み始める。


 もともと私は紙媒体で本を読むタイプのため、今まで電子書籍は遠慮していたが、此度コロナに感染し、外出出来ない私は電子書籍を購入したのだ。


 買った書籍は海外のミステリー小説で20年ほど前に大ベストセラーとなった作品。上下巻で合計800ページもある大ボリューム。


 映画化もされ、私もタイトルは聞いたことがあり、いつかは読んでみたいと思っていた。

 それでフェアで値引きにされていて、これを機に私は読んでみることにした──しかし、残念なことに正直言ってつまらなかった。


 表紙裏に書かれているあらすじまでストーリーが進むのに150ページもかかり、そこからさらに登場人物の掘り下げが続いていた。


(さすがにそろそろ事件解決のためストーリーは動くかな?)


  ◯


 そして私は根気よくページを進めて、250ページ目まで読んだ。


 けれど今だに事件解決の糸口は見つからず、ストーリーは社会問題でぐだぐだだった。

 これはミステリーの名を使った説教くさい社会派文学なのかとさえ思われたくらい。


 私は読むのをやめて、動画アプリを起動。

 誰かゲーム実況配信してないかと調べた。


 昼時とあってか配信は少なかった。

 主に個人勢やEN勢の配信が多かった。


 そのEN勢の中でペイベックスVtuberを見つけた。


「へえ。うちにもEN勢ってあるんだ」


 EN勢はアメリカやオーストラリアで活動しているVtuberのこと。

 中の人も現地の人で、配信も英語で行われている。


 試しに配信を見てみる。


「……英語判わからねー」


 小学生から今まで英語を勉強をしているが、まったく聞き取れなかった。


 ネイティブの発音は本当に私達の習う英語かと疑うくらい全然違う。

 オッケーとイエスとノーしか判らない。


「ま、日本の英語って、発音は二の次で構文中心だもんなー」


 EN勢の配信を閉じて他のVtuberがやっている配信を探す。


 ライブ一覧からサムネイル、V名、タイトルなどを見て、配信を探す。

 その中で面白そうなサムネを見つけた。さらに驚いたことにその配信は圧倒的な同接数を誇っていた。


「3万!」


 休日でも、人の多い時間帯でもないのに3万はすごい。


「キセキ……カナウ」


 奇跡叶うからきているのかな?


 サムネイルには紺碧色のショートヘアー、勝ち気な笑みの女の子が描かれていた。


 ゲームタイトルは『アヴァロン』。サムネイル内のキャラが剣と盾を持ってるからファンタジー作品なのだろう。


 それにしてもどこのVtuberだろうか。サムネイルをタップして、配信ページに移動。


 ゲーム実況は終わっていて、雑談に入っていた。


 私は詳細欄からキセキカナウが個人勢と知った。


 さらにチャンネル登録者数が238万というのも知って驚いた。


「238万! えっ!? 活動開始時が……2016年!」


 そんな前から活動している人なんだ。


 というかVtuberってそんな前からあったの?

 数年前に生まれたものと思っていた。


 今、雑談では最近、通販の配達が遅いことを話していた。


『本当に全然、届かないの! 早く新刊が読みたのにさ!』


 コメント欄も【確かに】とか【遅い】とか【ドライバー不足が原因かな?】というコメントが多かった。


 私も配達が遅いことにおかしいと感じていたのでコメントを送る。


 オルタ:【私もそう思います。ですので私は電子書籍の本を買いました】


『おや? 電子書籍派? 最近、多いなー。確かに電子書籍は速くて便利で嵩張らない。資源にも優しいしね。でも、私は本派だなー』


 するとコメント欄も【本派】、【電子書籍派】、【両方】というコメントが溢れた。


 オルタ:【私も本派です。ただ今はコロナ感染中なので、外出が出来ず、仕方なく電子書籍に】


『あらら、コロナか。最近流行ってるもんね。お大事にね』


(あれ? もしかして私のコメント読まれてる?)


『どんな本読んでる?』


 試しに私は電子書籍のタイトルを書き込む。


『それ、昔、流行はやってたやつ。へえ、上巻読んでんだ。皆、ネタバレ禁止だからね。念の為にオルタもなるべくコメントを見てはいけないよ』


 やはりだ。キセキカナウは私のコメントを読んでくれている。


  ◯


 その後、私はキセキカナウの雑談を視聴して、時にはコメントを送ったりもした。

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