第72話 代打

 夜、Vtuber勝浦卍こと松任谷美菜からスマホに通話がきた。


『もしもし。今、大丈夫?』

「大丈夫だよ。どうしたの?」

『代打の件だけど、相手から了承を得たよ』


 代打。それは猫泉ヤクモとのコラボの件。私がヤクモとコラボをする予定だったが、私がコロナに罹ったため別の方が代打として担当することになった。そしてその代打の件で卍が心当たりがあるということで頼んでいたのだ。


「そうなんだ。で、代打って誰?」

『なんとびっくり。涼子だよ』


 涼子とはペイベックスVtuber4期生の銀羊カロのことである。


「えっ!? 涼子? どうして?」

『コロナ感染は涼子経由だからね』

「確定はしてないでしょ?」

『でも、順番と接触から涼子が有力でしょ?』

「まあ、そうだけどさ。……というかヤクモは6期生だよ」


 涼子ことカロは6期生に対して嫌ってはいないが、警戒して距離を取っている。

 その涼子が6期生のヤクモとオフコラボするとは考え難い。


『大丈夫だよ。この前、ヤクモはみはりとコラボしたんだし』

「そう?」

『そうだよ。もともと涼子はミーハーで、星空みはりの大ファンなんだよ』


 それは以前のカラオケで聞いた。涼子は星空みはりの大ファンゆえに以前のデマで星空みはりが被害に遭ったことで憤慨している。そしてその原因が元6期生の溝端ミャオで、6期生が関わっているということで現6期生に対しても警戒しているのだ。


『だからさ、ヤクモとみはりのコラボは、みはり自身がもう前のことは水に流したという意思表示なんだよ』

「あー、そういうことね」


 星空みはりが仲良くしたんだから、みはりのファンである自分がコラボ相手を蔑ろにはできないということか。


「ヤクモには涼子が代打になったことはもう伝えたの?」

『ううん。その件は涼子から伝えると思うよ』


  ◯


 美菜との通話後、私は猫泉ヤクモこと朝霧さんに連絡した。


「あ、もしもし。次のオフコラボの代打の件ですけど、相手の方から連絡きましたか?」

『うん。きた! びっくり。カロ先輩なの!』


 朝霧さんは動揺していた。

 それもそうだよね。


 6期生を警戒しているカロが代打になったんだもん。


「そうなんです。今回の件、カロが感染源かもしれないとかで、カロに代打の話が回ったようです」

『で、で、でも、大丈夫かな? 私、6期生なんだけど……』

「この前、星空みはりとコラボしたではないですか」


 私は美菜から聞いた話を朝霧さんに語る。


『な、なるほど。それで』

「涼……カロから連絡が来たんでしょ? 嫌がってなかったでしょ?」

『う、うん。普通だったと思う』

「なら大丈夫だよ」

『そ、そう?』

「一応、私の方からもカロに連絡するね」

『うん』


  ◯


 次に私は銀羊カロこと涼子に連絡を入れた。


「もしもし。代打の件、聞いたよ。ありがとうね。引き受けてくれて」


 まずは代打のお礼を述べた。


『大丈夫だよ。というかコロナの件、私のせいでごめんね』

「別に涼子のせいではないよ。だからそれは気にしないで」

『そう? でも、アメージャもメテオをも感染しちゃったしさ』

「それを言ったら涼子にコロナをうつした人が悪いでしょ? そういうこと言ってたらキリがないよ」


 悪いのは人ではなく、コロナウイルス。感染したからといって、人を憎んだり排斥してはいけない。


『ありがと。そう言ってくれると助かるわ』

「それより、ヤクモとのコラボよろしくね」

『任せて。ホラゲーでしょ? 得意得意!』

「タイトルはワラビアナ。プレイしたことある?」

『ん〜、聞いたことはあるけど、まだやってない』

「それはよかった。楽しんできてね」

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